女呪島の主
これにて最終回でございます
「やぁ、待ってたよ!」
「こ、子供…!?」
扉の先へと足を踏み入れた一行を出迎えたその女呪島の主とは、幼い少女であった。
部屋は幼い少女の趣味に似合った飾りとなっており、とても死で溢れた女呪島の主の部屋とは思えない。
そんな事を思いつつ、一行は各々が持つ銃の銃口を幼い少女へ向ける。
油断は禁物だ。幼い少女の姿をしているが、本当は化け物姿をしており、油断したところで豹変して襲い掛かってくる。そう警戒しつつ、本当に主かどうかを問う。
「お前がこの島の主か?」
「そうだよ。こんなに小さいけど、この女呪島の主だよ? 信じられないと思うけど。フヒヒヒ」
答えた後に不気味な笑いをする少女に対し、この島の主であることを断定したヨンは、躊躇いも無しにAK74突撃銃の引き金を引き、少女を射殺した。
狙ったのは頭部。小口径だが、殺傷能力が5.45㎜弾を頭に受ければ、無事で済むはずもない。頭を撃ち抜かれた少女は床に倒れ、そのまま息絶えた。
「なんだか呆気無かったな…」
「うん、お兄ちゃん…なんかこう…あっさりしてると言うか…何というか」
呆気なく死んだ女呪島の主である少女を見て、エレンとエリナは拍子抜けした。
呆気ない、余りにも呆気なさ過ぎる…
この部屋にいた一同が誰しもそう思った。一行はそのまま部屋を後にしようと思い、出入り口のドアに足を進めようとしたが、そのドア自体が無くなり、ただの壁となっていた。
「なっ、ドアが無くなってる!?」
「どういう事!? 一体何がおこってるの!?」
「妙に呆気なさ過ぎると思ったが、まさかな…」
先程ドアがあった場所に触れる動揺する兄の姿を見たエリナは困惑し、ヨンは研ぎ澄まされた勘で何か良からぬ事がこれから起こると断定する。
「みんな、警戒しろ! なんか来るぞ!!」
ヨンに射殺された少女の死体が、血痕も残さずに最初から無かったかのように消えたので、貞雄は皆に周囲を警戒するよう大声で告げた。その指示を出さずとも、正芳を含める全員は周囲に各々が持つ銃の銃口を敵が来ると思われる方向へ向け、周囲を警戒した。臨戦態勢を取る正芳達に向け、何処からともなく主である少女の楽しげな声が響いてくる。
『殺したと思った? 残念、幻覚でした! フヒヒヒ! 今度はどうしようかな? そうだ、熊ちゃんでも送っちゃおう!』
その楽しげな思い付きと共に、何処からともなく致死量に至る程の傷の熊が現れ、一行に襲い掛かった。
「グォォォ!!」
「来たぞ!」
熊が現れたのを見逃さなかった貞雄は一同に知らせ、動く死体となった熊に89式小銃を撃った。
銃声が鳴り響けば、一同はそれに続いて襲い掛かってくる熊に向けて銃を撃ち始める。
相手は当然ながら痛覚も感じない死体なので、何十発の銃弾を物ともせず、一行に鋭い爪を振り下ろそうと向かってくる。一行が熊に撃ち込んでいる弾が対人を目的とした軍用品であり、大型動物用の物ではないため、余り熊には効果がないのだが。
一番前にいるヨンにその爪が振り下ろんとされた時に、彼は背中に背負っていたベネリM3散弾銃を撃ち込んだ。
ベネリM3は軍用の散弾銃であるため、大型の動物に対して大した威力はないが、至近距離で撃ってしまえば、上手く仕留めることが出来る。だが相手は死した熊であり、その効果は薄いが、怯ませる事が出来た。
「頭だ! 頭を集中的に狙え!」
熊が怯めば、ヨンは弱点であろう頭部を集中的に攻撃するよう叫んだ。
言われなくてもか、熊の頭部に集中的に連続的な小銃弾が浴びせられ、熊の頭は無惨な形となった。
