第四回戦 交わる叫び声
俺が双子と交戦してからというものの、一向に勝敗がつく様子はなかった。
覚醒した代償として一時だったが意識を奪われた俺はまだ動くこともできず、如月も限界まで能力を消費しすぎたせいでまともに『凍結』で氷を生み出せていない。
俺たちが弱り切っているのに対して双子たちが攻撃を仕掛けてこないのは、もちろんそう状況ではないからだ。俺が知らぬ間に吹っ飛ばしていた妹の陽は足を押さえてうめき声をあげており、姉の優は倒れている妹に慌てた感じで声をかけていた。
「うぅ……あ、ぐぅぅ、いた、い……」
「ねぇ、しっかりして! どうしたらいいの? ねぇ!」
状況も状況なだけあってか、怪我をした妹よりも混乱しているのは姉の方なようだ。
「お姉ぇ……ちゃ、ん」
「陽! 陽、しっかりして! 大丈夫だから、すぐに……」
痛みに歯を食いしばって耐えながらも、何かを目で訴える陽。
それを見てその何かを感じ取ったのか、キッと目じりに浮かんでいた涙を振り払って俺たちの方を睨んできた。よくも妹を、とでも言いたげな視線だ。
俺、だよな……。俺には陽のことを傷つけたという記憶はなくても、こうも周りの状況証拠が揃っていれば不思議と罪悪感に似た感情を持ってしまう。
『やっていなくてももしかしたら……』という感覚と同じだ。
その視線に対して俺は逸らすことができなかった。逸らしてしまえば、それは俺がやってしまったことを認めることになるから。いや、実際にはやってしまったのだろうけれど。
それでももう一人のオレのせいにしたかったのかもしれない。
罪を押し付けて、自分はなんでもないような顔をして高みの見物を決めたかったのかもしれない。
そんな思いあがった自分を認めたくなくて、俺は立ち上がった。
優に、彼女たちに対して向き合うために。俺なりに誠実な気持ちをぶつけたかった。
「くそっ……」
なんだか胸の中がもやもやする。嫌な感じだ。
ふらつきながらもちゃんと両足で立って、俺は敵を見据えた。
優だって血を流しながらも意地で立っている。俺を倒すために。
「条件は同じってか……?」
俺だってこれ以上能力を使えばどうなるかわかったもんじゃない。一度は暴走しているし、また人格をもう一人のオレに奪われる可能性もある。今度は如月のセーブも期待できない。
だが、やるしかねぇ。
一歩ずつ踏みしめる。俺が今ここに立っている理由を込めて、交互に動かした。
「あ、ちょっ……」
双子の方に歩いていく俺に気づいたのか、如月は一瞬だけ止めようとした声をかけるも、すぐにその声は消えてしまった。
戦場に足音がこだまする。
会場の声はずっと騒がしく耳に響いていたはずなのに、今は全く聞こえなかった。シーンと静まり返った喧騒の中で、自分の足音と呼吸が耳に入る。
距離にして三メートルといったところか。不即不離にして、ようやく俺は優と対峙した。
右手を伸ばして妹を守るようにかばう動作を見せた。
「決着をつけようぜ」
「……」
「あるだろ、妹から受け取ったものが……」
「……!」
俺は目線だけで優が持っているその獲物を示した。
優は妹から受け取っていた、その血に染まったナイフをゆっくり取り出した。倒れている陽はいつの間にナイフを拾っていたのだろうか。
彼女から願いを込めた重いそのナイフを大事そうに抱えて、まるで形見を守るかのようにそっと優は抱えていたのだ。
そして、そのままゆったりとした所作で立ち上がり、その鋭利な先端を俺の心臓へと向けた。
これは俺の意思を汲み取ってくれたということでいいのだろうか。俺と本気で闘うということを示してくれたのか。だとしたら、俺も本気で行かねば失礼だろう。
ふぅーっと大きく息を吸い込んだ。
できるだけ俺の能力を使え。ここで使わなかったら絶対に後悔する。
もっと、もっと、もっとだ。意識を右手に集中させろ。オレに奪われないように。俺が支配するために。今出せる全力を……ッ!
「おマエに……力ヲ、……る」
クソッ……!! 奪われてたまるかよぉ!!
「絶対二、負ケ……、おマ……、キル」
負けてたまるかよッ!
光の粒子が徐々に形として俺の右手に集まっていく。無詠唱なのに、今までで一番手ごたえがある。
脳裏にあるイメージもオレに邪魔されていたが、それでもしっかりとした武器が俺の手の中に生成されていた。ずしりとその手ごたえを感じる。
青白く光るそれは先端がかなり細く研磨されており、魔を討ち払うだけの力を秘めていた。
『天叢雲剣』。そう呼ばれる神器だ。
小さなナイフを構える女の子に、なに神器でたたかってんだよって言われるかもしれないけど、これは俺の相手に対する礼儀だ。獲物の大きさは違えど、それに賭ける想いはどっちも一ミリたりとも負けていないはずだ。
だからッ――。
俺が踏み出したのと同時に、優も走り出す。
「うおおぉぉぉぉ!!」
「はあああぁぁぁ!!」
叫び声が重なる。