死の沼地
水死体回
コンクリートエリア(貞雄が命名)にて、そこの主を倒し、何らかの情報が得られると思って開いた扉の先へ入った正芳達一行。
部屋の中にあったのは、机とその上に置かれた地図、謎の金の工芸品だけであった。
「なんだよ! これだけかよ!」
折角死闘を終えたのに、成果がそれだけでは不十分だった貞雄は、近くにある壁に向けて拳を叩き付けた。
だが、何かの手掛かりと思って、正芳は机の上に置いてある地図と工芸品を手に取る。
「何かに填める物かな? それにこの地図は?」
工芸品を見た後、地図を見ようとしたが、それをヨンが正芳から取り上げ、地図を見始める。
沼地の方へ目を通せば、そこを次の手掛かりが掴める場所と推測する。
「次の手掛かりは、推測からして、沼地だな」
「どうしてそれが分かる」
「これだ」
問い掛けてくる貞雄に対し、ヨンは地図に大きくマークされている場所を見せた。
「通りでな。んじゃ、行くか」
それに納得した貞雄は、一行を引き連れ、沼地へと向かった。
して、正芳達一行が目指す沼地の前では、マリが率いる歩兵大隊の設営した大隊本部があった。
通常、大隊本部には、本来であれば大隊長が居るはずだが、当の大隊長は単独でルリを探しに行っており、今は大隊長代理として副官が指揮を執っている。
その大隊本部を守っているのは、元戦車小隊の小隊長で、現第1中隊中隊長のミホ・フジイ中尉と二個小隊を失った第3中隊の残余だ。
周囲には機関銃陣地や迫撃砲陣地などの強固な防御線が築かれ、兵士等が向ける銃口の先には、ゾンビや化け物の死体が転がっている。
死体はそのままとなっており、悪臭が漂っているが、いつ敵が攻めてくるか分からないので、片付ける暇はない。
「大隊長何処ですかね?」
中隊本部にて、書類整理をしているミホに、眼鏡を掛けた女性副官が今は居ない自分等の上官が何処でほっつき歩いているのかを呟いた。
「さぁ、知らないけど…あの人強いから生きてるよ、絶対に」
「そうですかね」
ミホが書き終えた書類を回収した後、副官はその書類を大隊本部に届けるために、この仮設の中隊本部を後にした。副官が出て行った後、ミホは天上を見上げ、自分の上官であるマリがどうしているのかを考察する。
「(まずは、大尉が帰ってこない所を考えて、まだ特定の人物が見付かってないこと。第2中隊との連絡は取れたけど、ここまで来るのに幾つかの時間と犠牲が出るかも。第3中隊の散り散りになった人達も、大尉と合流してくれれば嬉しいけど)」
自分の戦友達も心配しつつ、ミホはこれまでに消費した弾薬と武器のパーツを書類に記入した。
それから数時間、正芳達は幾度か交戦しつつ沼地まで到着した。
「次はこの沼地か…死臭がするな…」
辺りに広がる木々と、血で紅く染まったような沼を眺めつつ、貞夫は呟いた。
空は当然ながら夜空であり、月の光が木々の枝や草の間を差し込み、幻想的であるが、あちらこちらに倒れている死体がそれを台無しにしている。
敵に対しての警戒を行いつつ、地図にマークされた場所へ足を運んだ。
沼まで到着すれば、澄子が浮かんでいる死体を見て、口を押さえる。
「ちょ、なによこれ!?」
「水死体だ…どうやら今度は水死体が相手のようだな」
「水死体が相手…水に潜るとかしなければ良いけど…」
貞夫が澄子に対して言えば、貞夫は不安になってくる。
そんな不安を感じつつ、沼地の奥へと徐々に進んでいけば、紅い沼に浮かんでいる水死体が増えてきた。
「水死体、多くないか…? 這い上がって、襲ってきたり、しないよな?」
「おい、言うな! 襲ってきたらどうする!?」
イが進むたびに増えてくる水死体に対して言えば、ヨンが怒鳴りつける。
「うわぁぁぁ!? 襲ってきたァ!!」
だが、イの不安が不運にも的中してしまう。
沼に浮かんでいる水死体が何の前触れも無く突如動き出し、沼から這い上がって一向に襲い掛かってきた。近くに居たカリストは叫んだ後、手にしているAK47突撃銃を沼から這い上がってくる水死体等に向けて乱射する。負傷してマイジンガーに肩を抱えられているシュタイナーも、応戦に参加した。
「やっぱ水死体か!!」
カリストが撃った後に、貞夫等も向かってくる水死体等に向けて各々が持つ銃で撃った。
水死体は身体つきからして女性であり、死因からして溺死か散々犯された挙句に絞め殺されたか、肉食の魚介類の餌になるように、何度も刃物で刺されてそれらに食い殺されたかだ。
醜く膨れ上がった水死体もあり、かつては美しかったであろうが、今はその欠片も無い。
コンクリート漬けにされた死体と同じく、唸り声を上げながら一行に襲い掛かってくる。
「クソッ、クソッ、クソぉ!!」
イは銃を乱射しつつ、水死体等を近づけまいとしたが、数は異常なほど多く、水溜りの近くまで追いやられてしまう。
何故、水死体等は、浅い水溜りに追い詰めるのか?
