てるてる坊主
やすきくんはいじめられっ子だ。
一年生の時からずっといじめられてる。
五年生の今になってもそれは変わらない。
周りのみんなも先生も いつしかそれが当たり前だと思ってる。
やすきくんは考える。どうしてボクはいじめられるのかな?
ボクがイヤだって言わないからかな? 何かされてもただ笑ってるせいなのかな?
ああ、多分みんなはボクをいじめてるって感覚がないんだろう。
でも、ボクはいじめられてる。そんな自分が、ボクは嫌いだ…
やすきくんの想いは 誰も知らない、気づかない。
昨日も放課後教室で、やすきくんはみんなから言われてた。
「明日は七夕だろ? おい、お前もてるてる坊主を作ってお祈りしろよ?」
「そうだぞ。明日はヒコボシとオリヒメの一年に一度のデートの日だからな」
「もし雨が降ったらお前のせいだからな。いいか? てるてる坊主、忘れるなよ?」
やすきくんはいつもの様にただ笑っているだけ。
その夜、やすきくんは考えた。てるてる坊主か…大きなてるてる坊主…
自分の部屋から布団のシーツ、ベランダから洗濯ヒモを持ち出した。
それから深夜の道を、自分の学校へと急いだのだ。
何とか自分の教室に忍び込んだやすきくん、持ってきた蝋燭の灯りで 黒板に向かう。
熱心にチョークで何かを書いた。
書き終わると頭からシーツをかぶって 洗濯ヒモを首にかけ…
七夕の日の朝、教室に入ってきたクラスメイトたちが見たものは…
黒板いっぱいに書いてある、これまで彼をいじめた生徒と先生の名前。それと、
【これはボクの復讐だ 七月七日を忘れるな…お前らが作った てるてる坊主を忘れるな…】
という文字。
それから一際目を引いたのは、窓際にぶるさがっている、大きなてるてる坊主だった。