2話「低ランク」
どーも。
「Fランクですって!?」
アキラは耳を疑った。
Fランク。つまり、ギルド内で1番低い位だ。もちろん、ランク内でランキングなども存在していない。
冒険者になり、ギルドに登録すると1番最初になるランクであり、しかもそこそこの働きをすればすぐにEランクに昇格できるので、Fランクの冒険者はそんなにいないはずだ。
「でも、なんでFランクの君がここに?」
そう、ここはAランク級のモンスターがごろごろといる魔の聖地。Fランクの冒険者がまず訪れることの無い場所のはずだ。
この質問に青年は、片手に持っていたバスケットと、1枚の紙をアキラに見せる。
「これは………」
バスケットの中には色んな病気に効く沢山の薬草が入っていた。そして、紙には
『 Fランククエスト。
私の旦那が少し厄介な病気にかかり、一般に売っている薬を服用しても効果がありません。どうか、薬草の調達をお願いします。』
と、書かれていた。どうやらクエスト中だったようだ。
「ここら辺に生えている薬草が1番その旦那さんがかかっている病気に効くって聞いたからさ。採りに来たんだ」
「それでも無理にも程がある!!」
青年の防具は、オリジナル防具ではなく、一般的に販売しているEランクの防具だった。
もう片方の手に握っている剣も『ライトソード』。これも一般的に販売されている武器でEランクだったはずだ。斬れ味もなければ、耐久性もない。
「でも、どうして??君はその武器で牛鬼を斬っていたけど、そんなことはありえない。普通だったら、ひと振りで耐久性が限界を超えて折れるはずなのに………」
「あれ?知らない?今の時代は、安い包丁でも馬鹿みたいに砥石で研けば、高級包丁とあまり大差ない切れ味が出せる時代だぜ?だからこの武器もひたらすら砥石で研ぎまくれば、あんなん楽勝で斬れるよ??」
「そんなことって………」
そんな単純な理由で、牛鬼を斬れる程の斬れ味が出るとは思わない。しかし、それは常識内の範囲での話だ。もし、その砥石の研ぐ作業を1週間……いや、1ヶ月間やり続けたらどうなるだろうか??
いや、もし可能ならば、ライトソード以上の武器でその行為を行ったならばどうなる?考えただけでも恐ろしい
「じゃ、俺はこれで」
「ちょ、待ちなさい!!私はまだあなたに聞きたいことが」
「いや、まずは周りを見てみなさいよ。あんたにはまずすることがあるだろ?」
「あ………」
アキラは青年の言葉で我に返り、今の自分の周りの状況を思い出す。牛鬼の矢にやられてしまった冒険者や、生死をさまよっている冒険者達が倒れている。早く助けないと危ない状態だ。
「じゃあ、本当に俺はこれで失礼させていただくわ。」
青年は剣を鞘に入れ、手をひらひらさせながら歩き出した。
「せ、せめて!!名前ぐらい教えてよ!!」
「俺?俺の名前はハヤト。永遠のFランク冒険者だ。 」
その青年………ハヤトは「またね。お姉さん」と言って、再び歩き出し、姿が消えたのは間もないことだった。
それを見届けたアキラはすぐに仲間たちの方へ駆けつけ、意識のある冒険者たちの治療の手伝いをし、死んでしまったジャン含め他の冒険者たちの遺体も回収し、馬車で1週間かけてギルドに戻ったのだった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
Sランククエスト『牛鬼討伐クエスト』の完了をギルドの受付の人に報告。
今回、このクエストに参加した冒険者は40人。その内、13人が死亡し、25人以上の負傷者が出た。もちろん、生還した冒険者たちの帰りを喜ぶ者もいれば、殉職してしまった冒険者たちが残してしまった人達は悲しみの涙や悲鳴をあげていた。
ギルドの報告を終えたアキラは、すぐにギルド内を歩き回る。当然、ハヤトと出会うためだ。彼にはまだ聞きたいことが山ほどある。