頭部を滅茶苦茶に破壊され、機能を失った熊はその巨体を床に横たわらせる。熊を倒したのを何処かで確認した主は、次なる物を送り込むとわざわざ一行に告げてくる。
『あら、もう倒しちゃったの? 強いね。でも、次は簡単にはいかないかな?』
主の声が聞こえなくなった途端に、次なる刺客が一行に差し向けられた。
その刺客とは、ドイツの銃器であるMP5短機関銃やHK33自動小銃等を持った武装した女兵士達だ。おそらく、前に聞いた調査で女呪島に来たワルキューレの将兵の成れの果てだろう。熊と同様に部屋の何処からともなく現れ、一切言葉を発さず、手に持った銃を一行に向けて撃ち込んでくる。
「散らばれ!」
熊とは違って銃で武装した相手などで、貞雄は散会するように叫んだ。一行はそれぞれの遮蔽物となるであろう場所へ身を隠し応戦する。早速敵兵の一人が銃弾で倒れたが、雄叫びを上げながら全身に炎を纏って蘇り、不気味な走り方をしながら一行に襲い掛かる。
「生き返った!?」
「なら頭を狙え!!」
自分が撃ち殺した敵兵が蘇ったのを見た正芳は驚きの声を上げるが、ヨンは冷静に頭を撃ち抜き、叫びながら襲ってくるゾンビに似たそれを沈黙させる。
頭を撃てば蘇らずに済むと思ったが、そうは行かなかったようで、次々と全身に炎を纏いながら蘇り、一行に死を恐れずに向かってくる。更には倒す度に兵士がまるでゲームのリスポーンのように現れ、一行に向けて銃弾を放ってくる。
「来ないで!」
「エリナ!! クソ!」
HK53自動小銃を持って奮闘するエリナであったが、対応しきれず、死した女兵士達に包囲されてしまう。妹を救おうと、無理にでも助けに行こうとするエレンであったが、自分の方にもその女兵士達が向かって来て、迎撃に追われる。
「た、弾が…!?」
今持っている自動小銃の弾が切れた為、エリナは自動拳銃で撃ち続けたが、持っている拳銃は最大装填数八発のワルサーP38であるため、八発撃ったところで弾切れを起こす。
「この! この!!」
再装填している暇もない為、最後の砦としてメイスを取り出し、向かってくる敵兵等に向けて振り回した。
幾人かを鈍器で振り払えたが、頭を強く殴っていない所為で意味はなく、そのままジリジリと壁際に追い詰められ、敵兵の燃える手で身体に触れられてしまう。触れられた箇所は直ぐに燃え初め、更に複数の手が自分の身体に触れられてしまったため、全身に火が移り始める。
「い、嫌ぁ! お兄ちゃん! お兄ちゃん助けてよ!!」
「待ってろ! 直ぐに…グッ!?」
妹であるエリナは兄であるエレンに助けを求めたが、その兄は敵が放った銃弾を腹に受け、倒れ込んでしまった。正芳や貞雄、ヨンはそれに気付いたが、彼らも次々と出て来る敵兵の排除で手一杯であり、とても向かえるような状態ではなかった。そんな兄は、妹であるエリナを助けるべく、這いずりながら妹の元へ向かう。
「エリナ…待ってろ…! 直ぐに…!!」
「やだ! 死にたくないよ!! お兄ちゃん! おにいちゃ…」
全身を燃やされながら、兄に助けを求めて叫ぶエリナであったが、その声は途中で途切れ、やがて全身が燃えている敵兵とどうような声を上げるようになった。
「エリナぁ!?」
声が聞こえなくなったため、危険だと思って急いで向かうエレンであったが、そのエリナは周りの兵士達と同様な姿となり、這いずっている兄に"仲間"と共に襲い掛かった。
「嘘だろ…なぁ、冗談だよな…? 答えてくれ…」
妹のエリナの変わり果てた姿を見て絶望したエレンは、そのまま周りの敵兵等に全身を掴まれ、妹と同じ"物"へと変わった。
