第二章:二人の少女の対人事情――6
◇ ◇ ◇
〝メインストリート〟の働き手。及び、利用者たちが一様に、こちらに視線を向けている。
道真の頭に浮かぶ理由は、二つだ。
一つ。自分の隣を歩く、見慣れない外国人女性ヘルメスが、余りにも美人過ぎるため。
もう一つは、
「あいつ、何であんなにも機嫌悪いんだ?」
自分とヘルメスの五メートルほど先。離れて歩く武が、むくれながら異質なオーラを放っているからだろう。
飽くまでも私的な観測だが、色で表すと赤と黒に近い。
ゴゴゴゴゴ……。若しくは、ズオォォォン……。の擬音が当てはまるそのオーラは、客観視しても〝怒り〟か〝憤り〟。悪く言えば〝憎悪〟がもたらすものに思えた。
「分からないのかい、道真?」
「お前は分かるのか、ヘルメス?」
ヘルメスとは出会って初日。関係で言えば、圧倒的に親密度が足りない筈だ。
だが、どう言う訳か、ヘルメスは武の不機嫌の理由が分かっているらしく、わざとらしく溜め息を吐いた。
「そもそも、武がホムンクルスってことは、キミは、武の生産に関わっているんだろう? だったら、彼女に役目を果たさせてあげたら?」
ああ、そう言うことか。
ヘルメスもどうやら勘違いしているらしい。武が妹と聞いたら、大方の、特に男子中高生が弄ってくることだ。
「あのな? 俺は、武を恋人にするとかメイドにするとか、そう言うソッチ系の、ダッチワイフ的考えで生み出した訳じゃねえんだよ」
そもそも、
「武をこの世に送り出したのは、俺じゃなくて〝マグヌス・オプス〟の実行者たちなんだ。俺の欲望やら願望は、微塵も影響を及ぼさねえよ」
「〝マグヌス・オプス〟? ここでは、ホムンクルスの製造法にその名前が付けられているのかい?」
「ああ、錬金術師となる人物の細胞を、初期化してゲノム編集。その過程で能力器官を植え付ける、生物工学的技術だよ。だから、武が妹に――」
なったのは偶然だ。
言い掛けて、道真は気付く。
「ま、待て、ヘルメス? バハムートって奴は、生体系錬金術のエキスパートなんだよな? だったら、もしかしてマグヌス・オプスを行ってるのは、そいつじゃねえのか?」
考えてみれば、マグヌス・オプスとアルス・マグナは、とても似通った技術だ。
どちらも能力器官を持つ、錬金術に携わる存在を生み出している。
どちらも細胞の初期化を行っている。
そして、どちらも生み出しているのはクローン人間だ。
もしや、アルス・マグナのコピーは……、
「いや、その可能性は低いよ、道真」
ヘルメスの答えは否定だった。
彼女は、頭の中を覗いたように、こちらの意見を添削する。
「確かに、気味が悪いほど似ているけれども、大きな違いがある」
それは、
「アルス・マグナは、錬金術師だった人物を素体とすることで、能力器官を受け継がせている。片や、マグヌス・オプスに用いられている技術は、現代技術のオンパレードだ。そもそもにおいて、根幹が違うよ」
要するに、
「マグヌス・オプスと言う作業には、アルス・マグナのコピーなど必要がない。必要がなければ、リスクを冒してまで複製することはない筈さ」
「そう、か。そうだよな。考えてみれば、マグヌス・オプスは、ホムンクルスが実行してんだ。バハムートはアデプトだったよな」