ハヤトはすぐに見つかった。低ランクの冒険者が集まる酒場スペースで、仲間たちと一緒に酒を飲んで楽しそうにしていた。アキラはすぐにハヤトの方へ近づく。
「ちょっといいかしら??」
アキラは、ハヤトのすぐ側まで近づき、声をかける。ハヤトはアキラを見ても表情を変えなかったが、周りの冒険者達は唖然していた。
「おー、この前のお姉さんじゃん。やっほー」
「おい!!ハヤト!!どういう事だ!!」
ハヤトの隣に座っていた男性が、ハヤトの胸ぐらを掴み、慌て気味で声をかける。ハヤトは少し慌てて
「ちょ、一旦落ち着けって!!トラさん!!このお姉さんとは前に少し会っただけだよ。」
「会ったって………。お前、この人がどんなお方か分かって言ってんのか!?」
「え?このお姉さんそんなに凄いの??」
この答えにハヤトの周りにいる冒険者たちは顔に手を当て、呆れ気味なため息を着く。そこで、トラさんと呼ばれている男性がハヤトにアキラの説明をする。
「このお方はな。ギルド内でSランク4位の女性冒険者アキラさんだ。22歳という若さとはいえ、Aランク級のクエストをことごとくクリアし、冒険者としての実力を持つ有名な冒険者だぞ!?」
トラさんに説明を聞くアキラは少し顔を赤くして照れていた。本当のこととはいえ、他人に説明されると恥ずかしい気持ちになる。
「私のことはいいから!!ハヤトくん。少しいいかしら??」
この言葉で周りにいる冒険者たちが「おぉ!?」と雄叫びを上げる。
中には「アキラさんに誘われるあの男は一体??」と惑わいの言葉もあれば「アキラ様に誘われるあの男許さん!!」といったアキラファンの怒りの言葉などが聞こえた。
「え?別にいいけど」
周りの野次にも気にせず、ハヤトはアキラの誘いを簡単に了承する。これによって、周りの野次は更にオーバーヒートした。
「悪いな、みんな。どうやら、その有名なアキラさんに何故かお誘い貰っちまった。今日の飲みの代金は俺が払っておくからそれで許してくれ」
と、言ってテーブルの上に1万エン[この世界の単価はエン]を置いて席から立ち上がる。ちなみに、現在ハヤトたちの頼んだ酒や料理の値段は合わせて3千エンほど。まだ追加で酒や料理が楽しめる………
このことを理解したトラさん含め他の冒険者たちはそれから、何も言わずに周りの野次を飛ばす冒険者たちの仲介に入ってくれた。ハヤトにとってやっぱり良き友人たちだ。
「じゃあ、行こうか。おねぇ………アキラさんでいいか。少し寄りたい所あるから寄ってもいい?」
「え?いいけど」
そして、ハヤトとアキラは歩き出した。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
そして、ハヤトとアキラはギルドの受付の隣にある掲示板の前に立っていた。
その掲示板には色々な紙が何枚も貼ってあった。
「これはクエストボード??」
「うん。てか、聞かなくても俺よりアキラさんの方が見てるだろ」
このクエストボードには、一般市民の人や冒険者など、色んな人の依頼が貼ってある。自分が受けるクエストの依頼の紙を剥がして、それを受付に持って行くとクエストを開始することができるというシンプルなシステムだ。
「えぇーと………。FランクFランクっと………」
ハヤトは突然、Fランクのクエストを探す。そして
「お!また、チアキちゃんとこの店からの依頼が来てる。これにしよ」
と、いつもは無表情なハヤトが少し微笑みながら目的の依頼の紙を剥がす。そして、アキラに「ちょっと待ってて」と言い、受付の方へ行く。それから、数分後にハヤトは戻って来た。
「これでOKOK。悪かったな、待たせちゃって」
「別にいいわよ。それより、ちゃんとノルマは果たしてるわね」
「うん。これで今月分はラストだよ」
