ここからが正念場
この学園には地下に特別訓練施設なるものが存在する。
通称『T I S』。
学園生たちにそう呼ばれ、利用する生徒は数知れず。そして、いつか誰かがこう言った。
『T I S』は戦闘科の聖地だ、と───。
戦闘科の学園生のみが使用することを許されたこの場所は、いわば俺たちのプライドを権化したかのようである。
また模擬授業だけでなく、「太陽祭」などでも使われており、人がいない方が珍しいレベル。
休憩スペース、模擬訓練場、トレーニング室の3区から構成され、かなりの広さを誇る。
確か、東京ドーム●●個分だとか、ね。
太陽の光が入らないため、人工の光が俺たちを照らしていた。
あのあと、騒ぎ続ける野次馬たちから逃れた者はいいものの、なぜか大輝からは撒くことはできなかった。チッ……。
しかも今度は隣に美鈴ちゃんを連れてきている。
本当にコイツは神出鬼没だなぁ、おい!
なんて感心していると、大輝が突然手を叩いて言った。
「んじゃあ、そろそろ決闘始めますかぁ?」
お前が言うな。そもそもお前のせいでこうなったんだろ。分かってんのか?
「ああ、実況は私、雨坂大輝がお送りします」
誰に言ってるんだ、コイツは。
「兄さん、そろそろ黙ってください」
俺の気持ちを察してくれたのか、美鈴ちゃんが嗜めてくれる。
「なんだよ。ちゃんと心配しなくても、美鈴には解説をやってもらうからナ」
バシッと、片目を瞑ってウインク。
あー、キモいキモい。やめてくれない、俺の方向かないで。というか、妹にそれやるの恥ずかしくないの?
「そうじゃありません。決闘はお二人がやるんですから、兄さんはあまり出しゃばらないでください」
そうだそうだもっと言ってやれ。てかちょっと待って。美鈴ちゃんが少し切れ気味に見えるんだけど。めっさ睨んどるがな。
あーー、蹴っとる、蹴っとる。アハハハハ。
**
そんなこんなで、俺は二人を無視してゲートに向かった。
ゲートポイントに学園証をかざすと、ピッと機械音が鳴る。
確か、この学園証をかざすことで、勝敗 の手続きだったかなんかを自動でやってくれるんだとか。
ゲートをくぐると、如月は既に腕組みした状態で待っていた。
「さあ。ここなら誰にも邪魔されないわよ」
わあーお。かなりの自信でっせ。自分が負けるとか考えてないのかしらん。
「足下見てると救われるぞ」
「お生憎様。あたしは相手を舐めたりしないわ。ちゃんと実力を計ってるわよ」
その割には、よく見下してるって(噂で)聞くんだけどなぁ………。
会話もそこそこに切り上げる。
如月は既に集中しているのか、目を閉じていた。
壁に設置された小型スピーカーから無機質な音声が流れてくる。
【只今から、Aクラス如月沙綾 対 Dクラス黒崎翔太の決闘を始めます。試合時間は一時間。勝敗は一方が気絶した時点か、敗北を認めた時点で決着とします】
よし、ここからが正念場だ。『六魔』に入るために。
覚悟を決めろ。
俺は何度も亡き母との約束を反芻する。
ピイイイイ――――――――――――――――――――。
耳をつんざくような甲高い音が鳴り響いた。
さぁ、試合開始だ。