第一章:錬金術師と錬金術師――7
◇ ◇ ◇
男は五番船を、進行方向に対して左斜め前へと走っていく。
その先にあるのは、四番船だ。
「道兄、どうしよ? この前みたいに、〝司法部〟に連絡入れとく?」
「いや、あいつは俺たちだけで捕まえる」
何故ならば、
「司法部の力を借りんのは楽だけど、宣伝効果が薄まっちまう。大体、相手は一人でこっちは二人組だ。俺たちの錬金術は戦闘には向かねえし、ぶっちゃけ怠いけど、こそ泥一匹なら問題ねえだろうよ」
一先ずは、常套手段として起こす行動が、一つある。
道真は武に目を向け、
「五番船・四番船の防犯カメラ、監視カメラ。纏めて侵入実行!」
「了解だよ!」
出力面では他より劣る武だが、誰よりもその事実を知っているのも武だ。
それを受け入れた上で、自分と妹にできることは何だろう?
工夫を凝らし、二人で編み出した〝錬金術〟は独特だった。
武の電力では、相手を圧倒するだけの威力は生み出せない。だから、電気=放電のイメージを捨てて、軸をズラすことにしたのだ。
即ち、〝周波数の変化〟や〝電気信号の作成〟。
今、武が行った〝ハッキング〟も、電気信号を用いたものだ。
「領土内にいる限り、俺たちから逃れることは適わねえよ」
誰に告げるでもなく、五番船と四番船を繋ぐ〝牽引橋〟を渡りながら呟いた。
――それから一〇分。
道真は四番船の階段をひたすら上り、デッキ17まで来ていた。
大型クルーズ船である四番船は、二〇階建てのビルに相当する高さを持っている。
階層は十八あり、最上階で一般立入禁止の〝操舵室〟を除くと、デッキ17は実質、最上階だ。
つまり、自分と妹とひったくりは、追いかけっこをしながらビルを一つ、踏破したと言うことになる。
流石にキツい。超怠い。
俗に言う〝膝が笑う〟とは、このことなのか。今にも足が崩れそうだ。多分、明日は筋肉痛だろう。
追いかけてきたこちら二人も、逃げていた相手も、デッキ17のテニスコート上で、等しく息を切らせていた。
「し、しつこ過ぎるだろ……てめえら! どこまで、追っかけてくりゃ、気が済むんだ!」
「お前を、捕まえるまでだ、よ。こっちは、依頼取り付けられるか、の、瀬戸際なんだからな!」
「はあ、全く、今日は、最悪の、一日だぜ!」
男は息を整えながら、左腕を掲げた。
自分の手の甲を相手に見せるように肘を曲げ、肩と掌でV字を描く。そんな掲げ方だ。
「もう我慢ならねえ! てめえら無事に帰れると思うなよ!!」
その手の甲に陽炎が揺らぐ。蜃気楼にも似た揺らぎが。




