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回生のカルテジス  作者: 立草岩央
第三章-死闘,100年都市-
21/23

-3-




馬車は何事もなかったように雪をかき分けて進む。

横に吹いていた風が徐々に勢いを無くし,静かな降雪に変化していく。

その間,先程のような検問者に出会うことはなかった。

何かに立ち往生することもなく,車輪と木箱の擦れる音だけが黙々と響いていた。

それから少し時間が経って,馬車はヒルス峡谷を抜ける。

頭上を常に覆っていた影から抜け出し,灰色の空の光に照らされる。

幌の中からでもその違いが見え,エス達は外の様子を確認する。

青白い岩肌は消え,いつの間にか周囲の光景は開けていた。


「やっと見えたぞ。100年都市だ」


御者の声と共に眼前に広がる氷都を見下ろす。

峡谷から続く丘を下る形で,エス達は眼下の100年都市を一部だけ見渡すことが出来た。

一部というのは,それだけこの都市が広いからだ。

全長20㎞あるこの都市は,一望するだけでは,端を捉えることは出来なかった。

全体の通路は十字路が幾つも連なった構造をしており,それによって出来た四方の空間に建物が並んでいる。

都市の境界ともなる付近は建物がまばらで,人が通れるように除雪作業が行われた跡が残っている。

中心部に行くほどそれらの跡はなくなり,石造のような薄暗い建築物が乱立するが,外観の殆どを氷に覆われている。

本来ならば朽ちていくはずの建物が原形を保っているのは,氷によって望まぬ補強をされているからだろう。


「この大きさ,ファルバレスより広いんじゃ?」

「災害が起きるまでは,この国有数の都市だったのよ。あれだけ広くても,人が見当たらない場所がなかったくらい,人口は多かったって聞くわ。でも,今は立ち入り禁止になっている所ばかりよ」

「立ち入り禁止?」

「住んでいる人がいるって言っても,それはごく一部の場所だけ。他は100年前のまま放置されているの。特に中心部は高い建物が多くて危険だから,誰も立ち寄らないわ」

「そうか。誰も補修する人がいないから……」


例え氷で覆われていようと,いつ倒壊するか分からない。

比較的大きな建物が密集する中心部は,暗黙の内に立ち入りが禁じられていた。

しかし,それは誰も立ち寄らない,転移者にとっては絶好の場所であることも意味していた。


「ティルダートがいるとしたら,その立ち入り禁止区域内かな」

「多分そうね。あそこは人目を避けるには最適の場所だから」


クラリスがシーカーから得た情報は,大よその場所が把握できるだけで,ティルダートが100年都市のどの地点に潜んでいるのかまでは分からない。

こちらの存在に気付いて既に逃亡しているのでは,とエスは考えたが,彼女曰く,彼は100年都市から一歩も動いていない。

大まかな位置特定とはいえ,それだけの判別は出来るようだ。

氷の都市が近づいて来る中,エスは彼女に確認する。


「先に聞いておきたいことがある。クラリスは,あのティルダートに向かっていくことが出来るのか?」

「向かう?」

「戦う,ってことだ」

「そんなことができるか,今でも分からないわ……。貴方はどうなの?」

「何度も死にかけているから,ある程度の心構えは出来たよ。四の五の言っている状況じゃないし,正当防衛での殺しには,もう躊躇しない」


問われたクラリスは,未だ決心を付けられていないようだった。

平穏な日常から突如殺し合いに巻き込まれれば,足踏みをしてしまう感情が芽生えるのも当然だ。

戦いではなく,話し合いで説得する道も考えるだろう。

対して,記憶がなく比較する平穏に疎いエスは,既にマコトで一回,ティルダートの襲撃で二回,死への感覚を味わっている。

積極的に戦いを望むわけではないが,自分の命を守るために戦うことに,抵抗はなかった。


「いや,出来ないっていうなら,それで良いんだ。こんなの慣れるものじゃない。なら,俺が何とかする」

「何とかって……」

「俺が殺す」


続けてエスが,冷たい声でそう言った。

それを聞いたクラリスは,少しだけ両肩を動かした。


「ティルダートが,話し合いが通じる相手じゃないことは確かだ。列車の時や孤児院の時だって,奴は周りの人を巻き込むことを理解した上で,力を使っていた。今ここにある,100年都市と同じだ」


