巨人
駆逐してやる!この世から、一匹残らず!!
目の前に立ち塞がる異形の化け物達に立ち向かったマリ・ヴァセレートは、弱点となりそうな場所へSG550突撃銃の5.56×45㎜NATO弾を撃ち込んだ。
大口径の小銃弾が効かないのに小口径の小銃弾が効くはずもないが、マリは一発ほど食い込んだ喉元を見逃さなかった。
「あれがそうかも」
そう呟き、その場所へ向けて銃弾を連続で撃ち込む。彼女の勘は当たったようで、そこへ銃弾を撃ち込まれた化け物は苦しみ出す。それを見たマリは間髪入れずに続けて喉元に銃弾を撃ち込み、化け物を一匹ほど倒した。
「やった・・・!」
化け物の弱点が分かったところで他の化け物も同様に同じ場所へ向けて銃弾を撃ち込み、倒していく。
攻撃は絶え間なく来るが、持ち前の運動神経で触手などの攻撃を避け、固まって行動している化け物に破片手榴弾を投げ込む。
『グォォォ!!』
数秒後に手榴弾は爆発し、周囲に破片をばらまき、化け物を傷付ける。
倒すまでには至らなかったが、動きを止めるには十分であった。
直ぐに残弾がまだあるMSG90半自動狙撃銃に切り替え、スコープを覗き、弱点となる喉元へ大口径の小銃弾である7.62×51㎜NATO弾を撃ち込む。一匹目が倒れたのを確認すれば、二匹目の喉元に続けて撃ち込み、倒していく。三匹目、四匹目と殺せば、敵が大量にいるこの場から別の場所を移動した。
『ワァァァ!!』
途中、女性の雄叫びと連続した銃声が聞こえたので、そこへ向かうことにした。
行く先々で立ち塞がるゾンビを撃ち倒しつつ、現場に到着すれば、アリス・チャーチルが、MP5A5短機関銃を群がってくるゾンビと一体のナメクジの化け物に向けて乱射していた。
毎分八百発の高い連射力を誇るサブ・マシンガンであるMP5は、引き金を引いたまま撃ち続ければ直ぐに弾切れを起こす。
その度に再装填を行っているが、興奮して冷静さが欠けていた彼女は空の弾倉を乱暴に外し、再装填しようと腰のポーチに手をやったが、震える左手は取り出した弾倉を落としてしまう。
「あっ!?」
アリスは目の前に敵が居るにも関わらず、弾倉を拾おうと地面に屈んでしまった。
新しい弾倉を装着して敵が居る方向へ向けて再び掃射しようとしたが、化け物は直ぐ近くまで来ており、間に合わなかった。
「(私・・・ここで・・・)」
死を覚悟した瞬間、自分を喰おうとしていたナメクジの化け物は喉に銃弾を受けて紅い血を吹き出し、アリスに返り血を浴びせてから倒れた。
「えっ・・・!?」
アリスが何が起こったのか理解している間に、彼女の周りにいたゾンビ等の頭が砕けた。
完全に頭部が吹き飛んでいない火力からして、大口径の小銃弾を使った狙撃だ。
その狙撃を行っていたのが、彼女の悲鳴を聞き付けて駆け付けたマリである。
「あ、あの・・・!」
ようやく我に返ったアリスは、近くに来たマリに礼を言おうとしたが、彼女は手を差し伸べずに戦うよう指示する。
「ほら、アンタも戦いなさいよ! 兵士なんでしょ?」
「いたっ・・・」
彼女の額にデコピンをして意識をハッキリさせた後、マリは近付いてくる化け物等に対し、切り替えたSG550で銃撃を再開した。
「は、はい!」
額から来る痛覚でアリスの意識は戻り、目に見えるゾンビに対し今持っている銃で撃ち始めた。
弾を無駄にしないように引き金の上にあるセレクターを単発に合わせ、人の急所と言える胸や頭に向けて銃弾を撃ち込む。胸は怯むだけだが、弱点である頭を撃たれたゾンビは倒れる。頭が弱点だと分かれば、次に来るゾンビの頭に照準を合わせて引き金を引く。
一方のマリはと言えば、流れ作業のようにゾンビの頭を正確に撃って排除している。
彼女の腕前はアリスが到底及ばないほどだ。相当な鍛練を積んだか。或いは生まれついての天才なのか。
どちらにせよ、彼女はマリに敵わないと思い知らされるほどだ。
「クリア!」
周囲にいるゾンビを全て片付けたアリスは、訓練通りに周囲安全の確保を確認してから口にした。
それから次の襲撃に備えての残弾確認を行い、それが終われば弾倉を戻し、引き金から指を離して銃口を自分の足に向けて人に撃たないようにする。この動作も訓練通りであり、民兵組織を除いて何処の軍隊も行っていることだ。
