コンクリート漬け
ウォーハンマーで、コンクリート叩けますかね?
正芳達は、まだ調べていない不気味な妖気が漂う洞窟へと足を踏み入れた。
出入り口と思しき場所へ一歩地面に着ければ、ただならぬ不安、そして寒気に恐怖感が先頭に立った貞雄の全身を襲う。
「っ!?」
「どうした!?」
これを感じた貞雄は直ぐに足を離し、洞窟から離れる。
初めて見た貞雄の動揺ぶりに、ダレンは彼の肩に手を置いて問い質す。
「さ、寒気だ・・・それにすげぇ不安と恐怖感・・・なんかやべぇぞ・・・」
ダレンの方へ振り返り、今感じたことを全員に聞こえるよう貞雄は告げる。
これを聞いた一同は、生唾を飲み、あの貞雄ですら震えるほどの洞窟を見て、ただならぬ不安を抱き始める。
しかし、そこへ行かねばここから脱出する手段に対する手掛かりが得られないので、覚悟を決めていくしかない。
そう決心した一行は、その洞窟の中へと入った。
「薄暗いな・・・」
正芳の言う通り、洞窟の中は薄暗く、懐中電灯の明かりだけが頼りであった。
ライトの灯りで暗い地面を照らし、光を頼りに進む中、澄子の肌に、冷たい肉の感触を感じた。
「なによ・・・?」
澄子はその方向へ灯りを照らしてみれば、鉄筋に串刺しにされた男の死体があった。
「ひっ・・・!?」
悲鳴を上げようとした途端、澄子の口は百合奈に口を塞がれた。
「駄目、悲鳴を上げたら何か来るかも」
百合奈に言われた通り澄子は無言で頷き、口元から手を離させて貰う。
他にもあるんじゃないかと思い、辺りを照らしてみれば、同じような死に方をした死体が他にもあった。
中には尖端に突き刺された首や腕、脚などあり、おぞましい光景が広がっていた。
「ちっ、またこの光景か」
「毎度毎度こんなのを見せられると、嫌になってくるぜ」
広がる光景にウンザリしつつ、一行は更に奥へと進んだ。
「おっ、光だ」
「もうすぐ近いのかな?」
エレンが言えば、エリナが手掛かりが掴める場所ではないかと希望を抱き始める。
光る方向へ向けて足を進める中、影が蠢いた。
その影を、一行は生存者が居ると思い、そちらに向かって確認した。
「おい、あんた、生存者か? ここは一体・・・」
「ウッヒャッヒャッヒャッ! アッヒャッヒャッヒャッ!!」
影の正体は男であった為、貞雄が近付いて問おうとしたが、その男の両目は潰れており、更に正気を失って狂ったように笑っている。
この男からは何も得られない。
そう思った一同は笑い続ける男を避け、光の先へと入った。
「おいおい、冗談だろ・・・!?」
その光が差す場所は、大量の死体と返り血を浴びて全身が紅く染まった人の形をしている化け物が居る広い空間であった。
始めに第一歩を践んだ貞雄は、目前に立つ血で紅く染まったコンクリートの化け物を見て絶句する。
手足は少々鈍くても完全に動いており、指の数も両手とも三本であり、人を握り潰す程の握力を有していた。
現にそれを証明している場面が、彼等の目の前で行われている。
「や、やめろ! 離せぇ!! お、おがぁ・・・!」
巨人に握られていた男は、握り潰されたトマトのように破裂した。巨人の足下には、握り潰されて落ちてきた男の内臓を混ぜた血がコンクリートの上に撒き散らされる。数秒後には、その上から握り潰された死体が落とされる。
「ボス部屋かよ・・・冗談じゃないって!」
真が言えば、何名かは逃げ出す準備をしたが、貞雄や百合奈、真矢部、マイジンガー、ダレン、クモン、ヨンの七人は挑む気でいた。
イカれている、クレイジーだ。
そう一同の誰もがそう思うだろうが、ここであのコンクリートの巨人を倒さねば、手掛かりは得られないだろう。覚悟を決めて、コンクリートの巨人へ向け、銃弾を撃ち込む。
やはりコンクリートで出来ているためか、銃弾は埋め込まれ、余り効果がないみたいだ。
「やっぱりコンクリートだから効かない!」
「そんなに堅いのかよ!」
銃弾では、効果がないと真は叫び、正芳は銃を撃つのを止めて何かコンクリートをぶち破れる物がないか探し始める。軍事関係者や知識を持つ者達は、その方法を知っており、攻撃しつつ、お目当てな物がないか目を周囲にやる。探しているのは、RPGと呼ばれる対戦車火器や、コンクリートを破壊できそうな爆薬類だ。
銃弾が当たって巨人のコンクリートの破片が撒き散らされる中、正芳は、彼等が欲する対戦車火器を見付けた。
RPG7と呼ばれる良く紛争地帯で民兵が手にしている対戦車火器だ。
東西冷戦時代にソビエト連邦で開発され、主に開発元国家と東側諸国、第三国、民兵組織に採用されており、冷戦後もAK47突撃銃と同じく大半の紛争地帯で良く目にする携帯対戦車火器だ。
そんな対戦車火器を見付けた正芳は、直ぐにでも拾おうとしたが、素人の正芳が使い方が分かるはずもない。下手に撃てば、自爆する恐れがある。
そこで、アドルフィーネの護衛官で、ドイツ連邦軍の現行装備であるG36A突撃銃を持つシュタイナーに知らせた。
「シュタイナーさん! あそこにコンクリートを潰せそうな火器が!!」
日本語で知らせた為か、ドイツ人である彼には通じない。
