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沼地の主

 正芳一行が沼地へ舞い戻った頃、何のアテもなく、島中を彷徨っていたルリが先に奥へ着いていた。

 どう到着したかについては、正芳達が沼地の水死体を全て引き寄せているか、ルリが全て片付けてしまったかだ。


「う~ん、ここにあるのかな?」


 ルリも正芳達と同じ女呪島からの脱出であるらしく、単なる偶然か、それとも正芳達と同じく何処からか情報を仕入れたのか、この危険な沼地へ足を踏み入れている。

 彼女の小柄な体格に合わせたスターリングMk7短機関銃を負い紐でぶら下げ、以下にも目標の物があるとされる澄んだ小さな湖の中央にある神殿に不用意に近付く。

 だが、突然ルリは足を止め、水遊びをする幼い少女に目を向けた。


「こんな所に子供?」


 普通、こんな危険地帯に幼い少女が居るはずもないが、ルリは何の警戒もしておらず、声を掛けようと少女に近付いた。


「ねぇ、何してるの?」


 後数メートルとなった所で、ルリは少女に声を掛ける。

 しかしその少女は、今やっていることに夢中で、ルリの声が聞こえていない様子だ。

 それほど夢中になる物なのか?

 そう思ったルリは更に近付き、何をしているかどうか覗いてみる。


「水遊び?」


「っ?」


 近付いたところでようやく気付いたのか、幼い少女は問い掛けてくるルリの方へ視線を向けた。

 その少女がやっていることは、普通の幼い子供が湖を見たときにする水遊びだ。

 シンプルに木の枝で水面を突き、波紋が広がるのを眺めているだけ。


「楽しい?」


「…」


 そんな遊びをする少女は、ルリの問い掛けに答えることもなく、木の枝で水面を突く遊びを再開する。


「うーん、私もやろっと」


 何も答えず、口すら開かない少女に対しルリは、一緒に遊んでいれば、いつか口を口を開くかと思って共に水遊びを始めた。




 それから数分後。

 水死体の防衛線を強引に突破してきた正芳達が、ルリと少女が居る湖へと辿り着いた。


「よ、ようやく辿り着いた…」


 先に足を踏み入れた正芳が、目の前に広がる透き通った湖を見て、水死体などの防衛線を抜けたことを実感する。

 ここまで来るのにかなりの弾薬を損失したらしく、一行の身体中には動く水死体に引っ掻かれた真新しい傷跡が残り、そこから少量ながらも出血している。


「おしっ、兎に角目的地に着いた。後は手掛かりを…こんな所に子供?」


 貞雄が地図を見ながら確認した後、湖で水遊びをしている少女とルリを発見した。


「先客か…まさか水死体の類じゃないよな」


 最初に発見した貞雄に続き、カリストが「水死体の類では無いのか」と、少女とルリを疑い始める。

 ルリは関係ないとして、少女はそれに関係していると思うが。

 何か知っているのではないか?

