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親衛隊の精神


 和葉(かずは)さんの親衛隊との接触に成功した俺は、さっそく小さくなっている見た目を利用して協力をこじつけようとしていた。


「さぁ、なんでも話したまえ!」


「えっと……」


 腕を広げて受け止めようとする構えをするリーダーに若干引いてしまう。いや、警戒されてないというのはありがたいことなんだが、こうして逆に受け止められると、騙しているという事実を考えた時に少し胸が痛む。


 とりあえず当たり障りのない話から振るか。少しでも早く和葉さんを助けに行きたいところだが、こいつらに話を断られては元も子もない。


「あの、和葉おねーちゃんのことなんだけど……」


「むっ!!」


「いま、なんと……?」


 親衛隊の目がきらりと光った。


 しまった、いきなりすぎたか。直接名前を出すのは、こいつらにとっては危険なワードなのかっ!?


「少年、君はもしかして……」


 まずいぞ。和葉さんとの関係性を疑われて俺の正体がばれたら、また倉庫でリンチに遭う可能性もある。そんなことに時間を割いている場合じゃないんだ。どうにかして……。


 リーダーの大きな手が俺へと向かって延びてくる。思わずぎゅっと目をつぶってしまい、身を縮こまらせた。そして次の瞬間、


「そうか、もしや君は和葉様の弟君かっ! なるほどなるほど、そうか、お姉さんを探していたんだな」


 俺の体は宙に浮いていた。正確に言うならば、リーダーが俺の体を持ち上げていた。まるで小さな子供をあやすように抱っこする形でだ。高いたかーい、なんて言おうものなら、完全にパパになる。


「え、いや、あの……」


 いや、待てよ。こうして勘違いしてくれたのなら都合がいいんじゃないか。あえて俺の方から招待をばらす必要もないんだし、こうして和葉さんの弟という立場を得てしまえば協力も得られやすいはずだ。


「そ、そう! お姉ちゃんを探してるの!」


 お姉ちゃん、という言葉を言うのには少し抵抗があるが、この際構ってられない。本人がいない場なら問題ない。


 ここは全力で弟を演じきって見せる!!


「ふむ、弟君がいたでありますか」


 メガネは顎に手を当てて、如何にも怪しんでますといった雰囲気を見せているが、リーダーに従う彼らの性格を考えれば、おそらく大丈夫だろう。


「では弟君よ、なにか困っているのだろう?」


 再度、リーダーが俺に聞いてくる。


 ここまでこればもう本題に入ってもいいだろう。親衛隊を名乗るこいつらなら和葉さんのために尽くしてきたはずだ。ならば俺への協力も断らないだろ! 


「お兄ちゃんたちにお願いがあるんだ。お姉ちゃんが今――」



              **


 俺は和葉さんの状況と六魔が動いているということを要約してわかりやすく伝えた。さすがに大会の裏で動いている敵の話はしなかった。


 あくまで一般生徒には伝えないようにと、仁さんから言われていたからだ。


 多くの情報を一度に話すことで混乱させてはいけないし、なにより和葉さんがピンチだという情報だけでこいつらには充分だった。


「それで、弟くん! 俺たちはどこに行けばいいんだっ!」


「今すぐ出陣でありまーす!」


 意気揚々と旗を挙げて、戦国時代の武将のように騒ぎ立てているメガネとブタ丸くん。


 その二人とは違ってリーダーの神月(こうづき)はいたって冷静な面立ちで、俺から詳しい話を聞こうとしていた。やはり子供の話だけでは信用性に欠けるせいか、どこか疑う部分もあるのだろう。


 そう簡単には騙させてくれないか。


 初めて出会った時にも思ったが、こいつはやっぱり強そうだ。鍛えられている肉体もそうだが、後ろで騒いでいる二人とは違って頭が切れる。こうして会話をしていても、言葉の節々にどこか俺を試すかのような言い方が見られた。


「ふむ、それじゃあその倉庫場に向かえばいいんだな」


「うん……」


 倉庫場がある学園の西部側は実質危険地帯と言ってもいい。校舎がある東部側は生徒会や六魔、防衛隊の自治管理が行き届いているため、あまり犯罪や生徒の暴走というものは起こりにくい。


 だがその分、西部では『断罪派(ギルティーズ)』に属する反・学園生徒によって支配されている。


 そこでは搾取・略奪・暴力といった行為が平然と行われているらしく、普段規則正しく生活している一般生徒が近づこうものなら無事に帰ってくることは難しいなんて噂もある。


 そんな危険なところに進んで行こうとはあまり思えないのだが……。


「よし、すぐに行こう。小型のチャーターを手配するのは任せてくれ。ちなみに免許証も携帯済みだ」


 この男は違った。


 何から何まで準備できる、と豪語した通りにそれをやってのけようとした。


「助けてくれるのか?」


 思わず子供の振りをしていることを忘れて、素の口調で聞いてしまった。


「当たり前だ。僕らはいつでも和葉様のために行動すると決めているからね」


 神月はかっこよくそう宣言した。


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