これはいわゆる幼馴染みって奴では?
全速疾走を終えた俺たちを校門で待ち構えていたのは、生徒会の副会長・水無和葉だった。
今日も笑顔なのがかわいい。
生徒会特有の真面目さを感じさせない、緩やかにウェーブのかかった髪と、切り詰めた短いスカート。それから、服の上からでも分かるほど主張の激しい膨らみ。
これ以上ないくらいに魅力的な女子高生だろう。
ただ彼女の手にした日本刀を除いて。
……台無しですよ、和葉さん。
「今日はぁ、どぉーして遅れたのかなぁー?」
逆に完璧な笑顔なのが恐ろしいが、これが彼女の常套句なのである。
「オハッス、副会長。今日の朝は忙しかったンスよ」
と、ごまかす大輝に対して、
「おはよう。早く六魔の仕事してきなさいよぉ~」
と笑顔で返す和葉。
どうやら「六魔」と「生徒会」はつながりがあるらしい。
そんなことを思いながら、何食わぬ顔で大輝の後について行こうとしたら、目の前に日本刀が振り下ろされた。
「ッッ…、危なっ!! 危ないですよ、副会長さん!」
なにすんだよ、飛んでいった髪の毛が見えたじゃねぇか。
「なんで素通りするのよ、翔くん。それにその呼び方やめて」
と、不満そうな顔で和葉が言った。
六魔でもなく生徒会にも入っていない俺がなぜ彼女と親しいのかと言うと、単純に従兄弟同士だからである。
幼い頃から何度もあったことがあり、俺が武術を習ってきた傍らで、彼女は剣術を極めてきた。
黒崎家が武術。
水無家が剣術。
もっとわかりやすく言えば、ライバル家同士を想像するといい。
今更ながら彼女を紹介しよう。
彼女の名前は水無和葉。生徒会の副会長を務めるだけあって、勉強、異能力は共に優秀。
そんな彼女の異能は、『斬撃』。目に見える空間ならば、どこにでも自在に無数の刃を繰り出せるというかなり上位の異能。
成績優秀、容姿端麗。そんな絵に描いたような美少女だけれども……
「遅刻の罰として、放課後に生徒会の仕事手伝いなさいよぉ。」
……唯一の欠点とも言えるのがドSなんだよなぁ。いと悲し。
「意味が分からないぞ、和葉さん。どうして俺が雑用しにゃならんのだよ」
「……。」
黙ったままそっぽを向く和葉。
「おーい、和葉さん聞いてる?」
「……。」
「……。」
どうやらあれですね。呼び方が気にくわないんですね。ツーンとそっぽを向いたまま、俺の顔すら見ない和葉。
しかたねぇ……
「和ねぇ?」
「なぁに、翔くん?」
とびきりの笑顔付きである。
いつも通りの笑顔を見せるが、今のは心の底からの笑顔なんだろうな。
「んで、なんで俺が雑用するんだ?」
と問い詰めようとすると、すぐに答えが返ってきた。
「今回でぇ、通算157回目の遅刻でぇす。その翔くんの罪をもみ消しているのは、誰でしょぉうかぁ?」
「…………」
俺はすかさず必殺技を繰り出した。
必殺、「土下座」!!
ハハッ、ぷらいど? ナニソレおいしいの?
そんなことより、遅刻の回数を数えているあたりが恐ろしいよね。157回目だってよ、凄くね俺。
「て、手伝うよ。いや、手伝わさせてください」
「よろしい。それじゃあ放課後に待ってるわぁ。逃げたらぁどうなるか分かってるわよねぇ」
ニッコリ笑ったまま再び日本刀を手にし始めたので、俺はすぐにその場から逃げ出した。
やっぱり逃げるが勝ちだな。そう確信する。
だが、最後に和葉がぼそりと言った、
「放課後の密室で、翔くんと二人きりだなんて……! 素晴らしいわぁ~」
という独り言は聞かなかったことにしたい。というか、他の役員もいるはずだろ。
だ、だから、二人きりじゃないよなッ。たぶん。きっと。
読んでくれてありがとうございます。