ようこそ迷子センターへ
「……んあぁ?」
長い眠りから覚めた時のように、やけにすっきりした状態で目が覚めた。
どうやら完全に寝てしまっていたようだ。いかん、俺としたことが……。なんで眠くなったんだっけ?
まだ覚醒しきっていない頭で考えるものの、あまり思い出せずにいた。が、手元にあった空のドリンクを見て、自分がこれを飲んだことを思い出した。
「そうだ、こうしている場合じゃ……」
とりあえずは大輝たちと合流することを考えていた気がする。いや、することなくて暇だった気もするが。そこで立ち上がったのだが、妙な違和感が俺を襲った。
周りにいる奴らがやけにでかい。
俺が視線を上げなければ、周囲にいる人たちの顔を見ることができないのだ。
あれ、いつの間に巨人の国に? ガリバー旅行なんてしてないぞ?
そんな戯言で誤魔化してみるも、この夢からは覚める気配はなかった。ということは、これは現実なのか!?
いや、誰かが異能を発現させて巨人化させているとか? だとしたらなぜ俺以外なんだよ。
起きたら俺以外の人間が巨人化してました、なんてのは小説の世界だけで十分だ。まじでどうなってるんだ……。
「ボク、迷子かなぁ? 親御さんはどこにいるの?」
混乱していると、背後から優しい声音で近づいてくる巨人の女性に肩を叩かれる。振り向いてみるも、俺の視界が捉えたのは、うちの学園の制服だった。
首を痛めないか心配になるくらい、顔を上げてその主を確かめようとする。
というか待て。今俺のことを迷子扱いしたのか? いやいや、こんなに大人に見える俺のことがどうやったら小さい子どもに、見えるって、いうんだ……。
そこまで考えてはたと気づく。
もしかして、とある一つの仮説が俺の中で誕生する。認めたくない現実だが、それは確かめなければ後々大問題になりかねない。
「親御さんとはぐれちゃったのかなぁ?」
「って、和葉さんかよ! びっくりさせるなよ。知らない巨人かと……」
「んん~?」
あれれ、みたいな顔をされた。
「私の名前を知っているのは嬉しいけどぉ、年上の人には敬語を使いなさいって教わらなかった?」
めっ! とでも言わんばかりに人差し指を俺に向けて、まるで小さな子どもを諭すかのように優しく注意してきた。
あれ、俺だと認識していないのか? そんな口調は他人に使う感じじゃないか。
「和葉さん! 俺だぞ、何を言ってるんだよ!」
「んん~? 君はどこかであったかなぁ? ……でもどこかで見た気もするけどなぁ」
「だから、俺だって! 翔太だって!」
「あぁ、翔くんに雰囲気似てるかもねぇ」
本気で気付いていないのか? わざと気づいていない振りをしている様子も感じられない。どうして俺を認識していないんだ。いつもの和葉さんなら、たとえ遠く離れた場所からでも駆けつけてくるってのに。
「だからっ! 俺は黒崎翔太だって言ってるじゃんか!」
若干イラつきも混ざって、語尾が強くなってしまう。
「え、だって……。こんなに小さいのに。別人、じゃないの?」
「……は?」
今、なんて言ったんだ……? 小さい? 俺が? 身長は和葉さんより俺の方が大きいはずだ。いや確かにこの状況はおかしいが。俺が見上げるのは能力のせいじゃないのか。ってか、そのことに和葉さんは気付いていない……?
「いや、どう見ても君は小学生にしか見えないよぉ?」
「能力のせいで和葉さんが大きいんじゃないのか。ってか、これを見てくれよ」
このまま言い合っていては議論は水平線を辿るだけだと判断し、胸ポケットから学園証を取り出して和葉さんに見せつけた。これは複製できないものだから、個人の証明になるはず。さすがに奪ったとか言われたらたまったもんじゃない。
「うーん、確かに翔くんだよね……。でも、待って。どうして小さいのよ?」
和葉さんも混乱しているのか、しぶしぶといった様子で俺のことを初めて認識してくれた。
だが問題は解決したわけじゃない。
これではっきりした。和葉さんが能力で大きくなったわけじゃない。周りの人間が大きく見えるわけじゃない。
これは完全に、俺が小さくなったってことだ。