第一章:錬金術師と錬金術師――5
◇ ◇ ◇
道真は、明るく行動的で少年っぽいボクっ娘妹の、幼女のように塩らしい発言を聞く。
「ボクの〝能力器官〟じゃ大した出力ないし、その所為で、道兄の足を引っ張ってるから……」
武は、生体電流を強化する、〝発電能力〟を保有したホムンクルスだ。
だが、錬金領土内では、発電能力は有り触れたもので、加えて、武の発電量はかなり少ない。
発電と聞いたら、エネルギー源になるじゃないか。と思う人が多いが、錬金術には〝エネルギー変換系〟と言う、圧倒的な先達がいる。
〝再生エネルギー管理組合〟と呼ばれるその先達は、体内の化学エネルギーを用いて発電する武よりも、遙かに効率的に電力を生み出す。
潮力、風力、太陽光エネルギーなどを利用する発電方法に、個人の発電量が適う筈がないのだ。
ゆえに、武が働いているのは、電力を通信に用いるシステムギルドなのだが、その中ですら低スペックとしか言えないのが現状。
武のランクが下位なのはその所為で、仕事の数は少なめだ。
「道兄はプログラマーとしてスゴ腕なのに、ボクが足枷に――」
「違えよ、バカ」
いくら妹と言えど、後ろ向きな発言は宜しくない。
思わず、バカと口走ってしまったのをフォローするため、優しく頭を撫でる。
頭に手を置いた直後こそ身震いしたが、武は、されるがままに大人しかった。
「元より、俺の遺伝子から高位のホムンクルスが生まれねえのは、事前の検査で分かっていたんだ。それでも要請したんだから、悪いのは俺の方だろ?」
それに、
「単純に、俺はお前の存在に感謝してんだぞ?」
「そう、なの?」
「そうだよ。内外問わず、俺を支えてくれてんのはお前じゃねえか、武。それに、お前は良い子だろ? 可愛いし」
「そう、なんだ」
言うと、武の顔に明るさが戻ってくる。何か火照ってるのは気の所為だろう。
「あの……二人の世界に土足で踏み込むようで悪いんだけど……」
妹をあやしていると、目前に長身の女性が立っていた。
一七〇に近い長身で、歳の頃は自分とタメだろうか?
朝明けの空にも似たインディゴブルーの長髪は、星明かりを纏ったように艶やかで、丸い水色の瞳は、汚れのない湖にも似た神聖さを宿している。
混じりけのない氷雪のように、その白肌は透き通り、青を主体にしたパンツルックは活動的で、華奢だけど盛り上がった胸元に、どうしても目が行ってしまう。
一部を除いて、武と対照的な美女だ。
美女は、目が覚めるような、と形容できるほど魅力的な美顔に、申し訳なさそうな苦笑を浮かべて言った。
「恋路の邪魔かな? 尋ねたいことがあるんだ」
「気にしないでくれ、こいつはただの妹だから」
言った瞬間、武がまたムックリしたが、同じく気の所為だろう。
そ、そうなの? と、どこか気遣いを見せる美女は、キャリーバッグを持っていて、
「あんた、外の人間なのか?」
そう予測できた。
「何だって、こんなところにやってきたんだ? 観光地と呼べるほどの魅力は、この街にはないと思うが……」
錬金領土は、主に貿易業と、錬金術による産業を経済の中心としている。
少なくとも、観光業に力を入れてはいない。
「もちろん、観光などではないさ。ワタシには、この街でやらねばならないことがあるんだ」
やらねばならないこと?
そう、尋ねようとしたとき。
「ああっ!? 言い掛かりも大概にしやがれってんだ!!」
スクールメイトの店内から、悪辣な罵声が木霊した。