マリの方もプラスチックの弾倉の中にある残弾を確認しつつ、周囲に視線を向けて敵影が居ないことを確認すれば突撃銃を肩に担ぎ、懐からルリの写真を出してアリスの方へ視線を向けた。
「ねぇ、あんたの師団所属にこんな娘居るでしょ? 何処にいるか教えてくれない?」
「いえ・・・私も知りません・・・師団本部が無くなって、隷属してる部隊があちこちバラバラになってますから・・・」
写真の人物の居場所を問われたアリスは、居場所を知らなかったのできっちり答える。
「そう・・・じゃあ、一緒に探してくれる?」
「は、はい! 一緒に探します!!」
この納得のいく答えに、マリは感心して共にルリを探すかどうかを問う。
原隊を失って何処に行けば良いか分からない彼女は、その誘いを容易に受け入れた。
『グァ・・・ァ・・・グェァ・・・!』
この場から離れようとしたときに、アリスの同僚等の無惨に喰い殺した化け物等が二人を包囲するよう集まってきた。
直ぐに戦闘態勢を取って、向かってくる化け物の喉元に向けて銃弾を撃ち込む。弱点を知らないであろうアリスに喉元を撃ち込むようマリが告げる。
「喉元狙って! そこがデカイナメクジの弱点よ!!」
「はい!」
銃声に負けないくらいの声で返事をした後、化け物の喉元に拳銃弾を撃ち込んだ。
9㎜パラベラム弾でも喉元の皮膚の貫通は可能であり、血飛沫を上げながら地面に倒れる。
数体以上を片付ければ、自動拳銃を持った男達が彼女等の所まで慌てて駆け寄ってきた。
「へ、兵隊さん! お、俺達を助けてダバ!?」
助けを請おうとした男は飛んできた瓦礫に潰された。
「ちょ、なにあれ!?」
「きょ、巨人です! 気味の悪い巨人です!!」
肉と骨が潰れる音で、男を潰した瓦礫を投げてきた正体に気付いたマリは、驚きの声を上げた。
正体を知っていたアリスは、直ぐに自分の隊を襲った不気味な巨人であることを知らせる。
「うわぁぁぁぁ!!」
「やだよママ! 死にたくないよぉ!!」
「死にたくない! 死にたくねぇよ!!」
服装からして反社会的な組織に属する男達であるが、巨人を見て幼児退行や泣き叫んでいる辺りを見て、善良な市民を脅かす存在とは思えない。そんな情けない男達を放置し、マリは単独で巨人に挑む。
「化け物は頼んだわ!」
「えっ!? 私一人じゃ!」
「そこらに落ちてるライフルとか機関銃とか使いなさい!」
「そんな・・・!」
化け物等の相手をアリス一人に任せ、マリは巨人の方へ人とは思えぬ疾走で向かう。
途中に置いてあるカールグスタフM2携帯式対戦車火器を取り、弾頭が入っているかどうかを確認した後、安全装置を外して巨人へ向けて発射した。
発射された多目的対戦車榴弾は巨人の頭部に命中し、バランスを崩して倒れた。
巨人が起き上がる前にマリは後部砲身ノズルを解放して新しいロケット装填して、ノズルを閉めて再装填を行い、ロケットランチャーを抱えながら巨人の元へ走った。
「グオォォォ・・・」
地面に手を着けて巨人は起き上がり、周囲を見渡して自分の頭にロケット当てた人物を探し始める。
頭上が高くて辺りを見渡せやすいと思うが、懐に入られてしまえば見付けづらい。特に足下に近付かれれば、よく目を凝らさなければ見付からないだろう。マリはその隙を突き、一気に股下に滑った。
「ここなら行けそうね」
巨人の股下に滑り込んだマリは、ロケット砲を股間に向けて発射した。
後部から噴出した高圧のガスがマリの足下に来るが、着ている戦闘服の御陰で少し熱い物を触った程度で済む。
「グォォォォ!!」
股間に多目的対戦車榴弾を諸に受けた巨人は絶叫し、又から血を吹き出しながら地面へと倒れ込んだ。
「キャッ! ただじゃおかないんだから!」
飛び散った返り血を浴びたマリはカールグスタフを捨て、何処からか調達していたアメリカ軍のプラスチック爆弾であるC4爆薬を取り出し、巨人の頭に向かってそれを大きな口の中に放り込んだ。一定の距離まで離れた後、起爆装置を手にしてスイッチに親指をやる。
