第四章:再会したアデプト――6
◇ ◇ ◇
「私は、アルス・マグナを模倣することによって、錬金領土を完成させた。――だが、予期せぬ事態が起きてしまった」
「フーリガン、だね?」
ヘルメスの小さな解答に、バハムートは困った声で、そうだ。と呟く。
「暴走したホムンクルス。フーリガンは、錬金術を使えず、反社会的な性質を持ち、都市機能の低下をもたらす。――それは、徐々にだが、確実に」
しかも、
「六年前に初めて発生してから、その発生頻度は高まりつつあるのだ。これがどう言うことか、分かるかい? 道真くん」
道真が頷いた。何時もの怠惰な雰囲気はなりを潜め、真剣な。寧ろ、剣呑とも取れる表情で。
「頻度が高まりつつあるってことは、それが収まらなければ、フーリガンは増加の一途を辿る」
都市機能の低下をもたらすフーリガン。その発生が収まらず、増加すると言うことは、
「最終的には、フーリガンとホムンクルスの比率が逆転し、錬金領土の機能は完全に停止する」
錬金領土には、錬金術を扱うホムンクルスが必須だ。だから、その存在が途絶えれば、道真の解答そのままである。
「正解だ。加えて、フーリガンの発生原因は完全に不明であり、つまり、対処法もない」
そこまで告げて、バハムートは、いや、と逆説の単語を口にした。
「唯一の解決法を、私は実行したいと思う」
「私は、マグヌス・オプスの稼働を中断させようと考えているのだ」
「――そんな……!」
分かりやすく反応したのは、武だ。
彼女の反応は当然である。マグヌス・オプスは、ホムンクルスの生産法だ。その稼働を中断させると言うことは、
「それじゃあ、錬金領土は……!」
いくらフーリガンの発生を防ぐためとはいえ、滅亡への道のりだろう。
錬金領土には、錬金術を扱うホムンクルスが必須なのだから。
「案ずるな……とは言い難いが、直ぐにも都市機能が停止する訳ではない。この都市の住民は、若者が中心だ。その世代が現役である限り、錬金領土は正常に動くだろう」
バハムートは、嘆息を一つ挿み、
「道真くん。武くん。君たちの代までは、な」
悲しげに、付け加えた。
「――住民たちは、納得すると思うんすか?」
渋面で、道真が尋ねる。
複雑な心境なのだろう。彼の顔つきからは、戸惑いや、同情や、憤りなどが、代わる代わる見て取れた。
「思っていない。これは、重大な責任問題だ。何しろ、私は、錬金領土の最高権力者であり、マグヌス・オプスの管理者なのだから」
ともすれば、全ての不満を背負うのは、バハムートになるだろう。
だから、
「私は、フーリガン問題の解決法を探るために、全ての時間を費やしたい。そして同時に、責任を取って、学校長を辞任する」
最高権力者は言い切った。