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洋上のアルス・マグナ  作者: kitaro-
第一章:錬金術師と錬金術師
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第一章:錬金術師と錬金術師――3

          ◇  ◇  ◇


〝マグヌス・オプス〟とは、この錬金領土を稼働させるために働く、ホムンクルスの生産方法である。


 ホムンクルスとは、〝能力器官〟と呼ばれる〝超過生体能力器官ちょうかせいたいのうりょくきかん〟を保有する、人工生命体のことだ。


 生物を〝化学工場〟に例えることは、珍しい話ではない。

 それ程に、生物の体内で行われる〝化学反応〟。――〝生化学〟は高度なもので、その反応を研ぎ澄ました器官が、〝能力器官〟である。


 ホムンクルスは錬金術を使うために不可欠な存在で、海上妖精も、システムギルドの一員も、そして、マグヌス・オプスを実行する〝ガラスの館〟の従業員も、ことごとくホムンクルスだった。


 そう。ホムンクルスは、錬金領土を運行させるため、日夜働いているのだ。


 マグヌス・オプスは、生体系錬金術せいたいけいれんきんじゅつ。〝生物工学バイオテクノロジー〟で言う〝ゲノム編集〟の、集大成である。

 ゲノム編集とは、遺伝子組み換え技術の上位版と比喩できるだろう。

 狙った遺伝子を破壊し、働かせなくさせたり、別の遺伝子に置き換えたりするこの技術は、即ち、遺伝子を思いのままに編集する技術だ。


 マグヌス・オプスでは、人工生命体の遺伝子を編集することで、能力器官を植え付けた、錬金術の発動者を生産しているのである。


「しかし、誰が考えたんだろうな、鳴宮? 錬金術師の組み上げた〝方程式〟を、現実の技術とするために、ホムンクルスを利用するなんて」

「そりゃあ、〝学校長〟の〝パラケルスス〟じゃねえか? 錬金領土を提案したのも、あの人だろう?」

「〝最高権力者〟自らが提案か……。じゃあ、〝ホムンクルス製造規約〟とか〝ホムンクルスの市民権尊重〟みたいな法整備に、抜かりがないのも納得は行くなあ」


 まあな。と、道真が同意の意味と思われる、呟きを漏らした。


「世界中探しても、ここくらいだろうな。クローン人間の製造・人間のゲノム編集が可能な地域なんて」


 人間をベースに生物工学を実行することは、二〇三八年現在も世界規模でタブーだ。


 受精卵から〝ES細胞〟を作成することにも、未だに倫理的観点からの反感が根強い世の中。

 クローン人間を製造し、かつ、ゲノム編集を施すなど、聞く人が聞いたら憤死するだろう。

 しかし錬金領土では、〝ホムンクルス製造規約〟により、その両方が認められている。


 恐らく、否、確実に世界初の規約だ。


〝デザイナーズベビー問題〟など、問題は山積みだったが、ホムンクルスの有用性や、〝ホムンクルスの市民権尊重〟による人権保護の法制度で処理したらしい。


 ホムンクルスはクローン体だ。


 パートナーとなる、錬金術師。そのDNAをベースに、ゲノム編集による遺伝子改良を加えた存在である。


「まあ、現代の錬金術には、ホムンクルスがどうしても必要になってくる。この、錬金領土を支えているのは、ホムクンクルスだっつっても過言じゃねえし」

「ホムンクルスが発動担当。錬金術師は研究担当。錬金術師が組み上げた方程式を、〝反応〟と言う形で実行に移すのが、ホムンクルスだったっけ?」

「ああ。そのためには、錬金術師の脳内にある方程式を、〝シンクロ〟により読み取らなければならねえ。だから、ホムンクルスはクローン体である必要性があったんだよ」

 つまりは、

「根本的な部分で、錬金術師とホムンクルスは同一人物。もちろん、コピーのままじゃいろいろ問題あるから、ゲノム編集で差異を設け、親族とした訳だ。――前置きが長くなったが、俺は自らの意思で武を妹にしたんじゃねえよ」

「はいはい、学校長の配慮ってことね。良くできたシステムだ。……だけど、完璧ってことではないみたいだよな?」


 ああ。と、道真は億劫そうな呟きを漏らす。


「〝シンクロ〟のできない非行ホムンクルス。〝フーリガン〟のことか?」


 錬金領土を悩ませる問題の一つに、〝フーリガン問題〟があった。

 フーリガンとは、錬金術師とのシンクロに失敗したホムンクルスの総称だ。


 あだ名の由来は、その性格にある。フーリガンは揃いも揃って反抗的なのである。

 噂に寄れば、マグヌス・オプスの工程の一つ、〝人工知能のインストール〟に失敗したらしい。

 しかも、フーリガンは他のホムンクルス同様、能力器官を持っており、それを非行の道具に使っているのだ。


 原因は不明。対処法も存在しない、大問題である。


「流石に、生み出した手前、処分なんてできないしな。それこそ、傲慢ってものだ。世界中からバッシング受けて、錬金領土が終わりを迎える」


 と、歩みながら語り合っていた二人の間に、くぐもった音が割り込んできた。

 音は、道真のズボンのポケットからしている。

 音の正体は、スマートフォンのバイブレーション機能だ。着信音の代わりにしているのだろう。

 スマートフォンを取り出し、液晶画面を見た道真の表情が、苦笑い気味に歪む。


「うげっ!? もうこんな時間か。武、怒ってなきゃ良いんだが……」


 道真には、振動の原因である受信メールを開かなくとも、差出人が妹のもので、文句が綴られていると分かる筈だ。

 彼女との約束の時間を、思い切りオーバーしていたのだから。


「悪い、先行く! 武にろくでもない野郎が集ってないか、心配だからな」

「おー」


 友人は、駆け出した道真の背中を見届けつつ、最後の台詞に対して、


「やっぱ、アイツ、シスコンだよな?」


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