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能力の調査


 和葉さんから花形と小倉の真相を聞けたおかげで、俺の中にあった(もや)のような気分がすっきり晴れた。


 たまにあるよな。心のどっかに引っかかったままでうまく消化できずに残ってるやつ。今回はたまたまそれだったというわけだ。


 普段の俺ならそこまで気にしなかっただろう。相談事として話を聞いたとしても、どこか他人事で流していたように思う。


 たまたま試合相手だったから。『共有(シェアリング)』の対象が俺だったから。そんな理由だけで気になっただけなんだ。深く気にする必要もなかったのかもしれんな……。


 すっきりした気分で和葉さんと別れを告げて部屋を出る。


 和葉さんはまだ生徒会の方の仕事があるとかなんとかで、しばらく一人になりそうだ。解放されてほっとしたわけじゃないが、ため息が漏れた。一人になってさみしいなーとかではなく、和葉さんが仕事をしてるなら俺をいじってこないだろう安心だわー、の方ですね。


 まぁ次の試合があるまでは暇になったということである。


 当然俺が試合の予定なんて把握しているはずもないので、大輝か如月から連絡があるだろうから、それを待つことになるだろう。いや、自分で把握しとけって話だけどな。


 さぁて、どうしたものか。


 このまま決闘祭を楽しむことにするか。でも、一人で回ってのもなんだか味気ないしない……。誰かと待ち合わせるか? 大輝や如月は六魔の仕事とかあるから忙しそうだしな。まさか妹の明日香を誘うわけにいかない。っていうか、父さんが来てるらしいから一緒に回ってる可能性が高いな……。


 今思えば父さんは俺の試合を見てくれていたのだろうか……。いやまだ来てると決まったわけじゃないからわからないけど、なんだか会うのが恥ずかしくなってくるな。


 そんなことが頭の中でぐるぐると回り続ける。


 考えても答えは出てこないのだからたちが悪い。錯綜するだけして結果迷宮に足を踏み込んでいくのだから困ったものだ。こういう場合は考えない方がいいんだが……、それも難しいんだよなぁ。


「おおーとっ!! ここまでかぁ? 圧倒的力の前に成す術なし。ここまで異次元の能力では立ち向かう意思すらなくなりそうだぁ」


 そんな声がメガホンを通して聞こえてきた。


 窓の方からバトルフィールドをのぞき込んでみると、司会がしゃべっている様子が見えた。確か『拡声(フルボイス)』の能力だった奴か。それで声がスピーカーのように響いてきたのか。


 フィールド上には二組の戦闘科の生徒たち。一方は無残にも怪我だらけの状態で地に伏せていた。腕や足から血を流しており、体をふらつかせながらも立ち上がろうとして失敗している。


 その光景を悠然と見ているのは……オルガだった。見て不敵に笑っている。相手の行動すべてを楽しんでいるかのように。闘いそのものではなく、相手が向かってくるのを余裕で叩き潰していた。


「あいつ……」


 俺から奪った『具現化(オーバーキル)』で闘っているのだろうか。倒れている相手の周りには無数の剣や槍などの武器が無造作に落ちていた。


 オルガも六魔の三位に君臨するほどの実力を持っている。


 そりゃ絶対に優勝するとは言わないが、大輝や如月と同じ力を持っているわけだから優勝候補として名前は上がっていた。『略奪(スナッチ)』でいろいろな能力を相手から奪って、無力化した相手をその能力で攻撃しているのだろう。


 これまで奪った異能を全て使えるとしたらかなり強い異能だが、保持できるのは何個くらいなんだろうか。リセットされ続けているのだとしたら、俺の『具現化(オーバーキル)』だって消えているかもしれない。それって最悪じゃないか……!


 オルガの異能の詳細が分からない以上はどうすることもできないしな……。


 俺の異能が消えてないことを祈ることしかできないじゃねぇか。


 今からステージに行けばオルガと出会えるだろうか? 可能性は低いが直接会うことができるなら、たとえ危険でも対面できるチャンスがあるなら無駄にはしたくない。仁さんや大輝からは一人で会うのはできる限り避けろって言われてたけどさ……。


 でも、行ってるみるだけは問題ないよな……?


 そう考えてすぐにさっきまでいた控室に向かおうとした時だった。


「あれ、翔太じゃん。試合お疲れ様」


 突然背中から声をかけられる。どこかで聞いたことのある声……って桜羅じゃないか。


「おぉ、久しぶりにあったな。いつ以来だっけか……?」


「確かに久しぶりだね」


 俺が情報科にいた時からの付き合いだが、こいつは全然変わってないように思える。てか、情報科で勉強してるとき以外は何してるんだろうな。俺らは対人戦闘とかの訓練があったりするから忙しいんだが、やっぱり能力強化とかなんだろうか。


 うーむ、一度時間があるときに聞いてみるか。


「そういや、桜羅たちは大会で何をしてるんだ?」


「……え、ああ。主にサポートなんだけどね、全体的に暇なんだよ。少し話そうよ」


 にこっとほほ笑む桜羅。この笑顔だけ見ると、ほんとこいつが男だとは思えないんだよなぁ。


「悪い、今ちょっとやることがあってな……。また時間あるときに一緒に出歩こうぜ」


 本当は桜羅と回ることも考えたのだが、俺がオルガに会いに行く予定もあるし、なにより情報科の関係ない奴を危険な目に会わせるのはあまり良くないだろう。そう思って断ることにしたのだった。


 心苦しいが、短く頭を下げてその場を速足で去る。


「そっか、またね。決勝まで来るのを楽しみにしてるよ」


「おう!」


 誘いを断られても涼しげな笑顔で手を振ってくれた。すげぇいい奴だな、やっぱり。


 そんな優しさに感謝しながら、俺は走り出した。


 


 


 

 

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