シュヴァイガー兄妹が今撃っている"物"と同類なった事を知らず、正芳達は一度蘇る兵士達を撃ち続けていた。正芳が十体目を仕留めたところで、炎を纏って近付いてくるエレンとエリナの成れの果てを見て、死んだことに気付いた。
「しゅ、シュヴァイガー…!?」
言葉は分からず、短い期間だが、今まで共に戦ってきた仲間であるため、正芳は仲間意識で躊躇って引き金を引けなかった。兄のエレンは臆病な正芳を軽視していたが、それでも彼を仲間と思う少しばかりの優しさがあった。妹は兄とは違って役に立たない正芳を軽視せず、エレンに変わって謝る心優しい子だった。まだ生きていた頃の兄妹を思い出した正芳は引き金を引けず、そのままM1カービンを構えたまま固まってしまう。
「うぇ!?」
「何やってる!? 奴等はもう"化け物"だ!」
そんな正芳に見かねてか、ヨンが彼を殴り付け、代わりに"敵"となったエレンとエリナを射殺した。
殴られた正芳は正気に戻り、生き残るために銃の再装填を行い、向かってくる敵に向けて銃を撃ち続ける。流石に敵は無限に湧いて出て来る訳が無く、第四派ほどを駆逐すればリスポーンは途絶えた。襲ってきた敵全てが死体に成り変わったのを確認した正芳達は銃の再装填を行い、次に備えた。
「はぁ…終わったか…?」
貞雄がそう呟きながら、周囲に銃口を向けながら確認する。
流石に銃を持つ相手の攻撃を避けきれるはずもなく、貞雄は何発かは受けていたが、致命傷と言うほどの傷は負っていなかった。
正芳の方は運が良く、掠った程度で済んだが、ヨンの方は腹に一発受けており、銃創から血が溢れ出ている。
「大丈夫か?」
「あぁ、この程度は…」
傷を見た貞雄に問われたヨンは、まだ戦闘が可能だと答え、次が来ないうちに傷口へ止血剤を撒いて包帯を巻き、出血を無理矢理防いだ。後で専門的な治療が必要であるが、それを行うには、先に主を倒すのが先決だ。正芳達が数秒間で息を整えた後、犠牲を出しながらも、二回にも及ぶ"洗礼"を凌いだ一行を見た女呪島の主は感動を覚え、彼らに絶賛の拍手を送る。
『おぉ、凄い凄い! 普通はみんな二回までだけど、二回目を生き残るなんて凄いよ! そんなみんなにご褒美、どうしてみんなが連れてこられた理由を教えてあげるよ!!』
今まで二回に及ぶ"洗礼"を生き延びたグループは居なかったようで、初めて生き延びた正芳達のご褒美として、一行の前に姿を現し、語り始めた。誰もそれは望んでいないが、妨害すれば何をされるか分からないので、大人しく聞くことにする。
まず最初に桑部正芳が、女呪島に連れてこられた理由を語った。
『まずは、えーと、そこの直ぐに死にそうな顔して生き延びた君ね。君は、女の子が犯されているのを見て見ぬふりをしたよね?』
「ひっ…!?」
自分の過去の罪悪感を穿り出された正芳は、顔を真っ青にして震え始めた。
『その子は山に捨てられて死んじゃった。結構、怨まれてたよ?』
「し、仕方なかったんだ…あの時行ったら…俺が死んでたんだ…」
『まぁ、人って言うのは余程の人じゃないと、自分の命を優先するから。でも恨みを買うよね。フヒヒヒ』
銃を手放して頭を抱える正芳に対し、主は嘲笑うかのように不気味な笑い声を上げる。
次に、三輪田貞雄が連れてこられた理由を語り始める。
『次は、そこのデカイお兄ちゃんね。お兄ちゃんは、女の人を見捨てたから連れてこられちゃったんだ』
「おい、俺が女を見捨てた? 一体いつの話だ?」
