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洋上のアルス・マグナ  作者: kitaro-
第五章:アルス・マグナが創りしもの
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第五章:アルス・マグナが創りしもの――5


          ◇  ◇  ◇


 …………まさか、そんな……?


 道真は我が目を疑った。その目線の先にはバハムートの。いや、バハムートと呼ばれていたモノがある。

 その胸にはポッカリと、虚空を示すような大穴が空き、彼女の血潮で真っ赤に染まった床面が見えた。


 そんなバカな。あり得ない。見間違いだろう? だって、そこに横たわるモノは、今日、それも夕飯時、二、三時間前まで、生きて、動いて、話をして、悲しそうに微笑んでいた筈なのに。


「おや? 招かれざる客かの? ようやく、邪魔を排除したというのに」


 生理現象に近い、震えの感触を覚えた。

 受け入れ難い。否、受入れたくなど絶対ない事実だが、本能的に、道真は理解する。


 ――学校長を……殺したのは、この男……。


 武の、泣き叫び呼ぶ声が、遠く聞こえた。なのに、胸の鼓動だけはやたら五月蠅い。

 自分自身で、瞳孔が開いているのが分かる。汗腺からは冷や汗が吹き出し、そして、直感がこう叫ぶ。


 ――この男は、ヤバいっ――!!


「キミは、誰だ?」


 その一言で、世界に平常が戻ってきた。

 狭まった視野が広がり、武の嗚咽が確かに聞こえ、自分の掌がぐっしょりと湿り、三歩も後退していたと気付く。


 一歩を前に踏み、男に尋ねたのはヘルメスだった。

 彼女の声に、怯えはない。震えもない。だが、憤っていることは、握りしめられた拳から読み取れる。


「バハムートは、卓越した錬金術師。並大抵の錬金術師なら、一〇人単位で襲い掛かろうと、敵にすらならない」

 逆説的に言うならば、

「バハムートを倒せる者は、同じく。いや、彼女以上の錬金術師である筈だ。――キミは、誰なんだ?」

「我か? 我はウロボロス。アルス・マグナを創造せし者よ」

「嘘だね」


 ヘルメスの否定は早かった。


「ウロボロスは、既に過去の偉人だよ。大体において、ここは錬金領土。ウロボロス本人とは縁もゆかりもない土地だ」


 その口調は、絶対零度の冷たさと、


「ふざけるのは止してくれるかな?」


 白熱の太陽に似た、熱圧を持っている。

 思わず鳥肌が立ったが、思考は随分冷えてきた。


 どうやら、男が自称するウロボロスという人物は、ヘルメスやバハムートが登録されているプログラム、アルス・マグナの制作者らしい。

 だが、その制作者本人は故人であり、男はその名を借りて、己を偽っているようだ。


 そして、ヘルメスの見解は理に適っている。


 錬金領土には、空港もヘリポートもない。

 乗船するには、寄港地から直接入る必要があり、世界中を航海するこの都市に、乗り込む手段は限られていた。


 しかも、ウロボロスを名乗る男がいる、ここ、ガラスの館の三階は、立入禁止エリア。

 それら全てが、男の嘘を立証している。


 しかし、男は喉を鳴らしていた。民衆の愚行を、高みより眺める支配者のように。


「何がおかしい?」

「お前の発言が余りに的外れであるからよ」


 常人ならば、すくみ上がるほど張り詰めた、ヘルメスの声と視線。それを真正面から受け止め、しかし、男は平然としていた。


「我は、始めからここにいたのだぞ?」

「ならば、キミはホムンクルスと言うことかい?」


 再び、男が嘲笑の息を吐く。


「失敬なことを言う。我を、あのような不出来な模造品と一緒にするでない。――我は、ホムンクルスでもなければ、アデプトなどと言う不完全な存在でもない」

 何せ、

「アルス・マグナとは、我、ウロボロスが完全なる者になるための、プログラムなのだからの」

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