第三章:バハムート――3
◇ ◇ ◇
――見付からない……?
ヘルメスは、まず戸惑いを覚えた。
「そ、それは本当?」
名称に、間違いなどある筈もない。
何せ、友人の名前と、自分の運命を握るプログラムの、固有名称なのだから。
「ええ。〝バハムート〟と言う名詞でしたら、神話・伝承にて見受けられましたが、流石に、伝説上の化け物と探し人とは、関係がありませんでしょう?」
それから、
「〝アルス・マグナ〟とやらにつきましては、単語すら見受けることも叶わなかったでしたの」
「そんな……」
呆然と呟きながら、ヘルメスは思う。もしや、自分の早とちりではないか? と。
アルス・マグナ。錬金術の秘奥。究極とも呼べるバイオテクノロジー。
その所在はどこにある? と来れば、ここ錬金領土以外に考えられない。
しかし、早計過ぎたか? シンプルに考え過ぎたのだろうか? いや、だが、では、一体全体どこに?
「――京司さん。一個確認言いすか?」
道真が、唇に指をあて、思慮のポーズを取りながら、
「アルス・マグナ。――この単語、本当に見付からなかったですか?」
京司の答えを否定するような質問を、投げ掛ける。
「ええ」
変わりない、京司の答え。
「そうですか。京司さんが言うなら、間違いないですね」
だが、どう言う訳か、道真の顔には笑みが浮かんでいた。
「お力になれたでしょうか?」
若干の申し訳なさを含んだ声色で、京司が道真に聞く。
「はい。ありがとうございます。とても参考になりました」
「それでしたら、良かったですわ」
礼を告げ、道真が踵を返す。何か、確証を得た顔つきで。