6話「Fランクに拘る理由」
「う〜、頭痛い」
アキラは顔色を悪くし、ギルド内の安易休息スペースで頭を抱えていた。あれから昨日、調子に乗ってラン(妊婦の為、ランは飲んでない)と朝まで酒を飲み続けたのが原因だった。ランは後に旦那となる彼氏さんが迎えに来て、そのまま帰って行った。
頭はガンガンするわ、吐き気はするわ、でクエストどころじゃないなと判断したアキラは今日は家でゆっくりと休もうと決断し、重い身体に鞭を打って起き上がらせる。
「お?あれは…………」
ヨロヨロのアキラが視界に捉えたのは、ギルドの受付でクエスト完了の判子を押してもらっているハヤトだった。相変わらず、何を考えているのか分からない表情をしている。
そして、受付が終わったのかギルドを出ようとしていたハヤトを最後の力を振り絞って追いかけて、ハヤトの腕を掴む
「ハヤトぐぅん!!」
「うわっ!!びっくりした!!てか、うわっ!!酒臭っ!!」
反射的に腕を振り下ろされた挙句、酒臭いとガラスのハートにヒビが入る発言をされたアキラは少し凹んだ。
「酷いよぉ〜」
「本当のことなんだからしょうがないじゃん」
ハヤトは情けないアキラを見て溜息をつく。そして、アキラは思い出したかのようにハヤトに問いかける
「そーいえば、ハヤトくん。ギルドから申請書来たでしょ??」
「あー、あれ?捨てたよ??」
「は!?」
あっさりと、答えたハヤトに対してアキラは目を丸くし、一気に酒の魔から抜け出したアキラはハヤトに反論する。
「どうしてそんなことするのよ!!」
「何怒ってんだよ?もしかして、あれ燃えないゴミだった??」
「いや、あれは普通の紙だから燃えるゴミでいいよ…………じゃなくて!!」
ハヤトの言葉で、ノリツッコミをしてしまったがアキラはすぐに気を取り戻す。
Aランクの冒険者ですら、Sランクの冒険者になれる機会なんてそうない。ましてや、彼はFランクだ。FランクからSランクに飛び級するなんて滅多にない機会のはずなのに、ハヤトはそれを自ら放棄したのだ。驚くしかないだろう。
「アキラさんもアキラさんだよ。何で俺みたいなFランクを推薦したんだよ??手紙の内容見た時に、寮母さんに変な目で見られたんだからな!!」
「貴方の実力はSランク級だと、私が判断したからよ!!Fランクなんて、勿体無い!!」
アキラは事実のことしか言っていない。ハヤトと出会ってまだ日は短いが、その間にハヤトの冒険者としての実力は少なくともFランク以上はあるということは知っている。彼なら、Sランクのクエストでも前線で戦えるはずだと、アキラは睨んでいた。
「初めて会った時に言っただろ?俺は永遠のFランク冒険者だって」
「じゃあ、理由を教えて!!どうして、Fランク冒険者に拘るの??高ランクのクエストをクリアすれば報酬だってFランクのクエストの数十倍なんだよ??」
当然といえば、当然だ。高ランクのクエストは地位の高い人間が依頼を出す。なので、街の住民しか依頼しないFランククエストに比べるの天と地の差だ。
「別に報酬なんて、どうでもいい。金ならそれなりに持ってるしな」
「じゃあ、どうして………」
「俺は自由でいたいからだ。」
「ーーーーー!!」
「自由っていいよな。誰にも縛られず、自分の意思で何でも行動することが出来るからな。多分、それを味わえるのはFランクだけだと俺は思っている。」
「そんな………」
そんな自分勝手な理由で??と、アキラは言葉を出そうとしたが、ハヤトはアキラの言葉を遮って言葉を続ける。
「あと、アキラさんも知ってる通り、Fランククエストをやってきたおかげで俺はこの街の人達と仲良くすることが出来た。詳しくは話せないけど、今の俺があるのはここの人達のおかげなんだよね。だから、俺はこの街の人達のクエストしか受けないって自分の中で誓ってるんだよ」
「それが………あなたがFランクに拘る理由??」
「まぁ、7割ぐらいが理由かな??」
残り3割は一体何だろう??と、アキラは疑問に思うが、きっとハヤトは話さない。
そして、アキラは真剣な表情でハヤトを見つめ、
「言っとくけど、私諦めないから。貴方を絶対にSランク冒険者にする!!」
「ハハ、無理無理。アキラさんが1年以内で巨乳になるのと同じくらい無理な話だよ」
「なっ!!これでも毎日牛乳飲んで、バストアップのストレッチをやってるんだから…………じゃない!!ハヤトくんはデリカシーがないのか!!」
ポコポコと、涙目でハヤトの肩を叩くアキラに対して「冗談だって。」とハヤトは苦笑いをする。
決めた!!私、絶対に1年以内にAからGにしてやる!!