100年都市は転移者同士の戦いによって,全ての機能を奪われた。

そして今,過去と同じ道を歩もうとしている。

他の転移者を殺すためならば,周囲を巻き添えにしても構わない。

冷たい機械を操る転移者の行動は,それを如実に表していた。

エスの言葉を聞いたクラリスは,表情に影を落としながら俯く。


「ごめん。いきなり殺すなんて言えば,怖がるのも分かる。でも……」

「分かっているわ。貴方の言うことは正しい。寧ろ,殺せないなんて言われたら,それこそ何のために此処まで来たのか,分からなかったかも」


何処か楽観的な意識があったのかもしれない。

彼女はエスの割り切った発言を聞いて,考え方を改めたようだ。

視線はそのままに,自分に言い聞かせるように小さく呟く。


「これは共闘。彼を倒すまでの一時的なもの。まだ少し,寝惚けていたのかも,しれないわね」

「……」

「止めてよ。そんな顔をするから,私は……」


反応に困る表情を読み取り,クラリスは嫌がる声を出す。

下手な同情は止めてほしいのだろう,と彼はその思いを察して何も言わなかった。

幌の隙間を縫って吹き抜けた一瞬の風が,垂れた互いの前髪を揺らした。


「私は絶対,生きて帰らないと」


誰に言い聞かせるでもなく,少しの間をおいてクラリスはそう言った。

馬車は草木のない丘を下り,ついに100年都市へと差し掛かる。

自然に生み出された道ではなく,都市へ続く人工的な道へ移り変わる。

人工的な道と言っても,馬車の揺れに変わりはない。

辺りは雪が固形化した氷が大半となっており,路上の道も,人の足や歯車の跡が固まったまま残されている。

本来は幾つもの人が並んで通れるような広さがあったのだろうが,今は馬車一台が通れる広さを残して,50㎝近い積雪に覆われている。


遠くに見える氷の建造物を残して,近場には住宅が点々としている。

それら住宅は積雪を避けるために,一階がコンクリートのような階層となり,人が住む居住場所は二階からとなっていた。

そのどれもが最近改装されたように,エスの視点からは真新しく見えた。

かき分けられた雪の道を辿り,馬車のために用意された円形の停車場に辿り着く。

ようやくあの100年都市入り口に到達したようだ。

馬が息を荒げて,御者の指示によって立ち止まる。

するとその様子を家の窓から見ていたのか,暫くして停車場から最も近い家から,耐寒用の衣服に身を包んだ30代位の女性が,エス達の乗る馬車に近づいた。


「遅かったじゃないか。何か起きたのかい?」

「いや,注文の品が出遅れたらしくてなぁ。出発に時間がかかった。皆の食料は足りてるか?」

「数日そこらで尽きるもんじゃないよ。それより,何かあったんじゃないかって,皆が心配していた所さ」


御者の知り合いなのか,割と気さくに話し合う二人。

そんな彼らを傍目に,エス達二人は上着のフードを被りつつ,荷馬車から荷物を降ろし飛び降りる。

着地した瞬間,雪の固い感触が足全体に伝わった。


「ところで,途中で出会ったよく分からん集団。あれは何なんだ?」

「あれかい。転移者を探し回っている集団さ。あんたも聞いたことがあるだろ。最近暴れ回っているハバグサ・マコトっていう転移者に対抗して,専門の隊が作られるって」

「専門……そういえば,そんなことをファルバレスで耳にしたな」

「件の転移者は,バベルの町に向かったって聞いたきり,噂は聞かない。どうなったのかね」

「さぁな。全く,どうなっちまったんだろうな」


彼らの話に入っていける筈もなく,二人は遠くに見える氷の街並みを見上げた。

立ち入り禁止区域である中央街までは,まだ少し距離がある。

この先までは馬車の類は通っていないようで,自力で歩いていく必要がある。

身体能力的に徒歩で行くことに問題はないが,周りにそれなりの間隔で家が建っているため,人目に付きやすい。

