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名刀「御膳白雪」


 海上で神月(こうづき)と男が対峙する。向こうは刃渡り十センチくらいのナイフに対して、こっちは真剣だ。獲物のリーチを考えれば有利なのはこちらだろう。


 俺は神月の後ろから様子を窺った。


 それに向こうの能力は攻撃的なものではない。それに対して、神月の能力は……。あれ、まだ俺聞いたことないな。きっとうまいこと闘える感じの能力なのだろう。それと組み合わせて剣を使うタイプか。


 戦闘時だというのにどこかわくわくしている自分がいた。


 神月はすっと銀色に光る刀身を男へと向けた。


打刀(うちがたな)か?」


 集中している神月に声をかけるのはまずいかと思ったが、思わず口にしていた。だが、神月は相手を見据えたまま振り返ることなく返事をくれた。


「よく知っているな」


「いや、和葉さんから小さいころにな」


 従姉弟である俺と瑞葉さんは、家がそれぞれ道場を開いている。俺が武術を習ってきた傍らで和葉さんは剣術を習ってきた。よく勝手に相手を組まされて、竹刀を振るう和葉さんを格闘技で相手どったものだ。


 初めて日本刀を手にした時の和葉さんの嬉々とした表情はよく思い出せる。嬉しそうに知識を語ってくれたおかげで、今の俺にも少しならわかる。


「くっ……本当に貴様は羨ましいな。今すぐにでも切り捨ててやりたいくらいだ」


「おい待てっ! 早まるな! 私情で敵と味方を混同するんじゃないっ!!」


 何かと闘うように己を律する神月。


「この刀は私が訓練でよく使っていたものだ。和葉様みたいにいつでも帯刀を許可されているわけではないから、預かっていたものを申請して持ってきた」


 なるほど。俺は武器類を創造できるが、能力で生み出してない武器を所有する学園生は、生徒会側が管理するってわけか。確かに治安的にもそれがいいわな。


 逆にそれが許可されている和葉さんが特例過ぎるんだ。


「対歩戦闘を極限まで高めた名刀、『御膳白雪(ごぜんしらゆき)』。とくと味わうがいい」


 日本刀を正眼にかまえた神月は一歩にじみよる。その威圧さは直接受けていない俺にまでひしひしと伝わってくる。


 すぅっと息を吸う音が聞こえたかと思うと、一気に神月は距離を詰めた。


 剣を振るう。荒々しい猛攻かと思いきや、その一つ一つに型があるようで洗練されていて一切の無駄がないように感じた。いろいろな方向から切りかかるも、それを男はナイフ一つで防いでいく。


 耳に響く高い嫌な音が聞こえる。日本刀がナイフに弾かれるたびに、キンッという音が周囲に広がる。


「く、そ……。なんだ、こいつ!? 早ええ!」


 男の苦戦する声が漏れ出る。


 最初は余裕そうに神月の攻撃を流していたものの、だんだん受けきれない数が増え、体のあちこちが出血していた。


「ふん、ふん、ふん、ふんっ! フンッ!!」


 神月の方は無言で剣を振り続ける。そのスピードはまさに異常だった。剣の残像ができるくらいに、その攻撃は加速していく。


 呼吸音だけがその高音に交じり、神月はやめることなく男を切り刻んでいく。


「くそったれがああ!!」


 神月の攻撃に耐えきれなかったのか、男は急にナイフを投げつけて無理やり間合いを取ろうとした。そのかいあってか、警戒して神月は華麗なバックステップでナイフを交わし、二人の距離が離れた。


 誰にも当たることのなかったナイフはカランと音を立てて、俺の足元へと転がってきた。


「神月流・五月雨憑(さみだれつき)。堪能したか?」


「はあ、はあ、はあ……」


 あれだけ攻撃していながらほとんど呼吸が乱れていない神月の質問に、男は息が上がっていて応えることができずにいた。


 このまま押し切って勝つのか、そう思っていたが決着は割と早かった。男の方が先に限界を迎え、ぐはぁっと吐血しながら膝から倒れる。


 武器を失った男は日本刀を受け流せずにまともに切られてしまった。どくどくと止めどなく血が流れていく。気絶したのか、もしくは……死んでしまったのか、ぴくりとも動かなくなってしまった。


 神月は男を一瞥すると、日本刀を鞘へと収める。そしてゆっくりと男の傍により、右手をつかんだ。どうやら脈を図っているらしい。


「うん、大丈夫だ。脈はある。気絶しているが出血がひどいな」


 冷静な診察を告げると、懐から白い何かを取り出した。


「おい、なにしてんだ?」


 離れていた俺も駆け寄り、神月が何をするのか見守る。驚いたことに、神月が手にしていたのは包帯だった。手慣れた仕草で男の出血がひどい部分を包帯で巻いていき、応急処置を施してやる。


「おいおい、敵だぞ? そこまでしてやる義務は――」


 俺が言い終わらないうちに、神月が言葉を返す。


「私が傷つけたのだからその処置は私がやるべきだ。なによりあのままでは死ぬだろう、後味が悪い」


 目を伏せて男の方を眺める神月。俺はそれに返せなかった。


「とりあえず、こいつの『認知(コグニッション)』は解けたみたいだな」


 かすかに聞こえてきた叫び声や爆発音に耳をやり、俺は神月に知らせる。


「行くぞ、黒崎。すぐにでも和葉様を救援せねば」


「ああ」


 俺たちは男が立っていた倉庫への扉を開けて中に踏み込んだ。

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