Fランクの冒険者は毎月クエストを5個クリアしなければならないという義務がある。Eランクに上がれば、この義務は無くなるので、面倒臭いという理由で早くEランクに上がる為に頑張る冒険者も少なくはない。
「それで?アキラさんは俺になんの用??」
「あぁ、あなたのことを教えて欲しいの」
「俺のこと?何で?」
「牛鬼を倒すほどの実力があるのに何でFランクに拘るのか……よ」
アキラの問いにハヤトは腕を組み、「うーん」と悩む。そして
「説明面倒臭いから嫌だ」
「はぁ!?」
「だいたい、出会って間もないのに俺のこと知りたいってあんたは馬鹿か!!プライバシーの侵害で、訴えるぞ!!」
「うっ……………!?」
彼が何言ってるか、良く分からないが、なんか正論のように聞こえて何も反論することができない。
「で、でも!おかしい!!私、こう見えて実力のある冒険者たちの名前と顔は全員把握してるつもりよ!ハヤト君のような実力のある冒険者だったら当然私も知ってるはずなのに…………」
「それは上位ランク内の冒険者の話でしょ?最低でもCランクくらいか?アキラさんみたいな上位ランクの人達からしたら俺達のような低ランクの冒険者なんてまず目に留めるはずなんてない」
「そんなことな………」
「じゃあさ、さっきアキラさんのこと説明したトラさんのこと教えてよ。俺からしたらあの人はなかなかの実力のある冒険者だよ。俺が認めるぐらいなんだから、アキラさんは知ってて当然だよな??」
「………………」
アキラは口を開くことができなかった。当然だ。ハヤトの言ってる事はほとんど的中していた。アキラが把握している実力のある冒険者は確かにCランクからの人しかない。それ以下のランクの冒険者のことなんて考えたことも無かった。当然Fランクの冒険者たちのことも…………
そんな困惑してるアキラを見たハヤトは、ため息をして
「トラさんはEランクの冒険者だ。見た目は遊んでるように見えるが、奥さんと娘さんの為に一生懸命上位ランクに上がるために頑張ってるお父さんだよ。この前はソロで『キラーマンモス』を討伐したって自慢してた」
キラーマンモスとはCランクのモンスターで名前通り人に害を与える危ないマンモスだ。本当にEランクの冒険者がソロで討伐したならば凄いことだ
「でも、これはギルドに信じてもらえなかったらしい。理由は簡単。『低ランクの貴様がキラーマンモスをソロで討伐することができる訳ないだろ!!』と言われて、たまたま近くにいたAランク冒険者の手柄になったらしい」
やばい、それ聞いたことがある。低ランクの冒険者が高ランクのモンスターを、ソロ討伐したっていう噂が流れていたが、アキラもてっきり嘘だと思っていた。それが、まさかのトラさんだったとは………
「基本、そんなもんだよ。実力あるなし関係なくランクとやらで全て決まる。それがこのギルドのルールだろうよ。ま、俺は気にしてないけどな」
「………………」
「あんたもあまり俺のこと近づかない方がいいぞ。あんたみたいな高ランクの冒険者が低ランクなんかと一緒にいたら何言われるか分からないぜ」
「そんなこと………」
「あぁ!!その通りだぜ!!低ランクのカスのくせによく分かってるじゃねぇか!!」
アキラの言葉を差し押さえ、大声を出す者がいた。アキラは声がした方に顔を向けると、そこには3人の男性の冒険者が苛立ちの表情をしながら立っていた。
補足。恐らく本文で謎の青年、ハヤトの容姿などを説明するタイミングがないと思うのでここで書きたいと思います。
ハヤト(18)Fランク
身長はだいたい175前後くらい。
髪は黒髪でミディアム。顔は童顔で、よく子供扱いされる。本人もそれは気にしている模様。
服装はクエスト中は1話であった防具を身につける。オフな時は、Tシャツ1枚で過ごすことが多い。




