5話「一方、ハヤトは……」
アキラとランがギルドで楽しく酒を飲んでいる一方、ハヤトはジャングルで『スズラン』の食材調達をしていた。あれから2時間くらいひたすら食材を探し、狩ったり、採取してきたがまだ30人分くらいしか無かった。
「うーん、もっと大物がいてくれたらありがたいんだけどなぁ」
チアキに渡された食材リストに載っていた食材はほぼGETしたので、あとはハヤトのお任せだ。そこで、ハヤトは大物の獲物を探し、ジャングルの奥へと進む。
もちろん、進みながら何かいい食材があればどんどん手に入れ、持参しているアイテムボックスにいれる。
アイテムボックスとは、冒険者になると貰える必須アイテムで、どんな大きさのものでも入れることが出来る代物だ。入れたものは、ギルドカードで確認することができるので、それを使って必要なものを取り出すなどして上手く活用している。
「お?」
奥に進んでいくと、そこにはDランクモンスター『ロックバッファロー』の群れがいた。ロックバッファローとは名前通り全身硬い岩に覆われているバッファローだが、硬い岩は武器や防具に重宝されるほど適しており、しかも肝心のお肉は噛みごたえが抜群だとなかなか好評が良かったはずだ。
ラッキー!!、と思ったハヤトはライトソードを握り、ロックバッファローに近づく。ハヤトの存在に気づいたロックバッファローは荒い鼻息を出しながらハヤトに突撃しようと直行した。
「そっちから来てくれるかぁ!!いいねぇ!!」
ハヤトはロックバッファローの突進を余裕で躱し、ロックバッファローに目掛けてライトソードを振り落とす。当然、普通のライトソードでは耐久が耐えられなくなり折れてしまうが、少し弄ってあるハヤトのライトソードならばロックバッファローの岩なんぞ豆腐に過ぎない。ザクッと剣が岩を貫ぬく。
貫かれたロックバッファローは「ぶおぉ!!」と鳴いたあと、そのまま倒れた。それを確認せず、ハヤトはそのまま次のターゲットを決め、そいつに目掛けて近づき、2体目のなるロックバッファローをあっさりと殺る。
流石に、仲間が2体も殺られると、他のロックバッファローはハヤトに攻撃するのをやめて、逃げて行った。ハヤトはそれを追いかけず、倒れているロックバッファローに近づいて、ライトソードを使って解体をし始めた。
時間をかけて、なんとか岩と肉を分けたハヤトは岩と肉をアイテムボックスにいれる。そして、解体している途中に、1つ思いついたのがあるので、ハヤトは早速やってみようと、行動に出る。
余った骨や内蔵とかを、そこら辺に放置してハヤトはこの場から離れ、近くの茂みに見を潜める。そして、20分くらい経つと、10匹くらいのモンスターが姿を現す。名前は「フハイエナ」。Eランクのモンスターで、主に肉食モンスターの捕らえた獲物の食べ残しや死骸を餌とするモンスターである。見た目が少しグロッキーだが、普通にフハイエナの肉は市販で販売しているし、シビエ料理として人気がある食材だ。
ハヤトは、アイテムボックスから1つのアイテムを取り出し、それをフハイエナの群れへと放り投げる。
放り投げたアイテムは『ビリビリボール』。名前通り、形は球型で、周りに稲妻が生じている。強い衝撃を与えると半径15メートルに渡って稲妻を放ち、範囲内にいる獲物を一時的に痺れさせて行動を止めることが出来るアイテムだ。
カツン、とビリビリボールは上手くフハイエナの群れの中心辺りに落下する。
ビリビリィィィィーーーー!!
と、ビリビリボールから強い稲妻が生じ、全てのフハイエナは見事に稲妻に直撃して痺れていた。ハヤトはそれを確認してから、ライトソードを手に取り素早くフハイエナに斬りかかった。抵抗の出来ないフハイエナはあっけなくライトソードの餌食になり、動かなくなった。
そして、ハヤトは死んだフハイエナを全てアイテムボックスの方に放り投げ、ギルドカードを確認する。ロックバッファローにフハイエナを追加したら、丁度200人分くらいの量となった。
「うっし!!クエスト完了!!」
ハヤトはウキウキ気分でスズランに戻ろうとしたその瞬間、周りの空気が一瞬で変わったことに気づく。
20羽近くの鳥や、モンスター達が何かから逃げるようにハヤトの側を通り過ぎた。
そして、ジャングルの奥からノシッ、ノシッと足音をたて、現れたのは…………
「でけーなぁぁ~~」
ハヤトの目の前に現れたモンスターは『ギャンググリズリー』。Aランクモンスター。体長5メートル超えで、見た目はグリズリーにそっくりなのだが、身体中に痛々しい古傷が残されており、このモンスターの特徴といえる大きい爪が目立っていた。この爪でこの世を去ってしまう高ランク冒険者も少なくはない。
「へへ、こりゃあ大物だ。今夜は熊鍋か??」
しかし、高ランクモンスターを見つけても怖じけず、むしろ喜びの表情を浮かべる低ランク冒険者は、ライトソードを構え戦闘態勢に入る。
最初に、動いたのはギャンググリズリーだった。一瞬でハヤトの方に接近し、両手の爪でハヤトを切り裂こうとぶんぶんと振り回す。だが、ハヤトはライトソードで爪を弾き、そのままギャンググリズリーの懐へ。アイテムボックスから、瞬時に取り出したビリビリボールをガシッと掴みそのままギャンググリズリーの身体に強く叩きつけた
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
間接的では無く、直接の稲妻攻撃を喰らったギャンググリズリーはゆらりと後ろの方へ何歩か後退したが、すぐに大勢を取り直し、ハヤトに対して怒りの表情をする。
