第五章:アルス・マグナが創りしもの――11
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――発電系統の能力器官は、電流操作を司る。さっき、ヘルメスの電撃を防いだのは、それを用いた錬金術だ。あいつに、発電系の能力は通じねえ――。
だから、
――それを破壊するのがヘルメスの仕事だ。そうすれば、俺たちの錬金術が通用するからな――。
「全く。無茶をするものだね」
ヘルメスは小声で呟いた。道真のことだ。
彼に依頼したのは二つの用件。バハムートとアルス・マグナの探索だ。そして、その依頼は達成されている。
いや、そう言えば、一緒にここまで来てほしいと言ったのは、依頼に含まれるのだろうか? どちらにしても、アフターサービスが充実し過ぎだ。
――報酬は、弾むべきだなあ……。
できれば体で払いたい。
昨日は武に止められたり、道真が激怒したりしたが、それでも、
――個人的には、関係持ちたいんだけどな……。
拗ねるような心の声を作った。女心は複雑なのだ。
「ヘルメス! 右肩を狙ってくれ!」
バハムートから指示が飛ぶ。どうやら、親友は自分の仕事を達成したらしい。
個人的な希望は一先ず置いといて、今は、あの暴君を倒すことに集中しよう。
気を引き締め直し、指を鳴らした。ほぼ同時。室内に爆音が轟く。
爆音。そう、文字通りヘルメスは爆発を起こしたのだ。
「〝水素爆発〟とは、無茶をするのう」
爆心地から声がする。ウロボロスの声だ。その声には、焦りや危機感は含まれていない。要は、脅威にならなかったのだろう。
「しかし、不正解であるの。お陰で、蜘蛛の糸と氷結による拘束から解き放たれ、我は再び自由となった。――計算違いは致命傷ぞ?」
いや、それで良い。何故ならば、こちらの目的は、炭素の鎧を引き剥がすことなのだから。
奴が〝炭素皮膜〟と呼んでいる防御壁は、水素爆発による熱と衝撃をまともに受けた。この一時、彼を守る物はない。
そのシチュエーションを作るための爆発だ。
ヘルメスは、更に錬金術を行使する。
爆発が生んだ水。その中の〝水素イオン〟の濃度を操り、〝pH〟の値をゼロにした。
pHがゼロの水は、強酸性。皮膚に触れるだけで火傷を負うほどの劇物だ。
炭素皮膜を剥がされた状況ならば、必然、
「くぉっ……!?」
火傷からは逃れられない。そして、発電系器官の損傷も。
「くくっ! 不出来な存在が我に傷を負わせるとはの。褒めてやろうではないか。だが、この程度の傷、直ぐに修復し――」
「武! 道真!」
ウロボロスがゴチャゴチャと言っているが、無視をする。直ぐに修復するのなら、尚更だ。
ヘルメスは言った。
「頼む!」




