藪の中の真相
事前に和葉さんから連絡があったのだが、来いと言われたのはいつもの小会議室。
女子と二人きりで密室。
パワーワードすぎて興奮ものだが、残念ながら会話の内容は小倉と花形についてのこと。
あいつらにどんな事情があって、どうしてああいう戦闘しかできないのか、どうしても気になってしまったのだ。
「あ、翔くん。いらっしゃい」
この部屋のドアを開けるのももう慣れた。俺が入ってきたのにすぐ気づいて和葉さんは手招きする。
「もう怪我の具合は大丈夫なのぉ?」
「ええ、まぁ。わりとすぐだったんで」
なぜか隣の椅子に半ば強制的に座らせられる。和葉さんも椅子に座ったが、その椅子は俺に密着させるように置いた。
ちょっーと近すぎやしませんかね? 近すぎますね、ぜったい。
心の中で一人で突っ込みをいれておく。
ここは冷静に話を聞いておこう。邪心など今は必要ないぞ! お前には早く俺の中から出ていくことを勧める。
若干加速した鼓動を落ち着けるために深呼吸をしておく。
そして切り出した。
「それであいつらのことなんだけどさ……」
「なんのーはなしぃ?」
……は?
あれ、小倉と花形の話ですよね……?
話を持ち掛けたのは和葉さんの方ですよね?
「それよりもぉ、こんなところに呼び出してぇ、いったい翔くんはどぉーしたの?」
「呼び出したのあんただろうが! てか話の内容もわかってんだろっ!」
まさか過ぎる返しに我慢があさっての方向まで飛んで行ったせいで、ツッコミが入る。
「少しは落ち着いた?」
「……え、ああ」
言われて気づく。少しのめりこみすぎていたのかもしれない。
あまり深く考えすぎないようにと、和葉さんなりに気を使ってくれたのかもしれない。いや、この人ならわりとやらかしてくれそうなんだけどさ。
どこまでが計算の内なんだろうな……。本気でわからん。
だけどなんかいい感じに緊張感というか気負ってたものがほぐれたような気がした。
「ごめん和葉さん」
「翔くんが謝ることじゃないわよ」
「話、聞かせてくれよ」
ええそうね、と前置きして和葉さんはゆっくり語り始めた。
**
どうやら小倉と花形は幼馴染だったそうだ。
花形がどうして自傷をする闘い方をしていたのかは、もともと花形が異能を発現する前から自傷をする癖があったからだという。
そしてそのことを小倉は知っていた。その自傷の酷さを知っていたからこそ、過剰にやってしまった試合で止めたかったらしい。
ではどうして花形は自傷する癖がついたのか。
根源については深くわからないが、家柄が厳しいこともあってそのストレスから来たのだという。
花形自身も言っていたが、自分のことを誰もわかってくれないという心の傷が影響していると。
なんにでも制限をつけられ、それに歯向かおうもんなら厳しく叱りつけられる毎日だったという。
一方の小倉は幼馴染としてその状況を知っていたが、何も力になれなかったと後悔していた。
そしてある日、花形は異能『共有』を発現させる。
その能力がついたのはもはや運命だったのかもしれない。自分の心の声を他人に届かせる手段になるはずだったのだから。
学園へ来たのは彼女にとって救いになるはずだった。自分を束縛する家族から逃げられたことで、自由を手にしたのだから。
だがその平穏は一か月しか持たなかった。ちょうど小倉も異能を発現させて、学園に編入してきた時期であったのだ。
再開した二人は喜びを分かち合うはずだったのだが、些細なことで喧嘩してしまったのがよくなかった。
喧嘩にはまだ慣れていない異能を使ってしまったのだ。
一か月程度では体に染みついた自傷の癖はけっして消えていなかった。自分を傷つけることで、相手に感情をぶつけるはずが、能力は変化していき、果ては相手にも痛みを共有するというものになったという。
異能とは因果なものなのだろうか。
変化せざるを得ないものだろうか。
感情が対立するたびに花形は能力を行使した。
皮肉なものだが、気づけばその痛みにも慣れてしまい、序列も上位帯へと昇り詰めていた。
そしてこれ以上は見ていられないと思った小倉は決意した。
この双方決闘祭に二人で出場するべきだと。
花形の暴走を止めるためにも自分が相手を圧倒することで、花形を闘わせまいと。
そして、黒崎翔太に出会った。
彼の『具現化』なら、花形の能力をどうにかできるのではないかと、そう考えたという。
もともと花形が無事でいられるなら試合に負けてもいいと思っていた小倉は、試合前にこう言った。
勝負は始まる前に終わっている、と。
最初から負ける前提で動いていたのだろう。だがそれでも花形の能力は発動してしまった。
ならば闘わせまいと、敵が六魔であろうと自分が率先して闘わなければと、小倉はそう考えた。
結果として花形は自傷しすぎてしまったが、小倉はどう感じたのだろうか。
投降を早くしていればと彼は後悔していたそうだ。
**
「ってのが、小倉くんから聞いた話」
「なるほどね……」
生徒会にも生徒の情報が記録されているそうだが、深い話は直接本人から聞いたそうだ。
試合が始まる前に相談を持ち掛けられていたそうだ。
まあ、残念だと同情するしかないが。
俺があいつらに力に慣れていたのなら、それは誇りに思うべきなのだろう。
「とりあえず真相を聞けてよかったよ」
「そうね」
うふふ、ときれいな笑顔で和葉さんは笑った。