 そう思い、ダレンは声を掛けた。


「おい、嬢ちゃん達、そんな所で何してる?」


「っ?」


 正芳一行に気付いた少女とルリは、一行の方へ振り返る。


「あっ、お前…」


「お兄ちゃん?」


 ルリと顔見知りである正芳は、彼女の存在に気付き、驚いて人を指差す。

 危険な地帯に自分を放っておき、何処かに去った怨みは忘れない。

 こんな愛らしい少女に怨みを持つ正芳が悪者に見えてしまうが、彼は生命の危機に晒されたので、人としては仕方のないことだが。


「知り合い?」


「あぁ、少しな」


 偶然にも近くにいる澄子からの問いに対し、やや怒りを表している正芳は、自分を捨てたルリに近付こうとしたが、百合奈に止められる。


「なにするんです?」


「ちょっと待ちなさい。何をするつもり?」


「貴方には関係は…」


 少々威圧感のある口調で答え、百合奈の腕を振り払ってでも行こうとしたが、顔を叩かれる。

 どうやら、ルリに手を挙げようとした事を見抜かれたようだ。


「痛っ…何を…?」


「怒りを抑えなさい。それに女の子に手を挙げない!」


「は、はい…」


 百合奈に叱られた正芳は、叩かれた頬を抑えながら謝罪した。


「ん?」


 これにルリは、何が起きているのか理解できなかったが、その疑問は近付いてきたヨンに邪魔をされる。


「お嬢ちゃん、君達はこんな所で何をしているんだい?」


 優しく問い掛けてくるヨンに対し、ルリはありのままの事を告げた。

 女呪島(この島)から脱出手段の手掛かりがあると聞いて、この湖までやって来たと。

 自分達が死者までを出して手に入れた物を、どうしてこんな少女が持っているのかを疑問に思ったが、ヨンはそんな感情を抑え、隣の幼い少女にも問う。


「お嬢ちゃんは何か知ってるかな?」


 ならず者国家の特殊部隊の兵士からの問いに対し、少女は枝で水面を突くのを止め、その場から立ち上がり、湖の真ん中にある神殿に向けて歩き始めた。


「どうやら当たりみたいだな」


「行くぞ!」


 真矢部が少女の行き先が分かれば、正芳達は少女の後へ続いた。


「私も行こうかな?」


 一人で置いて行かれそうな感覚を覚えたのか、ルリも彼らと共に神殿へと向かった。

 少女が神殿の内部へ入れば、一行もそれに続き、内部へと入る。

 手掛かりらしき物が置いてある祭壇前まで少女が着いた後、一行に振り替えり、視線を向ける。


「こっちに振り向いたぞ」


「何をするつもりなんでしょう…?」


 貞雄がその事を言えば、真が不安な言葉を口にした途端に、少女の身体が液体へ変わり、水のように溶けた。

 これを見た一行は驚き、先程少女が居た水溜まりに注目する。


「と、溶けた…!?」


「い、一体何が…?」


 突如起こった怪奇現象に、何名かが戸惑う中、真矢部の足下から、水色の人の手らしき物が現れた。


「なんだこれは…?」


 その手に気付いた真矢部は、直ぐに離れ、腰の軍刀を抜き、刃先を水色の手に向ける。

 水色の手は、刃先を向けられた所為か、直ぐに液体となって床に染み込み、姿を消す。


「周囲警戒だ!」


「みんな、何か来るぞ!!」


 水色の手が床に液体となって姿を消したとき、殺気に満ちた気配を感じ取ったヨンが知らせれば、貞雄が全員に警戒するよう指示を出す。

 それに応じ、各々が持つ武器を周囲に構え、警戒を行った。

 ルリは全く警戒などしておらず、何が起きているのかを理解できないで居た。


「何処だ…何処から来る…!?」


 額に汗をたぎらせ、三十八式歩兵銃を構えつつ、真矢部はどこからか来る水の手に対して警戒する。

 しかし、敵である水の手が、一行の円陣の中から湧いて出て来たことを知らない。

 澄子も途中で拾ったベレッタM92F自動拳銃を構えていたが、余りにも下手な構え方であり、撃てば腕を骨折してしまいそうだ。

 まず、床から出て来た水の手に餌食となったのは、最初に狙われた真矢部であった。


「ぬわっ!?」


「真矢部さん!」


 目の前から来るであろう敵に集中しすぎたのか、背後から出て来た水の手に気付かず、バランスを崩され、床に現れた謎の空間へ引っ張られようとしている。


「うわぁ! 何か知らんが助けてくれ!!」


「何人か引っ張れ!」


 真矢部の助けに応じ、貞雄とシュタイナー、クモンが引っ張り出そうとする。

 だが、その吸引力は強く、着々と真矢部の足は、謎の空間へ引き摺り込まれていく。


「だ、駄目だ! その手を離せ! 一緒に吸い込まれるぞ!!」


「おい! 諦めんじゃねぇ!!」


