第五章:アルス・マグナが創りしもの――3
◇ ◇ ◇
道真は目を覚ました。
ここは学校長邸二階。三つある客室の一つだ。そのベッドの上で、眠っていた自分を覚醒させたのは、揺れだった。
「――地震? ……な訳ねえか」
口走ってしまった、あり得ない仮説を否定する。確かに、ここは日本の一部だが、地震とは無縁の領土。何しろ、ここは海の上だ。
実際に、ここまで大きな揺れを体験するのは久しぶりだ。ただし、それが意味しているのは、
「何が起こった? こんな、地震に匹敵する揺れを起こしたのは何だ?」
体を起こし、床に足を付ける。
揺れはまだ治まりを知らず、余韻のような振幅を続けていた。
「道兄! 大丈夫!?」
台詞の直後、ふだん羽織っている、デニムジャケットを身に着けないまま、武が部屋に飛び込んでくる。
武は、錬金領土生まれ錬金領土育ち。当然ながら、被災経験などない。
ジャケットもノックも忘れていることから、相当驚いていると分かった。
「い、今、グラグラって! グラグラって!」
「落ち着け、武。大丈夫だから。俺はどこも怪我してねえよ」
「で、でも、こんな大きな揺れは初めてだよっ!?」
道真は、武を安心させるために浮かべていた、苦笑いを引っ込める。
武の言っていることは、もっともだ。
「ああ。この揺れは、明らかに波によるものじゃねえな」
錬金領土は、船の都市。当然ながら、波による揺れは日常茶飯事だ。
しかし、揺れを最小限に抑えるための工夫はバッチリで、慣れるまで生活すれば、気にも留めなくなるレベルまで軽減されている。
だからこそ、今の揺れは、波が原因でないと断言できた。
「恐らく、衝撃による揺れだろうな。錬金領土は一艘一艘を連結させたものだから、この九番船で、何かが起きたんだ」
「でも、九番船は学校長の私有地だよ? あるとしたら、この学校長邸と、ガラスの館だけじゃ……」
と、不安と不可解の入り混じった武の声を掻き消すように、ヘルメスが慌てた声を引き連れて、入室してくる。
「道真、武! 怪我はないかい!?」
ちゃんと青のジャケットを羽織っているため、我を忘れてはいないだろう。が、彼女の声に余裕はない。
「ああ、問題ねえ。今、武と揺れの原因を――」
「ワタシに付いて来てくれ!」
「は、はあ? どうしたんだ? そんな慌てて」
切羽詰まった表情で、
「バハムートが、ガラスの館へ行ったきり戻っていないんだ!!」
訴えるように、声を張り上げた。