股下から大量出血しつつ、何とか起き上がろうとする巨人であったが、起爆装置を握るマリの姿を見て、左手で叩き潰そうとするも、彼女がスイッチを押す方が早く、頭は起爆された爆弾で吹き飛び、周辺に肉片と脳味噌を撒き散らして死んだ。
頭部が無くなった巨大な死体は震動を立てて倒れ、根本からは血が滝のように流れ出ている。
周辺が血で真っ赤に染まり、マリも返り血を浴びて真っ赤に染まりかけている。彼女は顔の部分だけ袖で拭った後、アリスの元へ戻った。
「う、うぅぅ・・・!」
道中、ゾンビとなった避難民達が襲い掛かったが、P228自動拳銃を引き抜いた彼女に頭を撃たれ、物の数秒で全滅した。
アリスの元へ辿り着けば、先程泣き叫んだり幼児退行していた男達の死体の真ん中に立つ彼女がマリの存在に気付き、負傷した左手を押さえながら近付いてきた。
MP5とミニミ軽機関銃の方は撃ちすぎて銃口が高熱で変形しており、撃てなくなっている模様だ。
「あっ、あの・・・えっと・・・?」
「階級は大尉、救援部隊よ」
「そ、そうですか! 自分は第679歩兵連隊所属のアリス・チャーチル一等兵であります!」
まだマリが名乗っていなかったのか、言葉が詰まるアリスであったが、マリが名乗れば彼女は自分の所属部隊と名前、階級を名乗る。マリの方は面倒だと思ってか、階級だけ名乗った。これに不信感を表すアリスであるが、相手は自分より遙か上の階級の物なので、それを顔に出すわけにはいかない。
「歩兵連隊・・・ルリちゃんは軽歩兵連隊所属だから違うわね」
「済みません・・・軽歩兵連隊の方はさっぱりで・・・」
「良いわ。それじゃあ、新しい武器を調達しないとね」
「はい!」
ルリの所属が軽歩兵連隊所属であることを知っていたマリはそう呟いた後、アリスの代わりの武器を調達しに、彼女を引き連れてこの場を去ろうとした。
だが、行く手を遮るように、アリスのかつて同僚であった物が多数近付いてくる。
「まずはこいつ等を片付けないとね」
「は、はい・・・!」
かつてのアリスの同僚達は、先程のゾンビ達と同様に、無惨な姿を晒していた。
マリは一体目の頭に照準を定めた後、何の躊躇いも無しに引き金を引いた。
「情報は集まったか?」
一方の正芳達は、避難所で女呪島からの脱出手段の情報収拾を終えたのか、皆集合場所へ集まっていた。
脱出組に賛同した真矢部やクラウスを始めとした者達も集まっており、その中には正芳を追い払った澄子に、彼女をここまで送り込んだカレンの姿もあった。
「あ、お前・・・」
「悪かったわね。参加しちゃって」
「なんだ、知り合いか?」
「いえ、違います・・・」
澄子に気付いた正芳は指差して声を上げ、彼女はふて腐れた表情を浮かべる。
それを見ていた貞雄は、正芳に知り合いかどうかを問い、それに彼は赤の他人ときっぱりと答える。
「よし、まずは私からだ。来てくれ、"アイラ"さん」
「アイラ?」
北朝鮮の特殊部隊に属するヨン・チョルは、この安全地帯のリーダーであるアイラと呼ばれる金髪の女性を呼んだ。
「私はこの安全地帯のリーダーをやらせて貰っているアイラと申します。ここからの脱出手段は分かりませんが、手掛かりがある場所は知っております」
「本当か?」
一人が声を上げれば、アイラは無言で頷いてから答える。
「その手掛かりはここから北東に4㎞ほど行った所にあります。私もそこまで足を運び、調査しましたが、出入り口周辺で断念しました。まだ奥があるようですが、流石に私ではそこまで行けません。そこに何かあるかも・・・」
「北東に4㎞・・・なにかあるな。そこへ行こう。で、次は?」
貞雄は北東に行くことを決めれば、次に百合奈の方へ視線を向けて問う。
「私は大した情報はないけど、島を彷徨いている少女が知ってるとかなんとか・・・」
「そうか・・・ついでに見付けて聞いてみるか。他には?」
集まった全員の顔を見て問うたが、誰も有力な情報は無かったようで、誰も名乗りはしなかった。
「無いか・・・それじゃあ、こっから北東の4㎞辺り、行くか!」
リーダーである貞雄が言えば、一行はここから北東4㎞辺りにある場所へと向かう事に決めた。
次回は・・・ちょっとヤバイかな・・・?