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第四回戦 交わらぬ一戦


 そして、武器が交じりあった。


 金属がこすれて甲高く響く音と、互いの精魂込めた勢いがぶつかって激しい突風が巻き起こった。その風で衣服が激しく揺れ動く。優の方は視界が見えないんじゃないかってくらい、髪の毛がはためいていた。


「ぐぅぅぅ……!!」


 うめき声が漏れ出る。意地と意地のぶつかり合い。


 パワーで言えば俺の方が圧倒的に有利なはずだ。だがそれでも容易に俺が押し切ることができないのは


「負け、ないッ!!」


 彼女が背負う者の強さに他ならない。


 そんな小型のナイフでどうして力が込められるんだ。どうしてそんなに強くいられるんだ。


 俺は彼女のことを知らないが、それでも、妹を守りたいという感情が武器を通して伝わってくるのが分かった。守るべきもののために闘う。それだけを背負ってここに立っている。


 これは……愛、か。妹への、家族への感情だ。


 きっとそうなのだろう。


 意志強き者は背負う覚悟が尋常じゃあない。


「うおおおおぉぉ!!」


 だからこそ負けられないッ!! 俺は勝つ!!


 半ば重力を利用して上から押しこむようにして『天叢雲剣(あめのむらくも)』を優に叩きつけた。


「ぐぅッ……ぅぅ!?」


 その力に耐えきれなかったのか、右足を滑らせて転倒してしまう。


 抵抗する力がなくなったことによって、どぉーんという大きな音とともに、優が倒れこんだその隣に『天叢雲剣(あまのむらくも)』は勢いよく沈んだ。フィールドに大きな陥没を造り、そこにはまるかのように突き刺さったのだった。


「はぁはぁ……」


 力を出し切ったせいで呼吸もすっかり乱れていた。


 俺は倒れている優の方に目を向けると、彼女は目を閉じて仰向けに寝ていた。


 息もすっかり上がっているようで、肩を上下に動かしながら懸命に呼吸していた。


「お姉え……ちゃん」


 少し離れたところからそんな呼び声が聞こえた。


「あたしたちの、負けです……」


 持っていたナイフを放り投げて、右手を力なく挙げる優。


 降参の証だ。


 それを合図に、会場に響き渡るくらい大きなホイッスルが鳴った。


「黒崎ッ!!」


 黙ってみていてくれた如月が俺のもとへと駆け寄ってくるのが視界に入る。それと同時に、今度は倒れていた妹の陽がはいずりながらも姉の方へと近づいていった。


「あんた、何無茶してんのよ! まったく……無事だったからいいものの」


「悪いな……ちょっと」


「へ?」


 如月に一言断りを入れてから、俺は双子の方へと歩いていく。


 これは俺が決めたことだ。自己満足かもしれないけれど、それでも最後まで通したいことがあった。


 近づいてくる俺を警戒しているのか、妹の方が今度は姉をかばうように手を伸ばす。その光景がさっきみたものと妙にシンクロして、軽く口角が上がってしまったのに気付いた。


「なぁ……」


「なんですか、まだ……ごほッ」


 俺はじっと視線を優に合わせて問いかけた。


「お前はどうしても妹を守りたかったのか?」


 優はその言葉の裏でも探るように、俺の目をじっと見つめてきた。


 そして、一呼吸おいてから


「当たり前です。それが姉の義務ですから」

「おねぇちゃん……」


「そっか」


 ()()()()()()()()()()()()()()


 当たり前、か――。


「まだなにか言いたいことでも……!」


 噛みついてきた優に俺は平手を向けて制止させた。


「もう試合はおわったぜ? これ以上は言葉は不要だろ?」


「……」


「……?」


 姉の方は理解したのか、どこか殻にこもるように再びぎゅっとその目を閉じてしまった。


 その行為の真意がわからなかったのか、妹の方はきょとんとした表情を浮かべるも姉の顔をじっと見つめていた。


 試合がようやく終わったのだ。


 そう自分の中で認識した瞬間、俺の体は力を失ったかのように崩れ落ちた。バランスを失った体はそのまま地面へと倒れていく。意識の中ではゆっくりと地面に近づいていく感じで、それでも顔面が激突した猛烈な痛みによって気絶してしまった。


 

                   **


「へぇ、勝ったんだ?」


「みたいだな」


「意外だね。小さい体でどう闘うのかなって思ってたけど、まさか『原生(オブニチュロン)』があったとはねぇ」


「だがその副作用はあったみたいだな。てっきりG1は想定済みだと思ったが」


 黒いローブに身を包んだ二人は、会場の一番上からフィールドを見下ろす。手すりにもたれるような体勢で、盛り上がる会場に疎ましそうな視線を向け愚痴をこぼしていた。


「G5の能力を一時的に解除していた、とか?」


「だとすると、『原生(オブニチュロン)』も万能ではないということがわかっただけでも収穫だな」


「そうだねぇ。それならまた計画を組み直す必要があるねぇ……」


「何か支障でもあったか?」


()()()()()()()


「ふん……」


 背の高い方の男は、もう一人の反応につまらなそうな表情を返した。


 二人は会場に背を向けて、先ほど登ってきた階段を戻ろうとする。が、その背に声をかけるものがいた。


「おい、待てよ」


 男の声だ。はっきりとした敵意がこもっている。


 会場の下の方から上がってきたようだ。若干疲弊しているように見えるのは、階段を全力で登ってきたからだろうか。


「ん?」


 G1が一瞬首を向けようとしたものの、それ以上は干渉しないつもりなのかそのまま足を動かしていく。


「待てっていってんだろ。聞こえてんのか、『幽霊の心臓(ゴースト・ハート)』さんよぉ」


 もはやイライラを隠そうともせずに、鋭利な言葉をぶつける。


 それを挑発するように、背の高い方の男が返した。


「ふん、雨坂(あまさか)か。ここでは闘うつもりはないぞ」


「お前らを見つけておいて見逃せってのも、また別な話になるよなぁ。オルガ」


「どうして怒っている、と聞いても?」


「お前らの仲間がうちの翔太に干渉しただろうが。わからないとは言わせないぞ。能力の特定はできてる」


「ふん、番外戦術とでもいいたいのか? あれはサービスだったはずだ」


「特定で狙っておいて、たまたまとはさすがだな」


 バチバチと雷電が大輝の拳から発して、空気中で霧散していく。


 まさに一触即発とでもいうのだろうか。互いが言葉でけん制し、ヒートアップしていく。


 その中で状況を読まないゆったりとした声が二人を引き離した。


「あー、そろそろ僕らは行くよ。また会おう、六魔さん」


「てめーが……心臓(ボス)ってか」


「挨拶はまた今度だ。行こう、G3」


 大輝の言葉を無視して階段を降りていくG1に視線を送ると、オルガはその言葉に応えるように大輝に背を向けた。


 実力が対抗する者が背を向けるということは、闘う意志を放棄したということだ。


 大輝の方はそれ以上は踏み込もうとはしなかった。


 歯をかみしめて、去っていく敵を見据えた。


 この場において戦闘を始めた場合、観客を人質に取られてはかなわない。六魔としての責任はかなり重い。


 状況を判断できるほどの冷静な思考があっただけまだましだろう。


 大輝はそっと踵を返す。


 勝利した仲間のもとへと足を向けた。





 

 


 




  

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