第五章:アルス・マグナが創りしもの――13
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ウロボロスと言う存在は、錬金術の集合体だ。
そして、その肉体を操る知能は、錬金領土のシステムがベースになっているらしい。
それなら、錬金領土のシステム管理組織、〝システムギルド〟のメンバーである自分たちならば。――錬金領土のシステムに精通した、自分と道兄の錬金術ならば、そのシステムを介してのハッキングが可能な筈だ。
錬金術の統御コマンド。凡そ二〇〇〇〇人分の錬金術を操るための、〝真理節〟への干渉が。
「させぬ! 絶対にさせんぞ!! 我が完全を邪魔するなどと言う、不届きはの!!」
武は、ウロボロスの出現に驚きを禁じ得なかった。
――そんな! い、一瞬でっ――!?
恐ろしい速度で、ウロボロスとこちらの距離が削り取られる。まるで、瞬間移動を目撃した気分だ。
相手とこちらの間には、防御用の氷壁がある。が、あの速力を生み出す筋力を用いれば、薄氷と大差ないだろう。
暴君が拳を振りかぶる。武は思わず目を瞑り、硬直した。
刹那、ガラスが叩き割られたような破砕音がする。直後、氷の破片が襲い来て、自分の体をズタズタに引き裂くだろう。
だが、一向に激痛は訪れない。
恐る恐ると、瞼を開くと、
「――み、ち、兄?」
道兄が、こちらに正対している。一瞬、何が起きたか分からなかった。――その体が倒れ込んでくるまでは。
「……え?」
受け止めた腕の中で、道兄が苦悶の息を吐いている。彼の背中は真っ赤に染まり、自分の掌が滑り気を感じた。
そしてようやく、自分が兄に庇われたことに気付く。
「道、兄? ……や……」
「た……ける、何、してる……オレは、大丈夫……だから……」
そんな訳がない。だが、分かる。道兄が無理して強がっているのは、
「実行、だ……!」
そうだ。ここで自分がしくじれば、学校長とヘルメスと道兄が身を挺して作ったチャンスを、奪ってしまう。
だから武は、叫びと涙を必死に堪えて、
「――ハッキング、実行!!」
錬金術を発動した。




