第一章:錬金術師と錬金術師――1
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凪いだ風。晴れた空。穏やかな潮流と、優しげな潮騒。
空の青と、海の青の狭間を、九艘の大型船が一つとなって滑り行く。
大型船の群れは、名を〝錬金領土〟と言った。
錬金領土は名前の通り、〝錬金術〟の街だ。
特殊な構造により、全方角へも推進力を向けられる、〝フォイトシュナイダープロペラ〟を推進器とし、原動力に〝再生エネルギー〟を用いて稼働。
〝海上妖精〟と言う船乗りが、〝マイクロバブル〟を以て運航を助け、船体の素材〝CFRP〟補強も担当している。
船長を務める〝九人の道標〟は〝システムギルド〟の一員で、脳波の同期により、阿吽の呼吸で操船していた。
何れにおいても、一般人がこなせる仕事ではない。だが、いや、だから、この洋上都市は錬金領土――錬金術が支える街と呼ばれているのだ。
錬金領土は、同時に学生の街でもあった。
合計八七二一六人の住民。その、ほぼ半数は学生で、錬金領土を構成する九艘の内、五艘は〝学級区画〟と呼ばれている。
学級区画は、船上に建てられたいくつもの建造物の総称で、船ごとに専攻する学問が決まっていた。
つまり、錬金領土で扱う学問は五つ。物理学、化学、工学、形式科学、生物学である。
領土内の学生たちに、年齢的な上限はなく、彼、彼女たち〝錬金術師〟は、一つの学問を追究することが使命だった。
〝五番船・形式科学〟にある〝システム科〟も、学舎の一つである。
ベージュに近い色を持つ、四階建ての建物だ。
形状は〝コ〟の字型で、半円状の昇降口が、一階と二階にあった。
システム科の名前に偽りはなく、専攻科目は〝システム工学〟。
各階に五つ存在するクラスルームは、教室とパソコン室を足して二で割ったような内装で、生徒一人に一台、パソコンが与えられている。
その校舎内に、廊下を歩む人影があった。
友人と思しき生徒と、雑談を交えながら帰路に就くのは、私服姿の十代後半と見られる青年だ。
茶色のミディアムヘアに、眠たげな黒い半眼を持つ、怠惰な印象が強い彼の名は、〝鳴宮道真〟と言う。