第一章:錬金術師と錬金術師――4
◇ ◇ ◇
鳴宮武は、ムックリと頬を膨らませ、両手を合わせて頭を項垂れさせる、兄に向かって怒りを表現していた。
「遅い!」
「ごめんなさい」
今、自分と道兄がいるのは、学級区画に点在するコンビニ〝スクールメイト〟の喫茶エリアだ。
学級区画には食堂がなく、食事をする場合、〝居住区画〟である四番船か七番船まで、移動する必要がある。
それが煩わしい場合、代わりとなるのが各スクールメイトの喫茶エリアだった。
喫茶エリアにはテラス席も存在し、飲食物の持込みも許されているため、多くの学生が利用している。
道兄と昼食の約束をしていたのも、ここだ。
「もう! 道兄は男の子なんだから、女の子を待たせちゃダメだよ? そんなんじゃ、彼女ができないよ?」
本当は、彼女できてほしくないけどね? との言葉は呑み込んで、反省を促す。
「いや、俺には武がいるから良いんだが……」
「ふ、ふえっ!?」
ズルい。不意打ちだ。
いや、道兄がデリカシーに欠けていることは、知っている。
それこそ、こちらの好意に気付くことなく平気で肌を露出するし、お風呂上がりとかは本当に目のほよ……目の毒だし、ムラム……ドキドキしてしまうほどだ。
だから、彼の台詞がソッチ系じゃないのは分かっているけど、どうしよう。これでは、照れて怒れなくなってしまう。
何も言えず、頬を赤くしていると、お説教はここまでと判断したのか、道兄はこちらが持参したバスケットの中を見て、
「おお、今日はホットサンドか! 武の飯は美味いからなあ」
と追い打ちをかける。
隣の椅子に腰掛けて、一切れをひょいと摘まんで頬張る兄に、もはや、怒る気力はなかった。
「お、美味しい?」
「ああ! 今日は一段と美味え」
「そう? えへへへ、良かった」
――何だか、恋人みたいだなあ……。
先ほどの怒りはどこに行ったのか?
自分で作った感想に、自分自身ときめいてしまう。
きっと、今、自分の頬はフニャフニャに緩んで、笑みの形を作っているだろう。
「今日から、連休で仕事三昧だからな。腹ぁ満たして、気合入れねえと」
だが、道兄のふとした呟きに、武は急に不安を覚えた。
何故ならば、
「あのさ、道兄? やっぱり、ボク、迷惑かな?」
「あん?」
「ボクが下っ端だから、家計が赤字なんだよ?」
自分は、足手纏いだと思うから。