ようやく異能バトル開始!?
時計の短針は4の数字を少し過ぎ、午前中に感じられた灼熱の暑さもどこか薄れ始めていた。
鳥の囀りさえ聞こえないのに、静寂に包まれるどころか、学園生の喧騒だけがグラウンドに指す二つの影を取り囲む。
「…………ねえ」
「なんだよ」
暑さでイライラしているのか、俺と如月の会話は短く、どこか冷たい。
「……なんなの、この野次馬?」
「………………」
俺に聞かれても。ねぇ。
対面している俺達を囲んでいるのは、決闘を見ようと集まった野次馬たちだった。
実際、俺にはなんでこうなっているのか分からなかった。桜羅以外には決闘の話をしていないし、如月もそんな言いふらすような奴には見えない。
すると、一体だれが?
……え、本当に誰なの?
マジで分かんないんだけど。
多くの学園生は決闘を見ることはあっても、実際にやる人はほんの一握りなのだ。
理由は単純。
決闘のルールの一つに、勝者が敗者に課すことができる『お願い』が存在するから。
条件は無制限な上に、その内容は絶対遵守される。
ちょうど1年前に俺が武術を失ったように、な。
武術を失ったその日、俺は何度も試してみたが全くダメだった。
体を動かそうとしても頭で意識した瞬間に、鎖で拘束されたかのように体が凍り付く。
あの日からか……。俺が普通の人間になったのは。常人よりかは計算ができる、だけど。
そんな俺の追想を遮ったのは、ギャラリーの中でも一際大きい声だった。
……っていうか、今の声って……。
「一口千円なー。オッズは翔太が七倍、如月さんが……」
あのクソ野郎!! やっぱり大輝じゃねぇか!
「おい、大輝! お前ここで何してんの!?」
「おおー、翔太。決闘頑張れよ! 今のところお前の方が賭け金意外と多いんだぜ」
「ああ、ありが………じゃねえよ !ま、まさか野次馬集めたのお前か!?」
あと意外とって失礼な奴だな、おい。
「ご名答。もしお前が如月さんに勝ったら、大ニュースになっちゃうだろ?」
ちゃんと皆に見てもらわなくちゃなー、と一人でうんうん頷いている。コ、コイツめ……。
俺が思わず大輝を殴りに行こうとした時、先の件の声が引き留めた。
「ねぇ、ちょっと」
「………悪い悪い。そうだな、もう始めるか」
指や首をポキポキと鳴らし、決闘の準備が出来ていることを知らせる。
さて、いっちょやるか。
そう思い、武術特有の構えを見せてやる。
「…………。場所、変えない?」
………。…………………………………。
「で、ですよねーーー」
知ってました。知ってましたとも。
この状況で決闘始まるわけないよね。ふつう。