第五章:アルス・マグナが創りしもの――14
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引き付けを起こしたように、ウロボロスの身が跳ね震える。
ややあって、
「――う、……あああぁぁあぁぁぁあぁぁ――――っ!!」
脂汗と青筋を浮かばせながら、ウロボロスが絶叫した。
自身の体躯や知能を構成していた錬金術が、制御不能に陥ったのだ。
ウロボロスは、真理節によって錬金術を統括していた。そのコマンドが、鳴宮兄妹の錬金術で破棄されたのである。
必然的に、錬金術の統括は不可能となり、今や、自分自身の存在を保つことも、難しくなっているのだ。
「よくも……よくもよくもよくもやってくれたなぁっ!!」
別人と化したような激昂に、武がすくみ上がる。
「貴様のような下等生物が、完全なるこの我の邪魔をするとは、どれだけの罪か分かっているのかあぁぁっ!! 許さん許さん許さん許さん許さんぞおぉぉぉ――――っ!!」
己の体が崩れゆく中。最期の抵抗とばかりに、ウロボロスが拳を振り上げ、
「私の領民に手を出すな!!」
バハムートの拳が、ウロボロスの左頬をへこませた。
「こっ……!!」
先ほどまでの優位性を覆すように、ウロボロスの体躯が跳び、床に叩き付けられ、無様に転がる。
「終わりだよ、ウロボロス」
さらに、ヘルメスがその体を水球で包み、
「その、はた迷惑な野望とともに、消え失せてくれ」
pHを一気にゼロまで引き下げた。
「ごぼっ……!! がぼがばごぼぼが、……ぼ……」
消滅寸前だった体が、強酸性の水に耐えられる理由などどこにもない。
崩れ、溶け、消えていく。
完全を目指した存在の最期は、余りにも呆気ないものだった。
「道兄! 道兄ぃっ!!」
深く傷を負い、気を失った道真に、何度も何度も武が呼び掛けている。
「終わったよ、道真」
その背中を見ながら、ヘルメスは呟いた。
「――ありがとう」




