第五章:アルス・マグナが創りしもの――10
◇ ◇ ◇
バハムートは道真の作戦を思い返す。
――あいつは錬金術の集合体だ。それは、複数の能力器官を有しているってことだろう――?
つまり、
――全身に能力器官が散らばっている筈だ。その中から、発電系統の器官を探し出してほしい――。
それが己の役割だ。重ねて、こんな感想を浮かべる。
――まさか、生徒に助けられるとは思ってもなかった……。
だが、こうも思うのだ。
――頼もしい学生だ。学級区画の長として、嬉しい限りだよ――。
「ふむ。蜘蛛の糸で動きを縛り、弱点の熱は過冷却水で補う、か。作戦としては、悪いものでないのう」
全身を、白の糸と氷点下の冷気に拘束されているウロボロスが、しかし、笑み付きの顔で続けた。
「ならば、我も戯れと行こうかの? このままの状態で、お前たちの相手をしてやろうぞ」
直後。炭素で構成された黒い棘が、空より現れ、こちらに向かって放たれる。
横殴りの暴雨のように、黒針が迫り来た。だが、自分の判断と決断は一瞬で、必要とされる覚悟もできている。
バハムートは、黒の乱れ打ちを己の体で受けた。
白い肌を黒が冒す。
ぶつぶつと皮が破られる感触と、針が肉にめり込む感触を得る。感触の正体は激痛で、吹き出るのは赤の体液。
「何ぞ? 戦意でも喪失したか? それとも、破れかぶれの自暴自棄ということかの?」
違う。そのどちらでもない。自分の役目を果たすためだ。
自分は錬金領土の最高権力者。そして、道真と武はその領民。
――ならば、領民の頼みに応えるのは、王としてのあるべき姿だ――!
バハムートは、自分の錬金術を用いて、〝シュモクザメ〟の特性を引き出す。
相手の攻撃を防がなかったのは、一度に複数の特性を引き出すことができないからだ。
今、自分が果たすべきことは、ウロボロスの保有する能力器官。その内の一つを探し出すこと。ならば、捨て身となろうと構わない。
バハムートは瞼を伏せ、新たに生み出した感覚に集中した。〝ロレンチーニ器官〟が見せる世界に。
〝ロレンチーニ器官〟とは、シュモクザメなどが持っている、電流を感知する器官のことだ。
本来は、生物が放つ微弱な電流を感じ取り、獲物を探る目的で使われるが、今回は能力器官を探るために利用させて貰う。
発電系統の能力器官。それが発する電流を感知し、その場所を特定するために。
ロレンチーニ器官が伝える電流の世界。その中で、バハムートは見付けた。
だから、伝える。
「ヘルメス! 右肩を狙ってくれ!」
後は、彼女と二人に任せよう。