「脚を切って生き残るぐらいなら、死んだ方がマシだ!!」


 そう貞雄からの説得に応じず、真矢部は一同の手を振り払い、自ら謎の空間へと引き摺り込まれていった。

 これに、正芳と何名かの一行はショックを受けたが、敵は待ってなどくれず、次なる攻撃を仕掛けてきた。


「来るぞ!」


「撃て撃て!!」


 ダレンが知らせれば、貞雄は一行に迎撃命令を出す。

 誰もが生き残るために、今持っている銃で液体の敵に対して銃弾を撃ち込んだが、液体に金属の銃弾が通じるはずもなく、貫通して天上や壁に捻り込む。


「クソ、銃弾が効かない!」


「なら爆発類で!」


 ダレンが言えば、カレンは破片手榴弾をポーチから取り出し、敵が来るであろう場所へ投げ込んだが、破片であったこともあり、余り意味はなかった。

 やるなら爆風を周囲に撒き散らす手榴弾か、水を蒸発させるほどの高熱の炎が必要だ。

 だが都合良く、そんな物は持ち合わせて等居ない。

 諦めて、貞雄が正芳に祭壇の上にある手掛かりがある物を取りに行かせようとしたが、何もせずに、ジッと隠れているルリが腰にぶら下げている物に注目が行く。


「あれは…」


 MK3手榴弾…!

 トリニトロトルエン(TNT)と言われる爆発する科学物質を中身に満載した攻撃手榴弾だ。

 破片ではなく、爆風をばらまくタイプの手榴弾であり、味方をも巻き込む危険な手榴弾だが、その分水中でも、威力を発揮する。

 開発国のアメリカでは、海軍が水中工作員(フロッグマン)対策として採用している。

 破片をばらまくのでは無く爆風なので、小型の爆雷として使える海軍にとっては有り難い手榴弾なのだ。


「嬢ちゃん! 戦う気が無いならそれを寄こせ!!」


「ふぇ?」


 大声で腰にぶら下げている物を寄こせと言われたルリは少しばかり戸惑うが、彼女に取っては危険なので、直ぐにベルトから外し、安全装置を外さずに貞雄の方へ向けて投げ込む。

 だが、明後日の方向へと飛んでいく。


「あっ、ごめん!」


「ちょ、ふざけんなって! 桑部、援護する! 取りに行け!」


「はぁ!?」


 ルリが謝った後、貞雄は正芳に手榴弾を取りに行かせるよう怒鳴る。


「無理ですって!」


「ウッセー! グダグダ言ってねぇで早くしろ!!」


 嫌がる正芳であったが、貞雄に凄い剣幕で言われたので、泣く泣く従うこととなり、手榴弾を取りに行った。

 水の化け物が襲ってくるが、貞雄達の援護の御陰で取りに行ける。

 直ぐに手を取り、それをカレンの元へ持って行こうとしたが、水の化け物は正芳に気付き、攻撃を仕掛けてきた。


「危ない!」


 正芳を襲おうとする水の化け物に気付いた百合奈は、正芳を庇う形で盾となり、腹に強烈な一撃を受けた。


「北条さん!」


「良いから早く…ゴホッ!」


 直ぐに百合奈の元へ向かって、無事を確かめたが、彼女は早く手榴弾を渡すように告げ、それに従い、カレンに手榴弾を投げ渡す。


「ありがとう」


 お礼に正芳の肩を叩き、MK3手榴弾の安全ピンを外し、水の化け物が来る方向へ向けて投げ込んだ。

 見事その方向へ誘導され、水の化け物は爆風を受け、苦しんだような姿を晒す。


「やったか!?」


 カリストが倒したと思ったときに水の化け物は、ウォータージェットのように水を勢い良く放ち、彼を壁まで吹き飛ばした。

 放水車の三倍近い威力であり、勢い良く吹き飛ばされたカリストは強く壁に叩き付けられ、更に運が悪いことに頭部を強く打ち付けており、即死だった。


「倒してない!?」


 一人一人、あのウォータージェットでやられて行くのか?

 そう思った矢先、水の化け物が炎を浴び、蒸発し始めた。


「なんだ!?」


 正芳が叫べば、一同は炎の発火点の方へ視線を寄せた。

 そこに居たのは、シェルターに引き籠もっている筈のシャドウの姿があった。

 火炎放射器を背負っており、火が付いた重油を水の化け物に浴びせ、蒸発させようとしている。

 炎を浴びた水の化け物は、見る見るうちに蒸発していき、やがて幼児の水死体を残して蒸発した。

 水の化け物を蒸発させたシャドウは、引き金から指を離し、驚いた表情を見せる一行へ向けて声を掛ける。


「よう、何名かくたばっちまってるが、生きてるようだな。それに新顔も…」


 これに怒りを感じる一行であったが、シャドウが居なかったら皆殺しにされていたのは事実であり、ココは敢えて怒りを抑えることにした。

二名リタイア…!

次からは最終章です

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