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洋上のアルス・マグナ  作者: kitaro-
第四章:再会したアデプト
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第四章:再会したアデプト――3


          ◇  ◇  ◇


 お詫びをしたい。との仕姫の予想は、真実だったようだ。

 道真は、目の前のテーブルにズラリと並んだ、料理の数々を眺め、納得の念を抱いた。


 自分たちが招かれたのは、一階に存在するリビングルームだ。

 赤く煌びやかな絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られている。

 ヘルメスがいる逆サイドには、アンティークと思しき収納家具があり、室内の螺旋階段は二階と一階を繋ぐものだ。


 豪華な、との修飾語しか似合わないリビングルームで、ヘルメスとバハムートが黙々とディナーを食している。

 対して、こちら側二人の箸は一向に進んでいない。何故か? 簡潔に言うと、食欲が湧かないからだ。


「えー……っと、学校長? 質問して良いすか?」

「許可しよう」

「この料理……何すか?」


 テーブルの上に並んだ料理は、どいつもこいつも豪勢なのだが、揃いも揃って個性的だった。


 例えば、


「このステーキ。脂肪分が差別されてるくらい赤身ですね。ヒレ肉でも、ここまで赤くはならないと思うんすけど……何肉?」

「ダチョウ肉だ」

「じゃあ、金の延べ棒ばりにデカい、魚類にあるまじきサイズの、このフライは?」

「サメのフライだが?」

「ええ……と、最後に、このピザの上に乗っ掛かった、ゲテモノは? どう見ても、無脊椎に見えるんすけど、まさか、そんな、暴挙に出る訳が……」

「見たままだ。蜂の子ピザで正しいぞ?」

「ふきゅうっ!!」


 遂に、武が悲鳴を上げた。


 内心では。と言うか、常識的に考えて、ピザの上に昆虫が乗っている筈がない。

 そう、現実逃避していたのに、そのあるまじき現実を直視せねばならなくなって、精神的に大ダメージを負ったようだ。


 暫くの間、鳴宮家の食卓にピザが並ぶことはないだろう。


「何でまたこんな色物揃いの役者陣なんですか? もっと、普通な食材でもてなしてくださいよ!」

「色物揃いとは、食材に失礼だぞ、道真くん? どれも体に良い、健康食材の数々ではないか」


 言って、学校長はダチョウステーキにナイフを入れながら、


「ダチョウ肉は高タンパク・低脂肪。L―カルニチンも豊富で、ダイエットに効果的なのだよ」


 そして、切り分けられていない、カステラくらいのボリュームがある、魚フライへと目線を向けて、


「サメもまた、低カロリー、低脂質、高タンパク質。鮮度が良いから、微塵のアンモニア臭もない、上品な味だぞ?」


 最後に、見向きもしないで、


「蜂の子に至っては、古来より東洋で珍重されてきた、珍味中の珍味だ。それだけでも食べていきなさい」

「新手のパワハラかっ!!」


 武の顔が、蒼白を通り越して真っ白になりつつあった。

 ガタガタと震えながら、み、道、道兄……、と、涙目をこちらに向けている。


 縋り付きたくもなるだろう。武は、虫が苦手だ。


「パワハラとは失礼だな。錬金術の先達として言わせて貰えば、肉体を健康に保つことは、即ち、脳の状態を良好にすることに等しい。錬金術は学問だ。優れた脳の持ち主こそが、悲願を叶える世界だ。――さあ、遠慮はいらない」

「遠慮以前に、結構と言うか、武の様子見て察してくれませんか?」


 自分の右腕を抱き締める武は、震える気力も失ったようで、魂が抜けたかの如く、虚空を見詰めていた。


「――変わらないね。バハムート」


 そんな武の意識を、何とか現世に繋ぎ止めたのは、ヘルメスの呟きだ。


「必要以上に理知的なところが、全く変わっていない。……ワタシは、それが嬉しくもあり、辛くもあるよ」


 彼女は静かに、ナイフとフォークを揃え、皿の縁においた。


「答えてくれ、バハムート。キミは、何故、アルス・マグナをコピーした? それを使って何を企んでいる? ――返答によっては、ワタシは争いをも辞さない」


 硬く冷たい声だ。だが、彼女の水色の双眸は、高熱の炎にも見える。

 熱く冷たい視線を受けつつも、表情筋を緩め、パラケルススことバハムートは、息を吐くように苦笑した。


「そう好戦的になるな。まるで、タスマニアデビルのようだぞ? 心配しなくとも、君が想定しているだろう〝最悪の事態〟のためではない」

 私は、

「この錬金領土を創造するために、アルス・マグナの複製を行ったのだから」

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