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神様とぬいぐるみとバスルーム

 …とそこまでの渡辺さんの様子を、目の前に浮かんだ立体映像で見ていた。

 妄想癖のひどいオタクの監禁魔の可能性も微レ存、と思っていたのだが、やはりどうも違うみたいだ。

 やけにリアルな立体映像を見せる技術。しかも、ヘッドギアなんかを付けさせずにそんなことができる技術。そんなオーバーテクノロジーを持っている監禁魔に捕まった可能性と異世界転生的な何かに巻き込まれたという可能性、どちらの方が現実性がないかと問われれば、私は「どちらにもない」と応えるだろう。と、なれば状況から見て異世界転生的な何かに巻き込まれたと考えるのが妥当な気がする。

 となれば、脱出ためのミッションを真剣にやらないといけないな。

 さて、気を取り直して、聞くべきことを聞いておこう。


 「………あのウサたん何?僕の使い魔か何か?」


「いや、君の使い魔ではないよ。まあ、神のいない世界に神を呼んだ張本人でもあるし、君という神を信奉してはいるだろうけど、君との主従関係はないよ」


 そうなのか。あのウサたんは僕のじゃないのか。まあ、いいけど。

 


 「神を呼んだってどういうこと?」



「世界にはね。神のいない世界がある。そういう世界が救いを求めて神を招いて契約を結ぶんだ。その神様が君ってわけさ」


 「ん、じゃあ、あのウサたんが犯人?この空間を無理やり神様にするために僕を閉じ込めたってこと?」


「いや、犯人ではないね」


 僕を閉じ込めている力の根源ってやつが、あのウサたんなんじゃないだろうか。他の人を不老不死にもできるみたいだし。あいつがやっぱ怪しいな。えと、ちょっと冷静になろう。

 

 「ちょっと、顔洗ってくるけどいいよね?」


「もちろんだよ。ここは君の部屋で、君は神様なんだから。好きな時ときに休めばいいし、顔だってなんだって好きな時に洗えばいいさ」


 パソコンの画面でこのメッセージを確認すると僕は、まだ確認していない部屋のドアに向かった。

 ドアを開けると、そこには洗面台とトイレ、そしてバスタブがあった。ホテルのバスルームみたいな感じだ。トイレとバスタブがセパレートされてないタイプだな。でも、ちょっとお風呂は大きめだな。

 洗面台に水をためる。顔を洗って顔を上げ、鏡を見る。そこには、当然僕が映っている。今、夏休みでよく泳ぎに行っているから、けっこう日焼けしてるな。浅黒い肌を見て、数日前に行ったプールを思い出す。ああ、帰りたいな。


 「できるかな?」


 私は、鏡に映る自分自身に問いかける。やや短めのポニーテールでサイドはすこしウェーブがかった髪が垂れている。顔は活発そうな感じだと思う。ここまではいい。でも、来年から最終学年に上がるとは思えないくらい小柄な女の子が目に入る。服は部屋着。手足は細い。ああ、頼りない、同学年の他の子と比較しても。


 「とりあえずは渡辺さんに任せるしかない」


 まず、他力本願。渡辺さんとかが何とかしてくれることを信じよう。渡辺さんは、年齢的には私よりもずっと大人だ。きっと、どうにかしてくれる。巻き込んだのは悪いかもしれない。でも、助かったらたくさんお礼をするってことで大丈夫なはずだ。

 あとは、神様として渡辺さんをサポートして。それで、なんとかなるはず。

 

 「でも、渡辺さんには何をしてもらうべき?あのウサたんは敵?」


 もし、私を閉じ込めている力の根源があのウサたんだとすれば、渡辺さんにはウサたんを倒してもらう必要がある。まあ、自称AIは違うって言ってたけど、それはどこまで信じたらいいのかは微妙だな。力の根源は異世界の中では倒せないって言ってたけど、それも信じていいのかどうかわからない。

 いや、でも、もし嘘だとすればその目的は何なんだろう。そもそも、私を閉じ込めている目的って何なんだろう。神様をやらせている目的って何なんだろう。

 …と考えていたら…


 ガチャガチャ、ガチャガチャ。


 そんな音が聞こえる。だれかが、ドアノブを回そうとする音だ。ドアはレバー式のタイプ、それを乱暴に不器用に空けようとしている音。

 なんで、いきなりこんなホラーな展開なの?怖い。怖い。どうしよう。とりあえず、武器になりそうなものを探して、トイレにおいてあったカミソリを手にする。

 おそるおそるロックを解除をして、構える。構えながらドアを開けた。

 …そこにいたのは、自称AIのネズミのぬいぐるみだった。


 「やあ、驚かせてしまったようだね。カミソリは綿が出るからやめてほしいな」


 こいつ動けたのか。


 「動いたことに驚いている。まあ、憑依の魔法の応用さ」


 AIのくせに憑依って。


 「んふふふ…AIのくせに憑依って思ってるね。僕は確かにAIさ。artificial intelligence、つまり、人工知能なのは間違いない。ただし、僕を作るときに使われた技術は化学だけじゃない。魔術とか錬金術の類の技術も含まれているさ」

 「え?」

 「だから、魔法みたいなこともできるのさ」


 自慢げだ。年端も行かない女児の前で、あんないい発音でartificial intelligenceっていうなんて…大人げない。女児にartificial intelligenceなんてわかると思ってるのか。まあ、私にはわかるけど。週2で英会話やってるから。ああ、ジョン先生元気かな…お国に強制送還されたらしいけど。

 

「ともかく。忘れていたんだけど、トイレと風呂場の説明をしようと思ってね」

「……トイレ中とかだったらどうするつもりだったの」

「君はもう神様だからね。体は生命の通常のサイクルとは外れている。トイレとかはもう必要ないんだ。だから、その可能性はなかった。まあ、僕はAI、人間ではなくてモノだ。そこの向こうの椅子や本棚と変わりがないんだ。いずれにせよ、はずかしがることはないよ。何にせよ他意はないよ」


 トイレに行く必要はないなんて、なんか、死体になった気分だ。あるいは、昔のアイドルだな。


「…他意はないのね」

「…ないよ」

「…まあ、いいや。顔洗ってただけだし。で、何を説明してくれるの?」

「まずは、これだね。この鏡は押すと中が棚になっててね。替えのシャンプーとかそんなものはここにあるんだ。それから、そこに手を置いてみて」


 自称AIのぬいぐるみはそういって、バスタブの中の枠の部分を指さす。ちょうど、お風呂に入ったら左手を置きそうなところに、ビー玉くらいの宝石のようなものがはまっている。

 手を置くと、映像が浮かび上がってきた。さっきまで、部屋の方で見てた渡辺さんの映像だ。


「お風呂に入りながらでも見れるんだよ。便利でしょ」

  

 便利かどうかはしらないけど、まあ、あってもいいだろう。…なんて、ことを思いながら映像をちょっと見ていると、ちょうど、渡辺さんがウサたんと異世界に転移して、話をしようとしているところだった。

 


 




 










 

 

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