『うーん、それはね、高校生時代にこれからレイプされる女の子の危機も知らずに過ぎ去った事だね。まぁ、助けていたらここには来なかったけど』
「あぁ、そうだな…」
貞雄は過去にあった事をやり直したかったが、既に過ぎ去った過去であり、受け入れるしかなかった。
『じゃあ、次は…』
「いや、分かる。こんな仕事をしているんだ。女の怨みを一つや二つ買っている」
『えぇーつまんない…』
その次にヨン・チョルの過去を語り始めようとしたが、本人は既に分かると言う。
彼は世間からならず者国家とされている朝鮮民主主義共和国の特殊部隊の人間であるため、汚れ仕事は幾度となく行っており、女性の怨みも買っていてもおかしくはなかった。
それからただの時間つぶしというべきか、他の面々が女呪島に連れてこられた理由を勝手に言い始めた。
灰川真は、高校時代に失恋の余りに自暴自棄になっていた同級生の女子生徒の事をネットにバラした。
尤もその女子生徒は周りの恨みを買っており、真も怨みを持つ一人であったが、やがては自殺した彼女の怨みが優ったのだろう。こうしてただの軍事オタクの青年は女呪島に連れてこられた。
生きている宮河澄子は、友人の恋人を寝取ったので、友人はショックの余り自殺し、死した彼女に怨まれ、恋人共々女呪島に連れてこられる。
最初に死んだ日村金木は、ブラック企業の社長であったため、当然ながら奴隷のように働かせている社員達から恨みを買っており、この島に送られてもおかしくない人物であった。
生きているかどうか分からない北条百合奈は、恨みを買って居なさそうな女性であったが、自分が知らない間に怨みを買っていたようだ。
シュヴァイガー兄妹は、兄であるエレンは思わぬ言葉で少女を自殺に追い込み、エリナは知らず知らずの内に女性を殺しており、殺した女性の怨みを買ったようだ。
澄子と共に生きているアドルフィーネ・フォン・フェーゲラインは、百合奈と同じく勝手に怨まれている。尤も、百合奈と同じく美しい外見の所為で周りから嫉妬され、送られてしまったようだが。
アドルフ・シュタイナーは彼が二十代の時に振った彼女が自殺の寸前に怨んだようで、その所為で女呪島に連れてこられたようだ。
ダレン・ジェームスは戦地で、アフガンゲリラであるタリバンとは関係ない住民を殺傷する作戦に参加し、女性を殺害したために恨みを買って連れてこられたのだろう。
クモン・チャイルド、フリム・ロビン、カリスト・タビーノ、ワン・インは女性絡みの怨みで連れてこられた。ノンナ・パブロフ、リウ・リーシーは嫉妬で連れてこられ、イ・ロンミはレイプされている女性を見捨てて逃げたこと。田代真矢部とクラウス・マイジンガーは女性関係が派手であり、その怨みで戦地から女呪島へと連れてこられた。
「で、こんな事話してどうになるんだ?」
『別に。ただ話したかっただけ』
自分達の戦意を削ぐために、連れてこられた理由を語っていると思う貞雄であったが、当の主は気紛れに話したかっただけであった。
『じゃあ、話も終わったところだし。第三回目は私が相手するからね。でも私弱いからハンデ使っちゃうけど。楽しませてね? フヒヒヒ!』
言いたいことも言ったので、女呪島の主は周りの風景や場所を幻覚で岩石の浮島に変え、残った三名に向けて多数の生ける屍を解き放った。
先程の女兵士達と同様の全身に炎を纏ったタイプまで居る。当然ながら数は圧倒的であり、あっと言う間に劣勢に立たされる。そんな大群相手にたったの三人で挑む正芳達は、必死で迫り来るゾンビに向けて銃を撃ち続けた。
「あぁぁぁぁ!!」
