第四章:再会したアデプト――5
◇ ◇ ◇
「……え?」
驚きの声を上げる道真に、バハムートは首肯を送る。
「良いか、道真くん? 能力器官はそもそもにおいて偶発的なものなのだ」
能力器官とは、本来の自然界には存在しない異変だ。
錬金術師が研究の末に手に入れた、超過された生体機能。
研究のストレスからか、はたまた薬剤実験の結果からか、原因は定かではないが、自分の中では、細胞の突然変異ではないかと思っている。
そう。原因が定かでない。飽くまで偶然手に入れたもの。
つまり、
「偶発的突然変異を、必然的に起こすことはできない。能力器官は、狙って作れるものではないのだよ」
「でも、学校長は、能力器官を持っているんですよね?」
兄の後を継ぐように、ホムンクルスの少女が聞いてきた。
「なら、自分自身の能力器官をサンプルにすれば……」
「なかなか賢い考え方だ。武くん」
だが、
「サンプルにするには、能力器官は特殊過ぎてな。比較対象がなくては、正式なデータが得られない。――しかも、私の能力器官は、生体系錬金術専用のものだ。多種多様な錬金術を必要とする錬金領土を、創り、支えることはできない」
「なるほど」
それまで静聴していたヘルメスが、納得の単語を口にする。
「ようやく、キミの求めていたものがハッキリとしたよ。――キミが欲していたのは、アルス・マグナ登録者の〝能力データ〟だね?」
「能力データ?」
小首を傾げる武に、バハムートは解説した。
「アルス・マグナへ登録する際、自動的に保存されるデータだ。アデプトとなる錬金術師の、能力に関する情報のことで、万が一の事態に対するバックアップらしい」
「つまり、アデプトの能力器官に関する概要も、内包していると言うことだよ」
解説をヘルメスが継ぎ、
「そうか……それなら、サンプルとするには、申し分ねえな」
道真が締めくくる。
「そう。君たちの言う通りだ。私が求めていたのは、クローン体に能力器官を組み込むためのデータ。そして、対象としたクローン体がホムンクルスと言うことだ」
それが意味する真実は、
「マグヌス・オプスとは、アルス・マグナの模倣なのだよ」




