電話からの情報
医務室へ出て会場へと続く長い廊下を走りながら、俺はデバイスを起動させて大輝へと通話をつないだ。
三コール目で少し焦っているかのような男の声が聞こえた。
「ようやく戻ってきたか。体はどうなっている?」
どこか騒がしい場所にいるのか、雑音交じりの声だ。
「まだ呪いは解けてない。解けてたら和葉さんが特攻なんてしてないだろうが」
「悪い、愚問だったな……」
少し声のトーンが落ちた気がした。
「それより説明を頼む。俺はどうすりゃいいんだ? とりあえず合流するか?」
「ちびっこのお前に何ができるんだ? 黙ってそのまま待機しておけ。こういう時のために六魔がいるんだろうが」
「くそ、黙って見過ごせるわけねぇだろうが!!」
思わず声を荒げてしまう。
今の俺では確かに無力だ。頭数にもならないかもしれないが、状況は俺のせいで動いているかもしれないんだ。和葉さんが俺のために敵陣へと乗り込んでいったとしたら、それは俺の責任でもある。
そんな思いが体を駆け巡る。声にならないもどかしさで息が詰まる気分だった。
「雨坂くん、ちょうど今居場所が判明したそうだ。念のために全員に発信機をつけておいたのが功を奏したね。人員は足りているだろうから、今すぐに向かおう。場所は」
「あっーっと、なんですって? 仁さん!」
向こうで別の話をしている声が聞こえてくるが、途中で大輝の大声で遮られてしまう。
仁さんって確か、序列一位に人だったはずだ。今回の計画においては仁さんが基本的に敵と対峙するはずだったんだが、それを和葉さんが独断で行ってしまったという流れなのか。
遠くで聞こえる声を頼りに、頭の中で状況を組み立ててみる。
どうやら六魔の方も和葉さんの居場所を突き止めれずにその対応に困っていたらしい。その所を本部に帰ってきた仁さんが情報を提供したようだ。
事前にそういえば全員に発信機みたいなものをつけていたな。
俺もつけてもらっていたのを今更ながら思い出して、制服の腰辺りの留め具に手をかけた。戦闘時でも外れないようにと、かなり丈夫に作られており、一度ロックするとなかなか外せない代物だとか。
まぁ、それが今回は役に立ったということか。
「ちっ、しょうがないか……」
依然俺たちの通話はつながったままなので、向こうの声はかすかながらもまだ聞くことができていた。
集中して聞いている所に、そんな小さな声が聞こえてきたのだ。大輝の声だ。
「あー、あー、わかりましたよ、仁さん。以前俺たちが『幽霊の心臓』の一人と交戦したショッピングモールから西部へ向かえってか。今はもう使われていない倉庫場、ね。わかりましたよ」
わざとらしく張るような声。
俺に情報を伝えるかのような……。いや、まさか?
「急いでくれ、五分後に専用ルートを解放するとの通知を受けた。準備できた者から出動する」
どたどたと複数人の足音が聞こえる。
「あー。聞こえたか? 馬鹿野郎」
「……ああ」
「あくまでも俺の独り言だ。てめーを連れてきたら副会長に俺が怒られちまう。だから勝手にしろ。骨くらいはひろってやるさ」
「感謝したりねーよ、まじでありがとな」
「じゃあな、無事に会おうぜ」
大輝はそう言うと、俺の返事を聞かずにさっと通話を切ってしまった。
あくまでも自分の独り言で情報がたまたま漏れた。そういうことにしたいのだろう。俺に心配はしているものの、最後は好きにさせてくれたのだ。何がなんでも和葉さんを助けに行かないとな。
俺は和葉さんを助けに行くために、ある人物に会いに行くことを決めた。