89式小銃を持つ貞雄は雄叫びを上げながら引き金を引き続け、弾倉の中身の三十発分を内尽くせば、素早くマガジンを排出して、新しい弾倉を装填する。
AK74を持つヨンも素早く装填を済ませ、再び押し寄せてくるゾンビへ向けて銃を撃ち続ける。
二人が持つ自動小銃や突撃銃より劣る古い自動小銃であるM1カービンを持つ正芳は、なるべく残弾に注意しつつ、弾を無駄にしないよう出来るだけ頭部に向けて撃った。
十数秒ほどで、二十体近くのゾンビが死体へと変わった。だが敵は際限なく湧き、ただ一行を殺すことを果たすべく、仲間の死体を飛び越えながら突撃してくる。
銃を撃ち続けて三分経てば、数の暴力に押され、ヨンと分断されてしまう。
「ヨン・チョル!!」
大量のゾンビの包囲下にあるヨンに向けて叫ぶが、彼は死を覚悟したのか、大量のゾンビが自分の周りに集まったのを見計らって、服の中に入れていた爆薬のスイッチを押し、自爆した。爆薬の量はC4爆弾二つ分であり、ヨンは木っ端微塵に吹き飛ぶ。周囲に集っていたゾンビの集団は、大量の肉片と化した。
「あっ、あぁ…」
「馬鹿野郎! 敵中の中だぞ!!」
「は、はい!!」
今まで頼りにしていた仲間の一人が爆発したのを見た正芳は、ショックで呆けてしまうが、貞雄に殴られて正気に戻り、手に持っている銃で自分を殺そうとしてくるゾンビに向けて銃を撃つ。
「畜生、弾切れか! こいつで…!!」
貞雄も銃を撃ち続けたが、やがて弾倉も無くなり、背中に背負っているウォーハンマーを取り出し、振り回して周囲のゾンビを吹き飛ばす。
なるべく弾を節約している正芳であったが、ゾンビ等ばかりに戦わせている女呪島の主が、暇になったのか、彼に向けて幻術を仕掛けた。
「うわぁ!! なんだこれ!?」
突然見えてきた幻覚に、正芳は銃を撃つのを止め、伝わってくる頭痛を抑えながら取り乱し始める。
それは、女呪島の主に似た幼い少女が、薄暗い部屋で複数の男達に輪姦される光景だ。
男達は獣じみた声で笑っており、余りの痛さに絶叫して泣き喚く少女をお構いなしに獣のように腰を振るい、犯している。
少女の悲痛な悲鳴が耳を塞ぎたくなる物であり、一刻も早くこの光景から逃れたい物であったが、頭から離れず、ずっと脳内にこびり付いていた。
「やめろ…! 止めてくれ!!」
主にその幻覚を止めるよう主に告げるが、主は嘲笑いながら幻覚を正芳に見せ続ける。
「どう? 苦しいでしょ? こんな物じゃないよ、私の過去は!! そっちの大きなお兄ちゃんにも見せてあげるね」
どうやら主がまだ人間であった頃の記憶であったようだ。
だが、主が生前に受けた屈辱がこんな物ではないと告げ、それより想像を絶する幻覚を見せ付ける。
「うわぁぁぁ!! や、やめろぉぉぉぉ…!!」
「ワァァァ!! うぉあぁぁ…」
今度は犯される感触まで伝わり、貞雄は絶叫し、正芳は余りの気持ち悪さに嘔吐してしまう。
不思議とゾンビ達の動きは止まり、正芳と貞雄を囲っているだけの形となっていた。それは二人が苦しむ姿を主が見たいから止めているのだろう。そんな苦しむ二人の姿を見て愉悦感に浸りながら、その幻覚のことを語り始める。
「今君達に見せてる物はね、私がここの島の主になる前の記録だよ。あの頃は気持ち悪かったな…薄暗い場所へ私を閉じ込めた挙げ句、無理矢理レイプして殺して…思い出しただけで震えが止まらないよ…」
聞こえていないであろう苦しむ二人に語りながら、愉悦感に満ちた表情から暗い表情を浮かべ、口を再び開いて続ける。