と、心中で無謀な挑戦を挑むアキラ。そんなアキラを横目で見るハヤトのギルドカードからピロローンと音が鳴る。メールの合図だ。
ギルドカードには色々と機能があるが、その1つとして、メール機能がついている。ギルドカードに連絡先を登録することによって、遠くにいる人と連絡することができる
「お、出来たか。」
ギルドカードを見たハヤトは嬉しそうな表情になり、そのままギルドカードをズボンのポケットにしまう。
「誰からなの??」
「社長からだよ。ほら、アキラさん前に会っただろ??」
「あー、『疾風』の??」
どういう経緯で知り合いになったのかは知らないが、ハヤトは武器の一流メーカーである『疾風』の社長と仲が良い………というか、社長さんがハヤトにすごく慕っている感じだった。ハヤトは一体、社長に何をしたのだろうか??
「ちょっと武器の修理を頼んだんだ。それが完了したから取りに来てほしいんだって。俺、行ってくるよ」
「面白そうだから私も行っていい??」
「いいけど、アキラさん。クエストは大丈夫なの??」
「大丈夫大丈夫!!今日は二日酔いだから」
「いや、二日酔いはそんなテンション高くねーよ」
と、珍しくハヤトがツッコミを入れた。
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「お待ちしておりました。ハヤト様。」
疾風の本社に訪れたハヤトとアキラは入口で受付をして、社長室の方に案内される。
コンコンと何回かノックをしてから、ハヤトとアキラは社長室に入った。
社長室の豪華そうな椅子に座っていた社長はハヤトの姿を見た瞬間、笑顔で頭を下げ始める。いや、この人、社長だよ??本当にこの男は何をやったんだよ!!
「悪かったな。急に頼んじゃって」
「いえいえ、ハヤト様の頼みであれば他の仕事を放り投げてでも優先しますよ」
「いや、それはダメでしょ!?」
社長の言葉でアキラはツッコミを入れる。社長は「え?当たり前ですけど??」みたいな顔でこちらを見る。怖いから本気でやめて欲しい。
「んで、社長さん。例のものは??」
「待っててください。おい、あれを」
社長が声をかけると、1人の従業員が「失礼します」と言って社長室に入る。その従業員の両手には1本の鞘に収められている剣を大切そうに持っていた。それをハヤトに渡し、ササッと従業員は去っていった。
ハヤトは鞘から剣を抜き、新しい愛刀をじっくりと眺める。
「今回は、ハヤト様が持ってきて下さったギャンググリズリーの爪を材料として使わせていただきました。前のやつより切れ味は格段と上がっています。そして、何よりうりなのは」
「とても、軽いな」
「流石、ハヤト様。そうです。切れ味を格段に上げ、剣の重さを前より軽くしました。これによって速い攻撃を得意とするハヤト様にはぴったりな武器となるでしょう。」
「あぁ、最高だ。ありがとう社長さん!!この剣の名前は??」
「一応、『ライトソード』のまんまでございます」
「せっかく、生まれ変わったんだ。ちょっとかっこいい名前付けてやらないとな
……………うん!この剣の名前は『ライトソードα(アルファ)』で行こう!!決まり!!」
社長はニコニコと笑顔のままだ。そして、ハヤトはうーんと唸り
「めっちゃ試してぇ!…………あ、そうだ!!社長さん!!広場借りてもいいか??」
「当たり前じゃないですか!!どうぞ使って下さい」
そして、ハヤトは目をダイヤ状にキラキラさせながらアキラの方を見つめ
「ねぇ、アキラさん。」
「何よ??」
「今から、俺と決闘しない??」
彼から意外な提案をされ、アキラはとても驚いた。
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