表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/130

始まりは傍観から


 オルガを探すために桜羅(さくら)に別れを告げてきたのはいいが、結局会場内で見つけることは出来なかった。


 選手控室の方も見て回ったが、それらしい人影もなかった。これはすでにどこかへ行ってしまったと考えた方がいいだろう。


 はぁ、徒労だったか……。


 一体全体、どうしたものか。


 大輝や如月からは未だに連絡がないということは試合までまだ時間があるのだろう。それに六魔や生徒会からの呼び出しがないということは、裏で何かが起きている線も考えにくい。


 今のところは大きな問題がない。そう思うだけでも、なんだか安心する。


 まぁ、俺の目的は大会を勝ち進んでいくことの方がメインだから緊張感はずっと抜けないんだけどな。


 やることが無くなったからか、どこか放心状態になった心持ちでフィールドの方を眺める。一つ前の試合で誰かが派手に荒らしたのか、異能を使ってフィールドを修正している生徒たちが何人かいた。


 桜羅が言っていた『情報科』の生徒たちだろうか。会話していた時はサポートっていうのが何を意味していたのかが分からなかったのだが、今目にしてようやく理解できた。


 大変だなぁと他人事に感じてしまうが、彼らがああやって動いてくれていることで俺たちがスムーズに戦闘を行えるのだと考えたら感謝しないとな。


 心の中で感謝を述べていると、近くから間延びした少し低い声が聞こえてきた。


 声のした方に振り返ると、肩からひも付きの箱に飲み物を入れて運んでいる男子生徒が歩いていた。


 こいつも『情報科』の生徒か……? 観客に飲み物でも売っているってとこか。


 そういや、俺もなんだかのどが渇いてきたな。試合の後に水分補給はしたとはいえ、さっき走ったせいもあるし。


「あの、すいませんー」


「はい、はい!」


 声をかけてからしまった、と思う。


 あれ、俺お金持ってないじゃん。つけとかできるのかな。六魔の権限を利用すれば何とかなりそうだし、ここは大輝の名前でも借りておくか……? まぁ、勝手に使うのは心苦しいが仕方ないよね、たぶん。


「あー、ごめん。やっぱお金ないから……」


 俺が両手を合わせて断ろうとしたのだが、相手の方もなぜだか驚いたような表情を見せた。


 なんか、俺の顔をじっと見て固まっているんだが……。


「……。大会に参加されてる方なら無料でドリンク渡してるッス。一応学園証かなんか見せてもらえると」


 お、まじか。大会出ててよかったぜ。


 まぁ確認程度に学園証見せるだけでもらえるなら安いもんだろ。


 そう思って胸のポケットから自分の名前と顔写真が載っているカードを見せた。すると、その男子生徒はにやりと笑った。いや、そういう風に見えただけかもしれないけど。


「いやーどこかで見た顔だと思ったんスよね。まさか黒崎サンだとはね」


 どうやら俺のことを知っていたらしい。


 俺が出た試合を見ていてくれたのかもしれない。なんか自分のファンに会ったような感じがしてこそばゆい。頭をポリポリと掻いていると、抱えていた箱から一本のドリンクを取り出してくれた。


「はい、どうぞッス」


「ありがとな」


 見た目は白く濁った液体が入っていた。大会に出場している生徒に配っていたということはおそらくスポーツドリンクか何かなんだろう。


 すぐにキャップを外して口に流し込んだ。


「ん……?」


 一瞬だけ不快な味がしたぞ……? いや、でも後味は完全にスポーツ飲料だしな。少し果実が入っていたのか、粒粒の食感もあった。


 まぁ不味くはないんだけどな。なんていうか微妙な味というか……。一応なんの飲み物だったのか聞いておけばよかった。


 男子生徒に聞こうと周りを見渡してみるが、既にどこかへ行ってしまったみたいだった。


 ま、いいか。そこまで気になったわけじゃないし。


 あとは一気飲みして空っぽにしてしまう。近くにゴミを集めていた場所があったはずだから、後でそこに寄っていかないとな。


「ふあぁ……」


 そんなことを考えていると唐突に眠気が襲ってきてあくびが出た。


 くそ、急に水分補給したせいか? どうしてこんなに眠いんだ。


 瞼が重い。必死に開けようと頑張ってこらえていても、その重力に逆らうことができない。


 ああ、眠い……。


 自然と体が横になっていくのを感じる。寝ていく自分をはっきり感じているのだが、それをどうすることもできなかった。


 もはや思考なんて回らず、ゆっくりと深い眠りに引き込まれていった。


 




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