それは十数秒後にイによって証明される。
「うわぁ!?」
操作が子供でも容易な突撃銃を撃っている最中、イは水溜り近くにおいていた左足を何者かに掴まれ、バランスを崩した。
「な、なんだよ!?」
その感触がする左足を覗いて見れば、真っ白な肌の女性の手が、自分の足を掴んでいた。
直ぐに振り払おうとするが、まるで錠に繋がれたように剥がれない。そればかりか、その水溜りに引きずり込まれていく。腰のホルスターから抜いた自動拳銃を撃ち込むも、狙いを誤って自分の足を撃ってしまう。
「助けてくれぇ!!」
大声で仲間達に助けを乞うが、誰もが水死体の対処で手一杯であり、誰もイのことを助けには来てくれなかった。
「そんな、嫌だよ…! 母さん、母さん!!」
絶望して母を叫びながら、イは水溜りへと引きずり込まれた。
水溜りの水深は、精々二から三㎝ほどのはずだが、動く水死体に取っては、ワープゾーンと同じなのであろう。
イが居ないことに気付いた貞夫は、即座に皆にこの場から離れるように告げる。
「イがやられた! お前等、沼から離れろ!!」
貞夫がそう告げれば、ダレンや真矢部等と共に殿を務め、一行を沼から離れた場所へ移動させる。
全員が移動したのを確認すれば、貞夫たちも一行の元へと向かった。
「よし、ここまで来れば…」
正芳は、この場を安全だと思ったが、まだ危機は去っておらず、次は銃を持ったゾンビが出てきた。
「じゅ、銃だなんて!?」
「こんなのありか!?」
銃を持ったゾンビを見て、遮蔽物となる木に身を隠した澄子が言えば、カリストは身を隠しつつ、大声で叫ぶ。
銃を持っているゾンビは、ろくな狙いをつけずに撃っているが、下手な鉄砲でも数撃てば当たるので、油断はできない。
「きゃっ!」
反撃しようとした百合奈が、肩を被弾して遮蔽物へ引っ込んだ。撃たれた箇所を押さえつつ、懐からガーゼを取り出し、それを傷口に付けて出血を抑えようとする。幸い、ゾンビが撃っている銃はライフルの類らしく、弾は貫通して残ることは無かった。
貞夫たちが合流すれば、銃を持ったゾンビ等の制圧は更に進み、やがては全滅した。
「終わったようだな…」
そう呟いて敵を一掃したかと安心しきったが、何名かは負傷しており、応急処置をしていた。
「で、これからどうするの?」
「あぁ、そうだな。えーと…」
止血剤を傷口に撒きながら、百合奈に問われた貞夫は、地図を見ながら確認した。
目的の場所を見つければ、沼地の奥にある湖に行くと一向に告げる。
「沼地の奥にある湖に行くぞ」
「えっ、沼地に戻るんですか?」
「いや、行かねぇと脱出できねぇだろ」
リーダーである貞夫が決めたことに、正芳は異議を唱えたが、尤もらしい言葉で納得させ終えなくなる。
「負傷者の血が止まったら、沼地に行くぞ!」
沼地に戻りたくない正芳は、嫌な表情を浮かべつつ、己の保身の為、貞夫の指示に従うことにした。