厄介なことに巻き込まれないよう,エス達は荷物を担ぎながら,早々にその場から立ち去ろうとする。


「あんたたちは,ここから何処に行く気だい?」


すると二人が動くよりも先に,先程の女性が声を掛けてくる。

単純に世間話をするという体で話しかけてきている。

本来なら周辺の事情を知るクラリスが受け答えをするのだが,何か考え事をしているようで反応が薄い。

女性に視線を合わせながらも,その声には覇気がない。


「都市の中心,北側です。あっちに昔の家があるんです」

「あぁ,成程ね。でも,雪道は気を付けなよ。あと,北側は全体的に崩れやすいから,あまり火は使わないように」

「は,はい……」

「で,あんた達二人って,どんな関係なんだい? 恋人同士,には見えないけど」

「それは……」


女性の返答に迷っているのではなく,別のことに意識が向いているため,考えが纏まっていない。

馬車の中で話したことが,未だに彼女の頭の中を支配していた。

纏まらないがために更に思考が乱れ,もどかしい沈黙が流れ始める。

すると見かねたエスが,白い息を吐いてから声を掛けた。


「何やってんだよ姉さん」

「えっ」

「北の家に行くって言ったじゃないか。早くしないと日が暮れて,もっと寒くなる。風邪を引いたりしたら,大変だろ」


驚いて目を丸くするクラリスから視線を外し,エスが彼女を庇うように一歩前に出る。

女性が二人を姉弟であると誤解させるため,念を押して会話の手綱を握る。


「すみません。ここに来ると感傷的になってしまって……」

「いや,いいんだ。変なことを聞いた私も悪かった。北側には宿もあるから,そこで荷物を降ろすと良いよ。そのまま持っていけば,中身が凍っちまうからね」

「どーも,です。ほら,姉さん行くよ」

「あっ,ちょっと……」


早々に女性との会話を切り上げ,エスはクラリスに右手を握って前に進む。

不審がられた様子はなく,そのまま女性は二人を見送った後,荷馬車にある荷物を求めて歩いて行った。

それでもエスが演技を止めることはなく,暫く手を繋いだまま歩き続ける。

そうして周囲に人影が見えなくなった頃,クラリスが不意に手を引いた。

放せという意味に捉えたエスが,手を放して振り返ると,彼女は握られた右手を左手で握りながら,エスを睨んでいた。

寒さのせいもあって,些か頬が紅潮している。


「エス……」

「どうかした?」

「さっきまで,殺すだのなんだの言っておいて,今の落差は何なの?」

「いや,そもそも姉弟の関係にしようって言ったのは,クラリスじゃないか。だったら,なり切らないと。周りにバレたら余計面倒だろう?」

「そう,かもしれないけど」


当然のように答えるエスに,彼女は臆したような表情をする。

何故そんな顔をするのか,意図が分からず今度は彼が言葉に迷っていると,おずおずといった様子で再度問い掛けてくる。


「別に,茶化そうとかしてないのよね?」

「勝手に手を握ったのは,悪かったよ。でも,今の何処に茶化す要素があるんだ?」

「はぁ……」

「なんで溜息……」

「やっぱり,貴方のことよく分からないわ」

「俺も記憶がないから,よく分からない」

「……今のは,茶化したでしょ?」

「そんなつもりは……」


よく分からない問答の中でも,二人が辿った足跡に雪は積もっていく。

積もった雪はかさを増し,跡の輪郭を失わせる。

やがてクラリスは,右手で頭上に積もった雪を払いながら首を振った。


「こんなの,私が馬鹿みたいじゃない」


呆れ半分といった様子で,ようやくエスを追い越して歩き始める。

調子が元に戻ったようには見えないものの,何かを吹っ切った様子だ。

しかし,先程の会話で放った妙な敵対心は,依然として変わっていなかった。


「クラリス。よく分からないな……」


心情の移り変わりが理解できず,エスはその後を追うだけだった。

停車場の女性が口にしていた,泊まるかどうかも分からない宿に立ち寄る。

