とりあえずキャラが増えていく展開②
「そこのロリコン魔! そこまでよ!」
一瞬のことで気をとられかける。聞こえたロリコン魔から美鈴ちゃんを守らねば!と思い、肩に手をかけようとする。
するといきなり先ほどの声の主が跳び蹴りを食らわせてきた。
なぜか俺に。
「ぶぐぅベはぁ」
思わず気持ちの悪い声が出てしまい、そのまま廊下に倒れ込んだ。
アカン、鼻血が……。
「観念しなさい、ロリコン魔。今度こそ終わりよ」
そしてそのまま俺に手錠をかけようとしてくる。ああ、ここまでか……。
このまま刑務所行きなのか?俺。
……ってんなわけあるかいっ!
「って誰がロリコン魔やねん!!」
エセ関西弁になってしまった。動揺してるな、俺。
「あんた誰よ?」
それは俺のセリフだよ! てめえこそ誰なんだ。
「人違いね。か弱い少女に手を出していたから、追っていた犯人かと思ったのよ。悪かったわね」
と、しれっと立ち去ろうとするこの女に、俺の怒りは易々と収まるはずがなかった。
「おいおい、失礼じゃないか? 見ず知らずの他人にロリコン呼ばわりされた挙げ句、手錠までかけられたんだぞ。少しは詫びるもんがあるだろ」
怒濤の如く責め立てる。
立ち上がって怒りにまかせて強引に肩を掴もうとしたその時、
「落ち着いてください、先輩。確かに彼女が悪かったですけど」
殴るのはよくないです、と言う声に俺ははっとなる。
完全に美鈴ちゃんの存在を忘れていた。
この仲裁がなかったら、本気でこの女を殴ってたかもしれないな。いや殴るつもりなんてなかったんだけどさ。
既に怒りは収まっていた。
なんだコレ。鎮静作用でもあるのか?
……美鈴ちゃん天使かよ。
「んで、お前は一体だれなんだ?」
自然と聞いたつもりだったが、目の前の女には無意味だったらしく、
「何よ。あたしのこと知らないの?馬鹿なの?」
と、挑発的に返してきやがる。
さっきの怒りがこみ上げてくるぜ。んんー!
チッ、ここはしょうがないか……。俺がおれてやるかな。俺は分別のある大人だからね!
「俺は2年D組、黒崎翔太だ。あんたの名前は?」
武術を極めた者として、相手の名前を聞くときは自分から名乗るというのが礼儀なのだが、冷静ではなかった俺にはすっかり抜けていたらしい。
ごめんよ親父……。
すると彼女は驚くほど素直に名乗りを上げた。
「私は2年A組。如月沙綾よ。『六魔』の第4位。『氷壁の魔女』って言えば分かるかしら」
ふふんとドヤ顔で言われた。
……いや、てか待てよ。『六魔』だと?
俺の入りたい『六魔』だと? ちょうどいいな。
思わず舌なめずりしてしまう。
ちなみにこの学園の編成基準は、AからDまでが『戦闘科』で、EからHまでが『情報科』となっている。
簡単に言えば戦闘向きか否かってとこだ。
さらに、成績が優秀な者から上のクラスへと振り分けられる。如月がAということはかなりの優等らしいな。
んん、俺? もちろんDだよ。
そうだ、何度でも言おう! 俺はD!
「お前が『六魔』だと? 本当か?」
「なんで嘘つかなくちゃいけないのよ。馬鹿なの?」
この時よく考えていれば後々後悔しなかったのにも関わらず、俺はよっぽど興奮していたのだろうか。
『六魔』にどうしても入りたかった俺は早口でこう言った。
「よし、俺と決闘しろ。俺が勝ったら『六魔』の椅子を空けて貰う。ちなみにさっきの詫びの分を差し引きたいなら、この決闘を受けるべきだな」
なんともゲスい口上である。
しかし意外にも如月も乗り気だったらしく、
「ふーん。いいわよ。この私に決闘を仕掛けてくるなんてとんだ命知らずね。楽しませてもらおうじゃないの」
放課後にグランドで待ってるわ、と残して去って行く如月。
その背中を見たとき、俺はなぜか既視感に襲われた。
ええーい。
今はそんなことよりも如月に勝つ算段を練らねばと息巻いている俺の肩を、ちょんと叩く誰か。
すっかり忘れていたが、美鈴ちゃんだった。
「あの、先輩。本当に大丈夫なんですか?」
「ん、何が?」
決闘のことだろうかと聞くと、
「彼女、入学してから一度も決闘で負けたことがないんですよ」
……………………はい?……え?
「通算百十八戦全勝。彼女の異名である『氷壁』は白星の意味でもあるんです」
おいおい、嘘だろ。
俺は2戦1勝1敗だぜ? どんだけ決闘してんだよ。
バカなのかしらん。
だが、それでも……。
「それでも負けられないんだよ。絶対に引けない時があるんだよ、男には」
そう言って、最大限の決め顔を美鈴ちゃんに送ってみる。
しかし、まだその不安は拭えないらしく、
「でも、……その、手錠が……」
「……ッ! …………………」
あの、クソおんなぁぁぁぁぁぁぁ!!
確かに手錠が取れないとどうしようもないよな。
馬鹿なのは俺の方だったか。
如月が言っていたセリフに妙に納得してしまったのだった。