新章に入るのはキャラを出し切ってからです(常識その3)
その時、ガラッと大きな音を立てて誰かが教室のドアを蹴破って入ってきた。
……というか如月だった。
クラスの皆の視線を集めているにもかかわらず、それを気にした様子も見せずに、誰かを捜すかの如くキョロキョロと頭を左右に振る。
やがて俺と目が合うと、真っ直ぐ俺の方に歩いてきた。なんだよ。なんでそんな嬉しそうに笑ってるんだよ。
なんだなんだ。
あれ、確か『氷壁の魔女』だよね?
なんでそんなスゲーやつがここに?
知らないわよ。
そんなみんなの声で騒がしいはずの教室でも、如月の声だけははっきりと聞こえてきた。
「捜したわよ、もう」
コレ返すわ、そう言って俺に放り投げたものはあの因縁の手錠の鍵だった。
「遅えええええええええよおおおお!!! これむっちゃ大事なやつじゃねぇかッ!!」
周囲への配慮すら忘れ、教室に響き渡る声を出してしまった。クソ、恥ずかしいな……。注目を浴びるのは嫌だというのに……。
「だってあんたのクラス分かんなかったんだもん! これでも放課後までには返そうと思って頑張ったんだからっ!」
涙目で切れられてしまった。
何でだよ……。
普通怒るのは俺だよね? おかしくない?
というかあの時、俺はクラス行ったよな?Dクラスだって!!
あーー釈然としねぇ。
そんな俺と如月の会話が聞こえたのか、再びクラスメイト達が騒ぎ始める。
え、何で如月さんとあんな男が会話してるの?
てか、手錠ってなんだ?
冴えない男が如月さんを誑かしたんじゃあ……。
最低だな。
羨ましいですはあはあ。
もうなぜか俺が悪者扱いの空気である。
俺への誹謗中傷しか聞こえてこない。というか、皆さん言い過ぎですよ? もう泣いちゃうゾ☆
あ、最後の奴については言及しないからな。クラスに変態がいるとは思いたくない……。
「それじゃあね。放課後の約束、忘れないでよ」
短いひと言を残し、足早に去って行く。
嵐のように去って行った代わりに、奴はどでかい爆弾を残した。
「きゃあー、放課後のヤクソクだってえー!!」
「デートかしら?デートかしら!」
「おい、後で見に行こうぜ!放課後暇だろ?」
「裏山死。裏山死。裏山死。裏山死」
如月の残した意味深な発現は皆の誤解を加速させていく。女子からは黄色い声援(?)を。男子からは怨恨の混じった呪詛を。
ったく。面白いことなんかねぇよ。
何でこーなっちゃたかねぇ……。
誰に向けたわけでもない呟きが一人漏れた。
ご感想・ご意見お待ちしてます。