表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
洋上のアルス・マグナ  作者: kitaro-
第五章:アルス・マグナが創りしもの
50/61

第五章:アルス・マグナが創りしもの――4


          ◇  ◇  ◇


 それから数分も経たないうちに、三人はガラスの館に辿り着いていた。


 九番船は、学校長の私有地であり、もっとも小さな船でもある。

 建造物は、欧風デザインの学校長邸と、ホムンクルス生産工場、ガラスの館のみだ。


 ホムンクルスの別称〝フラスコの中の小人〟を表現するため、ガラスの――、と名付けられた、館には見えない建物の中。

 三人がいるのは、二階だった。


「まるで、もぬけの殻だな……。ここは、本来一般人立入禁止の筈だが……」


 管理室の役目を持った、フロアを歩む道真が、訝しげに呟く。


「恐らく、バハムートは郷愁に耽りたかったのだと思うよ」


 応えたのは、バハムートと同じ宿命を背負った、ヘルメスだ。


「マグヌス・オプスは、バハムートにしてみれば、希望にも似た存在だったんじゃないかな? それが、一時的とはいえ機能を中断させるんだ。最後に、思い出に浸りたかったんだよ」


 一息の間を挟んで、


「ワタシが彼女なら、同じことをすると思う。懐かしむには、一人が良い」

「……なるほどな。まあ、今は、邪魔がいなくて都合が良いと思うべきだろうな」


 それから、三人は沈黙を保ちつつ歩み行った。

 フロアの突き当たりで三人を待ち受けていたのは、電子錠が取り付けられた、強固な扉である。


「武、頼む」

「うん」


 道真がスマートフォンを取り出し、武が電子錠に手をかざす。

 たったそれだけの行動で、三人を阻む金属の遮りは、王からの命を受けたように開扉した。扉に隠されていたのは、三階へと続く階段である。


「武と道真の錬金術は、本当に役立つね」


 感心した口調で、ヘルメスが賛辞した。

 武はちょっと照れたが、道真は真剣な表情を崩さない。


「この先は機密区域でな。何が待ち受けているかは、俺でも分かんねえ。気は抜かない方が良いぞ」


 道真の言葉を受けて、再び二人の顔に緊迫感が戻った。

 元より、三人の目的はバハムートの確認なのだ。さらに、先ほどの揺れの原因も分かっていない。

 何が起こるか、予測は不可能だ。


 階段を上り、三人は三階、機密区域に辿り着く。そこには、超強固なセキュリティを誇る、三枚の扉が待ち受けていた。


 ――数分前には、の話だが。


「な、んだ……これは?」


 武と道真がタッグを組んでも、少々手こずる。それ程の防御力を持つ扉は、無残な姿に変わり果てていた。


 扉は飴細工でできていたのだろうか? そう疑ってしまう。何しろ、中央部分から外周にかけて、えぐり取られたような大穴が空いているのだから。

 えぐり取ったのは、恐らく、超高熱の何かだ。穴の周囲が、切断ではなく、融解されているのがその証拠。


 唯一分かったのは、一つの事実だった。


「さっきの揺れの原因は、これだったのかな?」


 震えを持つ、怯えた声で、武が言葉を落とす。


 だとすれば、


「――行こう。この先に、得体の知れない何かが待っている」


 との予想が立つ。ヘルメスが、緊迫した声色で、そう告げた。


 足音を潜め、三人がユックリとそこへと近付いていく。

 一枚、二枚、三枚と、変わり果てた扉を抜けると、キューブ状の一室があった。


 そして、その床には……


「――学校長?」


 雪のような白い長髪。研究者の象徴足る、白のジャケット。

 二つの異なる白色を、自身の鮮血で真っ赤に染めた、パラケルススことバハムートの姿がある。


「嘘、だろ?」


 その胸元には、射貫かれたような風穴が空いてた。目で見て判断できる。それほど大きな穴が。


「……い、いやあぁあぁぁぁ――――っ!!」


 武の悲鳴が木霊する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