リスクヘッジ
頬張ったトマトが「痛い!」と叫んだら咀嚼を止めるだろうか。僕は止めない。生きていくためには栄養バランスのとれた食事が必要だから。
小学三年生になる僕は摂取カロリーと栄養素のメモを毎食取っている。健康で快活な人生を歩むために。決して偏った食事はとらない。そんな僕の隣でたける君は日清のカップヌードルを食している。
バカだ。
インスタント食品は調理速度こそ秀でてはいるものの、その実、栄養バランスにとんでもない偏りがある。
「死ぬよ、たける君?」
「このヌードルのように、太く短く生きるんだよ僕は」
たける君はもう何を言ってあげても手遅れだ。きっと三十半ばで身体にガタがきて、五十を迎える頃には通院生活を余儀なくされるに違いない。
そんなことを常々意識している僕だが、昨日交通事故に遭い下半身不随となった。見舞いに来てくれたたける君はいつも通り隣で日清のカップヌードルをすすっている。
「で? いつ頃退院できそうなの?」
「さあね」
「……カップ麺食べる?」
「……うん」