第一章:錬金術師と錬金術師――6
◇ ◇ ◇
「どこに証拠があるってんだよ! オレは店内ぶらついてただけだろうが! 変な疑いかけんじゃねえぞ! 冤罪で出るとこ出るぞコラぁ!! お客様は神様だろうがっ!!」
聞くからに輩な台詞をまくし立て、男が店内から顔を出す。
染料の効果で真っ赤に染まり、染料の副作用で痛んだ、長い髪の男だった。
痩せ型の長身を猫背にして、耳には大量のピアスをしている。
黄色いアロハシャツにダボダボの黒ズボン。自己主張の激しい尖った容姿は、オレは不良だ近付くな。との意思表示にさえ思えてしまう。
見るからに、明らかにイライラしているのは、店内でトラブルがあったからだろう。
一方的な罵りの内容から察するに、万引きの疑いでも掛けられたか、あるいは、本当に万引きしたのを注意されたかだ。
彼の現れた自動ドア。その左、約十メートル先にいる青の美女は、驚きと呆れが混じった複雑な顔つきをしている。
「どこの街でも不良さんは生息しているってことだよ。たとえ、ここが科学の街でもな。あんたが気にすることはねえよ」
そんな美女に、溜め息交じりで解説しながら、
「で? 俺たちに尋ねたいことって何だ?」
道真が本題の先を促す。
その三人を、アロハシャツの男が、横目で捉えていた。
「あ、ああ。ワタシには、探しものと探し人があってね」
「やらねばならないこと、ってのは、そのこと?」
武が、コテンと小首を傾げて、疑問の表現とする。
美女は、首肯によって、武の質問に答えた。
「その、探しものと探し人ってのは、何と誰なんだ? もしかしたら、密接な関係にあんのか?」
おもむろに、話し合う三人の方へと、男が近付いていく。
三人は気付かぬまま話を続けた。
「ああ。ワタシは、彼女がソレを用いて何をするのか、見極めなくてはならないんだ」
「どうにも事情は複雑そうだな。なあ、もし良かったら……」
と、道真が言い掛けたとき。美女の背後を、男が掠めるように通り、同時に彼女のキャリーバッグを掴み、ひったくる。
「あっ!?」
美女が、急展開に驚きつつも、全力疾走を始めた不良の背中を睨み、
「ちょっ! ま、待てぇ!」
彼を追うため、駆け出そうとした。
そんな彼女の手首を掴んだのは道真だ。彼もまた、状況を瞬時に読み取り、美女に告げる。
「ダメだ。あいつは、腐っても錬金領土の住人だ。あんたが追っかけたら危ねえし、そもそも土地勘があるのはあっちだ。捕らえられる可能性は低い」
「だけどっ……」
「俺たちに任せろ」
えっ? と疑問形を発した彼女に、
「俺たちは〝便利屋〟やっててな。頼まれたとあれば、掃除洗濯探しもの。パソコン修理から防犯設備。果ては、仇討ちまで、何でもお任せあれの〝ユーティリティ〟なのさ」
道真は、歯を剥いた笑みを見せた。
「まずは、キャリーバッグ奪還な。後に、その探しものも、良かったら依頼してくれよ。依頼人さんには、誠心誠意対応させていただくからさ。――行くぞ、武」
「うんっ!」
言って、鳴宮兄妹が駆け出す。青い美女を一人残して。