流石はAランクモンスター。これぐらいの攻撃では簡単には倒れない。
「おー、やるねぇ。じゃあ、今度はこっちから!!」
次に行動に出たのはハヤトだ。ライトソードを握りしめ、ギャンググリズリーに接近。そしてそのまま腹に目掛けてライトソードを突き刺す。しかし、それはギャンググリズリーの右手の爪でガードされる。そして、左手の爪でハヤトを切り裂こうと振り下ろす。
一歩出遅れたハヤトはなんとか回避することはできたが、肩から血がブシャァと噴く。回避したつもりが、どうやらかすっていたらしい。
「ハハ、痛てぇな!!この野郎!!」
ハヤトは笑を浮かべながら、またギャンググリズリーに接近。またしても、ギャンググリズリーに目掛けて、ライトソードを突き刺そうとするが、ギャンググリズリーは爪でガード体制に入る。
「それを待ってたんじゃ!!このボケかぁ!!」
突き刺そうとした瞬間、ハヤトは動きを止め、そして、素早く爪に目掛けてライトソードを振り下ろす。
バギィ!!と音を立てて、ギャンググリズリーの右手の爪は切り落とされた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
と、痛々しい声を上げるギャンググリズリーに対して、ハヤトは一瞬の隙も与えない。そのまま左手の爪にも目掛けてライトソードを振り下ろし、左手の爪も切り落とした。
「ハッ、爪のないお前なんてタコの入ってないタコ焼きと一緒だぜ!!」
もし、アキラがいたら「何言ってるの!?」とツッコミを入れられる発言だが、ハヤトは気にしない。そのまま、混乱しているギャンググリズリーの首に目掛けて、ライトソードを突き刺す。
グサッとライトソードの刃先がギャンググリズリーの首を貫通し、ギャンググリズリーは倒れて再び立ち上がることは無かった。
Aランクモンスターを討伐したハヤトは、疲れが溜まったのか尻餅をつく。
そして、ハヤトはあることに気づく。
「あれま」
ハヤトの愛刀であるライトソードに大きいヒビが入っていた。当然だ。いくらハヤトが奇妙な加工をしてあるとはいえ、所詮、Eランクの武器だ。これまでに、普通のライトソードでは切れないモンスターを次々と切り落としてきたのだ。その内、限界が来るに決まっている。
「これは、もう使えねぇなぁ。社長に連絡しとくか」
そして、ハヤトは亡骸のギャンググリズリーと、切り落とした爪をアイテムボックスに放り投げ、ジャングルを出たのだった。
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もうすっかりと日が落ち、スズランと武器のメーカー『疾風』の社長に会うのは明日でいいか、と思ったハヤトは自分が寝泊まりしている建物に入る
「ただいまー」
「おかえり。おや?珍しいね。君が怪我を負っているなんて」
ハヤトを出迎えたのは、1人の女性だ。名前はアミ。顔は整っているが、常に眠たそうな表情をしている。身長は165前後で髪型は、茶髪でサイドロング。首元には、不思議な形をしたネックレスをつけており、服装は、地味な色をしているエプロンを身につけていた。
彼女はこの建物で雑貨屋を経営している。とは言っても、ここにお客さんが訪れることなんてほぼないので、ハヤトにとって普通の宿みたいなものだ。
「たまたまだよ。それより、ハイこれ」
ハヤトはアイテムボックスから、今日のジャングルで収穫した肉やら木の実やらを取り出し、近くにあるカウンターテーブルにドン、と置く。
彼女の建物に寝泊まりする条件として、ハヤトは毎日この彼女に何かクエストで得たものを納品している。
「なるほど。ギャンググリズリーか………。それだったら君が傷を負うのは納得だね」
「それは分かったからさ。アミさん!!それより、早く飯作ろうぜ。熊鍋、熊鍋〜♡」
「フフ、落ち着きたえよ。私は君に頂いた今日の分を片付けてくるから、その間に君は鍋の準備をしてくれるかな??」
「かしこまりんぐだぜ!!」
アミはハヤトに貰った食材を持って、部屋の奥へと入り、その間にハヤトはスムーズに鍋の準備と、食材の下処理を開始。途中でアミも戻ってきたので2人で熊鍋の準備をした。
あれから、1時間ほとで熊鍋が完成し、2人で熊鍋を食べていた。ギャンググリズリーの肉はとてもジューシーで美味しく、他の食材と合わせて食べたが、どれもベストマッチして美味しかった。
「あ、そうそう。さっきハヤトくん宛てに封筒が来てたよ。はい」
「マジ?俺が傷を負う以上に珍しい事じゃねぇか」
ハヤトはアミから封筒を受け取り、送り主を確認。送り主はギルドからだった。
ハヤトは「あぁ、またか。久しいな」と呟く。ギルドからハヤトに送られてくる手紙のほとんどはギルドランクの昇格の申請書だった。これまでにも何回か送られてきたが、ハヤトは昇格する気はさらさらないので無視してきた。
ギルドの方からも諦めたのか、しばらくしたらランク昇格の申請書は来ることはもう無かったはずだが……………
「どうせ、またEランク昇格の申請書だろ??」
と、言って封筒を丁寧に開け、中から一通の手紙を取り出してアミと一緒に目を通す。
『ハヤト様。貴殿は、Sランク冒険者であるアキラ様、そしてラン様に推薦されSランク冒険者の昇格を認めます。手続きの方をしたいので、近いうちにギルドの受付までお越しください。』
「「は!?」」
飛び級昇格の連絡を受けたハヤトとアミは驚きの言葉を隠せなかった。
感想・ブクマ待ってるぜ☆☆☆☆☆