「私がこの島の主になってから、そいつ等を早速この島に招待してあげたの! とっておきの歓迎をしてあげたよ、"とっておき"のね…」
そう復讐のために呼び出した自分を輪姦した男達の末路の幻覚を正芳と貞雄に見せた。
『うわぁぁぁ! 助けてくれぇ!!』
『止めろ! あ、あいつが悪いんだ!! あのロリコン野郎が!!』
『離せ! お前なんて…グワァァァ!!』
『ママ! 助けてよママ!!』
その幻覚は見せ付けられていた物よりはマシな物であるが、怒りに任せて男達を出来るだけ苦しめて殺している光景であった。生きたまま四方を引き千切ったり、内臓を引き抜いたり、頭に高圧電流を流すと言ったスプラッターな光景であったが、犯される感覚付きの幻覚よりは数倍マシな物であり、貞雄は自分の足をナイフで刺して幻覚を振り払った。
貞雄は足から来る痛覚に耐えつつ、ゾンビの集団を力一杯で振るったハンマーで薙ぎ払い、雄叫びを上げながら主の方へ突っ込んだ。
「おらぁぁぁ!!」
「ひっ!?」
これに主が怯んだのか、怖じ気付き、ゾンビを召還して盾にする。
防ぐことには成功したが、衝撃だけは防ぎきれず、主の小さな身体を吹き飛ばし、地面へ叩き付ける。
それから安全ピンを素早く抜いた手榴弾を正芳の前にいるゾンビの集団に目掛けて投げ、爆発したところで彼に主にトドメを刺すよう叫ぶ。
「行けぇ!」
「で、でも…俺…」
急に命運を自分に託されたので、戸惑う正芳であったが、それを託した男である貞雄は既に多数のゾンビに取り憑かれており、喰い殺されるのは時間の問題であった。
「俺はもう無理だぁ! 後はお前が…!!」
貞雄は言い終える前に、予め安全ピンを抜いておいた手榴弾が爆発し、周囲のゾンビを巻き込みながら自爆した。一行にとって一番頼りになるリーダーであり戦士であった貞雄だが、その最後はヨンと同様呆気ない物であった。そんな彼の死を無駄にしないために、何とか立て直して立ち上がった正芳は、雄叫びを上げながら主の元へ銃を乱射しながら突撃する。
「アァァァァ!!」
それは奇声に近い物であったが、そんな事は今の彼にはどうでも良かった。
目の前に来るゾンビを殺せなくても撃ち倒しつつ、立ち上がってこちらに敵を続々と放ってくる主の元へただ向かう。弾が切れようが走りながら再装填を行い、再び乱射する。通常、走りながらの再装填は失敗しやすいが、何故か不思議と失敗せず、すんなりと装填できた。これは奇蹟に近い物であろう。
M1カービンの弾が全て無くなれば、30年代で銃数発以上の弾が撃てるFNハイパワー自動拳銃を抜き、迫るゾンビを撃ち殺す。転ぼうが立ち上がり、貞雄の死を無駄にしないよう、彼が死して開けた突破口を抜けようと、ただひたすら走る。例え腕や脚の一本が無くなろうとも。
「い、いや…!」
正芳が傷だらけになって主の元へ来る頃には、目の前には怯える少女の姿があった。
怯える少女を見て、撃つのを躊躇ってしまうが、今まで死んできた仲間のことを思い出し、躊躇いを捨てることが出来た。
そのまま拳銃の引き金を引こうとしたが、スライドが引いた状態の弾切れであった。その弾切れになった拳銃を捨て、這いずりながら逃げようとする少女に向け、不思議と左手に離さず持っていたM1カービンの銃身を持ち、銃座で女呪島の主を殴り殺そうとした。
この時、正芳は主を殺そうとも、女の怨みがある限り何度でも女呪島は蘇ることを思い出したが、今の彼にはどうでも良く、早くこの悪夢から目覚めたい気持ちで一杯だった。
そのまま躊躇いも無しに、幼い少女の外見を持つ女呪島の主へ向け、木製で出来た銃座を振り下ろした。