人目を避けるように必要のない荷物を降ろした後,二人はそのまま北側を目指した。

背の高い建物が多くなる代わりに,雪かきによって整えられていた道が,徐々に少なくなっていく。

人が住む住居区を離れ,建物から零れる光がなくなり,雪に包まれた足が歩き辛さを訴える。

それでも,お互い転移者としての力を持つがゆえに,それ程の苦は感じなかった。


雪が大きく積もる建物の足を避けつつ進むと,所々に文字の入った看板が見え始める。

内容を見る限り,それらは100年都市の成り立ちや,ここで起きた災害に関して記述されていた。

白い雪に被れても鮮明に見えるよう,真っ黒な文字で描かれている。

その他には巨大な慰霊碑も見られたが,常に悪天候のため訪れる者は少なく,地元の者だけが立ち寄っているようだ。

冷たく青白い石碑が,静かにそこに佇んでいる。


視界の先には,次第に30m近い高層の建物が並び始め,立ち入りを禁ずる大きな看板が現れる。

ここから先は,倒壊の危険があるため関係者以外は近づいてはならない。

だが,エス達は立ち止まることなく進み続けた。

侵入禁止の境界線を通り過ぎ,足元が完全な氷の道に変わると,それを妨げるように,雪を纏った風が少しだけ強まる。

本来は都市の中心へと導く筈だった巨大な大通りは,既に機能を失っている。

互いに隣接する建物,氷の狭間から高い風の音が鳴り始める。

クラリスの情報通りならば,既にこの一帯はティルダートの管轄内だ。

人の気配は感じない中,エスは状況を確認するために彼女に問い掛けた。


「この辺りに他の人は?」

「付近はずっと見ているけど,やっぱり見当たらないわ」

「だとすると,屋内に潜んでいる可能性が高い。シーカーで建物の中は探索できる?」

「やってみる」


一旦その場に立ち止まり,探索の方法を変える。

クラリスは瞳を黄金色に光らせながら,シーカーに新たな命令を送った。

風に混じり,聞き覚えのある駆動音が幾つも通り過ぎる。

多数の機械と状況を共有するため,彼女の脳に負荷がかかるのは当然だが,探査する以上避けられないことだ。

ティルダート相手に無効化が通じるか分からないものの,念には念をとエスも波動を身に纏う。

シーカーは透明化で姿を隠しながら,氷に包まれた建物を調べていく。

周囲の気候に妨げられることなく,迅速にあらゆる場所を見抜く。

しかし,目的の人物は影も形も見つからないらしく,操作しているクラリスの表情も芳しくない。

暫くして違和感を覚え始めたエスは,彼女に声を掛けた。


「なぁ,クラリス」

「えぇ,私も気になっていた所よ」


彼女も同じような感覚を持ち,小さく頷いた。

辺りが,あまりに静かすぎる。

本来ならば,ティルダートからの攻撃を受けても良い距離にまで,二人は迫っている。

それにも関わらず,奇襲の一つもない。

振り返れば,ファルバレスから100年都市まで移動した際も,一切の妨害がなかった。

まるで二人がこの都市に来ることを望んでいるかのような無抵抗さだ。

一種の誘導すら感じたエスは,一旦引くことを考え始めるも,突如クラリスが視線を上げて何かを感じ取った。


「待って。この先の建物から,誰か来るわ」

「まさか,ティルダートが」

「違う……。これは,怪我をしている……?」

「怪我?」


クラリスはシーカーから得た情報を元に,今いる大通りの前方を指差した。

廃墟と化した雪景色の中に,その人物はいるのだという。

都市の人間が近づかない場所に倒れている一人の人間。

普通に考えれば,異様な状況であることに間違いはない。


「それは罠じゃ」

「分からないわ。でも,血を流しているのは確かよ」

「……こっちに向かってきているんだな?」

「えぇ,真っすぐ向かってくる」


語られる事実に対して,エスは慎重に対処を考える。

二人は南側の居住区からやって来た。

