決闘の前のボルテージ
思わず、ハァとため息が出てしまう。重い。とにかく空気が重い。まるで肩に鉛が乗ったように。
とりあえず、今はこの返してもらった鍵で手錠を開けるか……。
「桜羅、頼む」
俺が鍵を渡して両手を差し出すと、桜羅は笑って手錠を解いてくれた。
ふう。今度は安堵のため息が漏れてくる。と同時に、俺は桜羅がさっき何かを言いかけていたのを思い出してその旨を聞いた。
すると桜羅はジトーッとした目を俺に向けてくる。そんな視線から逃れるために、俺は窓の外に目線を流した。
「如月さんはね、」
しばしの沈黙。
「決闘に勝つためには何でもするんだって。相手が叩き潰されてびしゃ泣きするまで戦うんだって。」
だからこその無敗なんだよ、と続ける桜羅の声はもう俺の耳に届かない。
俺はショックで机に突っ伏した。
というか、びしゃ泣きってなんだよ。怖いんだけど。
再度窓を見やる。コツコツと小さな雨粒がガラス窓を振るわせる。
ああ、決闘が面倒くさくなってきたぜ。
流れて無くならないかなぁ……。雨だけに!なんつって。
ボケるのが性に合わない位には現実逃避するのだった。
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残りの昼休みを机に突っ伏していた俺に、桜羅が一際大きな声で話しかけてきた。
「それじゃあ、僕の異能『予知』で決闘がどうなるか見てあげようか?」
この言葉を聞いた瞬間、俺は自分でも分からないほどの高揚感を覚え、
「いや、それだけはいいや」
と、短く返す。
「本当に翔太は予知を嫌うね。僕は異能が使えなくてちょっと寂しいよ」
どうしてだい?と尋ねるかのような顔を見せる桜羅。
「未来が決まってたら面白くないだろ?決まった未来でも変えることが出来るなんて言う人もいるけど、俺はそうは思わない。未来って奴が未確定だからこそ、今なんでも自由に出来るんじゃないかってな。それに桜羅の予知は不変だったろ?」
それだとつまらない、そう告げてやる。
桜羅は優しい笑みを浮かべると、翔太らしいねと口にした。