第四章:再会したアデプト――4
◇ ◇ ◇
「錬金領土を……創造するため?」
バハムートの返答が、どの予想とも異なっていたのだろう。
道真は、思わずオウム返しで疑問した。
「そうだ。キミも分かると思うが、錬金領土を創造するに当たり、錬金術は必須の技術だ。錬金術がなくては、錬金領土本体となる大型船の造船も、その操舵も不可能なのだから」
錬金領土は九艘の連結船だ。
一つ一つが恐ろしく巨大で、必然、その製造も運転も困難を極める。否、現代の技術では不可能と言って良い。
不可能を可能にする方法は唯一だ。錬金術である。
「だが、そもそも、錬金術師の絶対数が足りなかった。たとえ、現代に残っている錬金術師――〝アデプト〟を揃えたとしてもだ」
だから、
「ワタシが錬金領土を創造するには、まず、錬金術師の不足を補わねばならなかったのだよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか?」
怪訝と不可解が同居した表情で、道真が尋ねた。
「学校長。いや、バハムート。あんたは、生体系錬金術のエキスパートだって聞いてる。〝生体系〟てのは、肉体を変成させるものなんだろ?」
だったら、
「あんたは、能力器官そのものを作ることができるんじゃないすか? 〝マグヌス・オプス〟がその証明だ」
ここまで来て、ホムンクルス製造法ことマグヌス・オプスが、生体系錬金術の〝アデプト〟。バハムートの手に寄って行われていると、道真は確信したようだ。
だとしたら。と、彼は続けた。
「錬金領土とアルス・マグナは無関係だろ? 何しろ、あんたは自分の手で錬金術師を生み出せるんだ。あんたの錬金術と、近代の生物工学を組み合わせたもの。それが、マグヌス・オプスの正体なんだろ?」
マグヌス・オプスの工程は、細胞の初期化を始めとし、ゲノム編集を施した後に培養。人工知能をインストールする。と言うものだ。
その工程の中に、錬金術による能力器官生成を組み込めば、理論上、ホムンクルスは完成する。
だとしたら、アルス・マグナのコピーが関わりを持つ理由はない。
道真の指摘に、バハムートは、ほう。と、溜め息に似た、驚きの声を発した。
「随分と勉強をしたようだな、道真くん。私は嬉しいぞ。学級区画の長としてな」
続ける。
「勉強熱心な君に敬意を表し、私も真実を告げるとしよう。――私は、能力器官を作ることなどできないのだよ」
生体系錬金術師。アデプトの淑女は、それでも確かにそう告げた。