第三章:バハムート――1
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「余り目立たねえが、〝システムギルド〟は、〝錬金領土〟の運航に欠かせない存在なんだよ」
道真は、ヘルメスに説明しながら、〝五番船〟を歩んでいた。
〝学級区画〟に属する五番船は、他の学級区画と同様の姿をしている。
大型船の上に建設されたビル群。密集する無機質な建造物は、見るからに都会で、狭苦しいジャングルにも似た景観を形作っていた。
五番船では〝形式科学〟が専攻され、通信などに用いるアンテナが、ビルと共存している。
「システムギルドってのは、通信を用いるホムンクルス。〝システムパーソン〟の共同体だ」
その建造物の間。
道のりを縫うように、二人の美女と進みながら、部外者であるヘルメスに話し続けた。
「脳波を変調できるシステムパーソンは、他のシステムパーソンと同期して、ネットワークを築いている。そのネットワークは黒子でありながら、必須でもあるんだ」
例えば。と道真は、二つの職種を例としてあげる。
「この、九艘連結っていう、あり得ない構造の船上都市。その操船を務めている〝九人の道標〟はシステムギルドのメンバーだ。――加えて、船大工である〝海上妖精〟の補助も、重要な仕事だな」
そもそも、錬金領土の船は、全長九〇〇メートル・全幅二〇〇メートル級という、アホほどデカい船だ。一艘操舵するだけでも相当苦労する。
それが、牽引橋によって九艘ドッキングしているのだから、恐らく普通の人間では扱い切れないだろう。
〝九人の道標〟が、錬金領土というじゃじゃ馬を手懐けることができるのは、仲間との完璧な意思疎通がこなせるからだ。
また、船体に使用されている、炭素繊維複合材〝CFRP〟の管理や、船に働く摩擦抵抗の軽減、剥離渦対策を行う〝海上妖精〟が、スムーズに作業を行えるのも、システムギルドの補助あってのもの。
「その統括者。実質的なシステムギルドの〝長〟が、〝知倉京司〟さん。今向かってんのは、彼女の仕事場〝ライブラリー〟だ」
ライブラリーとは、読んで字の如く図書館のことだ。
小説、文庫、料理本から古書まで取り揃えられ、当然ながら錬金術関連の書籍も存在。それどころか、ワンフロアを独占している。
規模としては、国立図書館を二で割ったくらいで、望みの書物を探すだけで一苦労するほどだ。
その書物の数ゆえ、システムパーソンが司書として働いている。
京司さんは、その一員だ。
「言うなれば、情報の中心地。錬金領土中の知識と情報が集ってんだよ」
「だったら、何で始めから頼らなかったんだい?」
不思議そうにヘルメスが柳眉を歪める。
正論だ。最初から京司さんに頼めば、一発で〝バハムート〟と〝アルス・マグナ〟の所在を突き止められただろう。
だが、
「み、道、道兄ぃ……」
武が、カタカタと震えているのがヒントだ。
正直に言ってしまえば、頼りたくなかった。
「大丈夫だ、武。俺が着いている。お前は一人じゃねえ。俺も耐えるから」
完全に瞳孔が開いている武と、青ざめた顔をする自分を見ながら、ヘルメスが疑念と心配が混じった顔をする。