侵入した一般人が,何らかの原因で怪我を負って,元の場所に戻ろうとしている場合もあり得る。

血を流しているだけでは情報が不足しており,向かってくる相手が転移者であると判明するまで,シーカーの銃撃は出来ない。


「容姿とかを,詳しく教えてほしい」

「その人は,男性よ。年齢は30,40かしら。髪も銀色じゃないし,転移者のようには見えないけど」

「分かった。俺が前に出るから,少し距離を離して」

「うん。後ろは任せて」


警戒を強めるため,再びエスが前に出る。

能力の初動が遅いクラリスを付かず離れずの距離に置いたまま,速度を落として目標へと近づいていく。

やがて大通りは,倒壊した建物の一部が散乱し始め,前方を覆い隠していく。

あの看板に明記されていた通り,既に幾度となくこのような崩壊は続いているのだろう。

小さな氷を昇り降りすること十分前後。

クラリスが警告すると同時に,地に突き刺さった氷の柱から,その人物は現れた。

先行していたエスがその場で止まり,様子を窺う。

情報通り,その男性は怪我を負っているようだった。

胸部を片手で抑え,前屈みになりながら二人の元へ向かってくる。

足元はおぼつかない様子で,身に纏う耐寒用の服には,腹部に掛けて血が大きく付着している。

怪我を負ったのか負わされたのか,エスは苦しむ男の元へと警戒心半分に近づいた。


「うぅ……だ……誰か……」

「大丈夫ですか? 何かあったんですか?」


男は俯きながら,助けを求めるように手を伸ばす。

髪は赤黒く,身体つきは少年か青年といったところだが,表情は40代程度の男性のように老け込んでいる。

転移者なのか,見ただけでは判断できない。

手を取らないままエスが辿り着くと,男はこちらを見上げて目を見開いた。


「お,お前は……そうか……やっと……」

「……? 一体何を?」


エスの姿を見た男の瞳孔が開く。

まるで探し求めていたものを見つけたかのような反応だった。

不信感を抱き一歩後ろに下がるエスに対して,男は続けてこう言った。


「お前,転移者だな?」

「っ! クラリスッ,離れろ!」


瞬間,男の手から斬撃が放たれる。

既に警戒していたエスは,眼前に迫る剣を回避し,後方に飛び退く。

再度男の姿をよく見ると,彼は雪の中から一振りの剣を取り出していた。

元から地中に隠していたのだろう。

身の丈近くある,赤く灯った刀身を向け,男は軽々とそれを振るう。

その瞳に,とうに助けを求める意志は消え失せていた。


「エスッ!」


大きな地鳴りと共に,二人を分断するように,巨大な氷の壁が地中から聳え立つ。

厚さは5m近くあり,高さ広さ共に大通りを塞ぐほどの障壁だった。

エスが後ろを振り返ると,焦燥の表情をしたクラリスが眼前から姿を消す。

そそり立った壁の頭上から,雪の塊と氷の破片が降り注ぐ。

血濡れの男が何かをした様子はないが,関係性がないとは言い難い。


「こんなもの……!」


目つきを鋭くしたエスは,身に纏った波動を変形させる。

この隆起は自然現象ではない,明らかに能力によって操作された類のものだった。

ならば無効化の力で突破できる。

クラリスと分断することが目的であると考えたエスは,彼女と合流するため,すぐさま波動で氷の壁を消滅しようとした。

だがその直後,彼は自身の立つ氷の地面が崩壊していることに気付く。


「何ッ!?」


今いる地下には巨大な空洞があったようで,エスの周囲一帯20mが音を立てて落下していく。

無効化では阻止できない完全な落盤。

これら全てが計算されて行われたことなのかは分からない。

ただ,目の前にあった壁が遠のいていく。

無表情でこちらを見下ろす血濡れの男と共に,エスは空洞となった都市の地下へと落ちていった。




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