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僕とぬいぐるみとトロッコ

 僕はバスルームでずっと渡辺さんの映像を見ていた。

 腕を取られて痛がる渡辺さん。

 人を殺したであろうことを悟り一瞬後悔を滲ませる渡辺さん。

 胸を貫かれる渡辺さん。

 崖に落ちていく渡辺さん。


 「渡辺さんにすっごい迷惑かけちゃってる…神様になったのなんか半信半疑だったから、軽い気持ちで転移させちゃった…」


 すこし雰囲気が重くなったのが分かった。いや、僕が重くしちゃったといえばその通りだけど、これまで淡々と対応してきた自称AIのことだからまた即答で軽く対応してくるかと思ったら、言葉を返すのに若干の間があった。


 「…まあ、いいじゃない?死なないわけだし。本人も今のところ楽しんでいるみたいだよ。それに、契約を結んだのは彼自身で、結ばせたのはあのウサギ。君自身はきっかけにすぎないよ」

 「う~ん…そのきっかけから始まって、こんな状況に追い込んじゃってるわけだし」

 「半信半疑で軽い気持ちだったとはいえ君だって与えられた選択肢から選ばざるを得ない状況だったのさ。君に罪はないと思うよ」

 「じゃあ、君のご主人様が悪いってこと?」

 「いや、う~ん…そうだな…トロッコ問題って知ってるかな?」

 

 露骨に話をそらしてきた。まあ、いいや。


 「えっと、なんでトロッコが都合いいところにあって、なんでジェットコースターのコースみたいになってんだよっていう〇リウッド映画の欺瞞に関する問題かな?」

 「そっちじゃなくて。いや、そんな問題ないし。えっとね。トロッコあるいは電車が5人の作業員が作業をしてるコースに向かって走っているんだよ。で、もし、何もしなかったら、5人は死んじゃう。でも、コースのスイッチを切り替えたら5人は助かる。だだし、その結果として、切り替えたコースの先にいる本来死ぬはずじゃなかった人が一人死んでしまう」


 あれ?話をそらしたんじゃないのか。でも、この話をする意図がわからないな。


 「ん?聞いたことはあるような気がする。私あんまその話好きじゃないな。命を数字で比べるのはグロテスクだよ。で、その話がなんなの」

 「さて、スイッチを押して1人を犠牲にして5人を助けた場合、その人を君は責めるかい?」

 「どうだろう。わからないな。」

 「じゃあ、必ずそのスイッチを押すか押さないかを決める役目をだれかが負わないといけないという状況で、仕方なくその人が引き受けたとしたら」

 「本当にグロテスクな話だなぁ。その場合、責めることはできないかもしれないね…でも、それと私の状況は…」

 「この世界はグロテスクなものさ。誰かが幸せに胡坐をかいてきれいごとを言っているときに、誰かがグロテスクな役割を引き受けているのさ。今度は、その番が君に回ってきただけでね」

 「どういうこと?」

 「この世界の神という役目は誰かが引き受けないといけないんだ。そして神が選ばれれば、その使徒も最低1人は選ばれる。君か神にならなければ、君以外の他の誰かが神になって、渡辺さん以外の他の誰かが使徒に選ばれたんだ。君は誰かが負わなければならない役目をおっただけさ」

 

 そういう状況なのか。じゃあ、僕を閉じ込めているのは魔王とかそういうんじゃないだろうな。上位の神様とかそんな感じかな。でも、まあ、まずは、話の続きだ。

   

 「じゃあ、やっぱり僕にスイッチを押させるようにした君のご主人様が一番悪いってことかな?」

 「僕のご主人様にしても、次の神様として誰かを選ばざるをえなかったんだ。許してあげてほしいなぁ」

 「君のご主人様は何者?」

 「それは秘密」

 「まあ、とりあえずは分かったよ。僕は渡辺さんをできるだけ助ける。それで、渡辺さんが私をうらむんだったら、どんなことをしてでも償う。でもその代わり、私は君のご主人様を恨む」

 「う~ん、そうくるか。まあ、今はそれでいいさ。ようするに渡辺さんが君を恨まなければ丸く収まるわけだしね」

 




 

 








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