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吉報と凶報①


 次に目が覚めた時には見知った天井とご対面した。


 意識ははっきりしているものの、まだ体が思うように動かすことができない。動かせるのはせいぜい指の先と首ぐらいだった。


 あれからどうなったんだっけか。試合に勝ったことは覚えている。湧き上がる歓声の中で、慌てた表情をしている如月の顔が見えたかと思うと、そのまま……。


 もしかしたら異能を限界寸前まで使い切ってしまったのか。それで昏睡していたのかもしれないな。


「おっ、気が付いたかい? ちびっこ君」


 耳に憶えのある声だ。


「その呼び方はやめてくれ……てか、まさか」


 少ししゃがれた声が出て、それが自分の声だということに数秒遅れて気が付いた。


「そのまさか、だね」


 そう言うと蓮華(れんげ)さんは座っていた椅子から跳ね上がるように立ち上がり、鼻歌交じりにてくてくと歩き出した。掃除用具が片付けられているロッカーの横にしまうように置かれていた、全身が映るくらいの大きな鏡をその小さな体で運んできてくれる。


「ふぅ、意外と重いねぇ。長い間ここから動かさなかったせいか、埃がたまっていたのか。うん、あとで片付けなくては」


 そんな独り言をぶつぶつと言いながらも、俺が寝ているベッドの横に置いてくれた。そして、俺が動けないのをわかっているらしく、かかっている薄手の布団をまくって俺の体を()()()()()()


「まじかよ……」


 俺の体が全身に映る。


 だがそれは俺が見慣れたものではなかった。ほんの一時前に、蓮華さんに会いに来たここで、体験していた体だ。


「ごめんねぇ、わたしの『原生(オブニチュロン)』もそれが限界だったのかなぁ」


「また、俺を能力で戻せないのか?」


「呪いをかけた本人の意識がはっきりしているうちは何度やっても無駄だと思うけどね。ただ……」


「ただ?」


 言葉に詰まったのか、蓮華さんは俺から視線を逸らしてどこか違うところを見ているような気がした。


 俺はただじっと待った。その言葉の続きに耳を傾ける。


「ただ……わたしの異能は二度目の使用は効果が薄いんだよ」


「それって?」


「一度直した怪我や異常は二度と直せないということさ。一人に一度しかこの能力は使えない。これがわたしの異能の制約だよ」


「一人一回、か……」


 ん、それだと前に俺の怪我を直せたのに今回戻せたのはどういうことだ?


 思ったことをそのまま聞いてみると、


「前回は怪我。今回は呪いの解除だからね」


 どうやら微妙に違うだけでも、効果はあるらしかった。


「ついでにいうなら、君の表面的な怪我は直せても内部に蓄積されたダメージまでは完璧に戻せない」


 がっかりしたようで、諦めているような顏だった。


 これまでに救えなかった奴でもいたのか。そんな誰かを思い浮かべているのか、どこか憂いに満ちた表情が目に留まり、急に胸が締め付けられる思いを感じた。


 部屋の中がどんよりして空気が重たくなったように感じ、そんな邪気を払いのけたくて俺は努めて明るい声で蓮華さんに声をかけた。


「まぁ、だったら俺はその呪いをかけたやつをぶっ倒しに行けばいいわけだな! 俺がこんな体でも大輝(だいき)和葉(かずは)さんがいるから、すぐ元に戻るさ」


 本当にそう思った。


 別に蓮華さんに恩を感じているから、励ますようなことを特別したかったわけじゃない。そんな応援めいた言葉をかけても彼女の心が晴れるかなんてわからなかったし、俺もそんなことで満足したくなかった。


「そう言ってもらえると助かるよ」


 ふふっと笑みをこぼして心に溜めていた何かを吐き出すように、蓮華さんはふぅっと大きな深呼吸をした。


 気持ちを切り替えることができたのか、さっきまでの感じでまた俺に話しかけてきてくれる。


「そういえば」


「なんだ?」


「黒崎くんをさっき運んでくれた雨坂(あまさか)くんからの伝言があるんだよ」


 なんだよ、あいつ来てたのか。もしかして俺が寝ているのに気を遣って出ていったのか。まぁ、あいつにも仕事や自分の試合があるからな。別に俺の用事に縛り付けてしまうのも悪いか。


「なんて言ってたんだ?」


 俺がその内容を聞くと、なぜか蓮華さんはあさっての方向に視線を動かして、頬を人差し指でかいた。


 なんか言いづらそうだな。言いにくい内容の伝言ってなんだよ。俺に関わることで、言いにくいことってなんだ? 考えてもわからんな。


「えっと、悪い方と良い方があるんだけど……」


「そのパターンかよ……」


 大輝はこの状況さえもどこか楽しんでいる節があるな。俺がショタ化したことも、一種の祭りの延長とでも考えているんだろうか。くそ、次会ったら文句を言ってやらないと気が済まないぞ。


「とりあえず、良い方から頼むよ」


 ここは良い知らせを聞いて心のモチベーションを上げておいてから悪い知らせを聞いた方がいいかな。いや、あいつのことだから上げて落とすっていう線もあるけど。


「良い方からね。わかった」


 いくらか咳ばらいをして、妙に改まった場を作ってから蓮華さんは言葉を続けた。


 声も大輝に似せたいのか、少しの恥じらいを隠しつつ気持ち声が大きめになった。


「『翔太(しょうた)、まずは準決勝出場おめでとう! 俺たちも上がるからもしかしたら次位に当たるかもな。』だってさ」


 ほう。大輝にしては素直に祝福してくれるとは。


 何かをかましてきそうな気がしたけど、やっぱり六魔の双子を倒したこともあってか俺の、いや俺と如月のコンビの実力を認めたってことか? というかいつの間にか準決勝まで進んでいたことに驚いたぜ。


 実際に闘ったのは、二試合なんだけどなぁ。


 あ、いや、そういや如月と組んでたこともあってか、予選をやらずにいきなり本選だったのは、そういう特権も絡んでいるということだろう。


 ここまでくれば優勝だって手を伸ばせば届くだろう。


 ますます気合を入れていかないとな。




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