だが、アドルフィーネは何となく分かったようで、直ぐにシュタイナーに正芳が言っている事を告げる。
「あそこにあのコンクリートの化け物を倒せる対戦車火器があると仰っているようですわ!」
「そうですか。では、お嬢様、この場にいて下さい。私が取りに行きます!」
アドルフィーネが指差した方向へ向け、シュタイナーはRPG7がある場所へと走った。
だが、そう簡単に拾わせてくれるはずもなく、コンクリート漬けにされた女性等が地面から現れ、脚をくねらせ、遭遇したゾンビのように呻り声を上げて向かってくる。
完全にコンクリート漬けになっており、動きはかなり鈍いが、生きながら固められ、強張った表情が印象的だ。
散々痛め付けられ、犯され続けた挙げ句、口封じに生きながらコンクリート詰めにされたのであろう。その悲惨な最期には同情するが、ここから出たい彼等に襲い掛かれば敵だ。自分等に害する物は、排除しなければならない。
「同じような奴等か!?」
イが叫び、先程のコンクリート化している男達と同類と思って銃撃するが、全身がコンクリート化している為か、効果がない。
そこで、間接部へ向けて銃弾を撃ち込んで見た。
「おっ、やっぱりそこは脆いか!」
撃たれた箇所である腕が取れた所を見逃さなかった所で、間接部が弱点であることが判明した。
間接部が弱点と分かったところで、向かってくるコンクリート漬けにされた女性の間接部へ向け、銃弾を撃ち込んだ。
着々と手足を銃弾を撃ち込んで砕いていくが、這いずりながらも襲ってくる。
そんなコンクリート漬けにされた女性達を避けつつ、シュタイナーはRPG7が手の届くところまで来たが、足の裏を付けているコンクリートから鉄筋が飛び出し、それが左足を貫通してバランスを崩して転んでしまう。
「しまった・・・」
転んだ瞬間、彼は諦めかけたが、目当てのRPG7はヨンが取ってくれた。
彼は世間からならず者国家と指定されている北朝鮮の特殊部隊員なので、RPG7の使い方は手慣れており、弾頭部の安全ピンを外し、本体の安全装置を外したところで、引き金に指を通して、上にある照準器をコンクリートの巨人の間接部に合わせる。
標的にした間接部は、脚の関節部だ。バランスを崩しさえすれば、勝機は自ずと見えてくる。照準が定まり次第、ヨンは引き金を引き、弾頭を発射した。
後部の排出口から高圧のガスが噴出し、弾頭が勢い良く目標へ向けて飛んでいく。間接部に命中し、コンクリートの巨人はバランスを崩して膝を地に付ける。この好機を見逃さず、戦鎚を持つ貞雄に、澄子が叩き潰すよう告げる。
「ねぇあんた! それハンマーでしょ!? 早く叩き壊しに行きなさいよ!」
「あぁ!? これ戦鎚だぞ! コンクリートハンマーじゃねぇんだぞ!? 第一電動じゃねぇと壊せねぇよ!!」
ハンマーを同等と思っている澄子に、貞雄は物凄い剣幕でツッコミを入れた。
戦鎚なら行けると思うが、戦鎚は読んで字の如く戦闘用のハンマーであり、それが登場した当時はコンクリートなど存在しない。
鎧を身に着けている人を叩き殺すために設計しているため、鎧よりも堅いコンクリートを叩けば、木造の柄の部分が折れてしまう可能性がある。
ここは、RPG7の再装填が終わるまで我慢するしかない。
「兎に角RPGの次弾だ! 早く装填しろ!!」
「駄目だ! 次弾が見付からん!!」
「だったら探せ!!」
ヨンに再装填するよう銃声に負けないくらいの声で告げるが、驚いたことに予備弾が無いので、それを知らせれば、貞雄は探すように怒鳴る。
これに従い、ヨンは次弾を探した。無論、正芳や澄子、他の者達も総動員してだ。
それを妨害するように、コンクリート漬けにされた女性達が彼等にも襲ってくる。
「シュタイナーには指一本も触れさせません!!」
「申し訳ございません、お嬢様・・・」
アドルフィーネは、負傷して動けないシュタイナーの隣に着き、守るために途中で調達したMP5A5短機関銃を撃つ。
流石に拳銃弾ではコンクリートは砕けるはずもなく、徐々に追い詰められていく。
その間に真は、ボス部屋に良くありそうな扉を探して見つけ出したが、典型的にボスを倒せないと、開かないそうだ。
「ここまで再現かよ!!」
開かないドアに対して腹いせにAK47突撃銃の7.62㎜弾を数発ほど撃ち込んだ後、銃口を迫るコンクリート漬けにされた女性等に向けて撃ち込んだ。
流石は大口径なのか、容易にコンクリートは傷付き、蹌踉ける。
一方の正芳は、コンクリート漬けにされた女性等から逃げながら、RPG7の弾頭を探していた。
「(何処だ・・・? 何処にある・・・!?)」
息を荒げ、脚を動かしながら周囲に目を配り、弾頭を探し回る。
よく目を凝らして探していれば、それらしき物を背負った死体を見付けた。
「あ、あった!」
直ぐにその場へ向けて全力疾走する正芳。だが、それをさせまいと、鉄筋が下から突き出てくる。
「うわぁぁぁ!!」
叫びながら突き出てくる鉄筋をかわしつつ、正芳は目当ての物を持つ死体へ走る。
「痛ぇ!!」
一本の鉄筋が、正芳の右脚を擦り、皮膚を引き裂いて欠陥を傷付け、血を吹き出させた。
右脚の痛覚を感じた正芳は、もう少しの所でバランスを崩し、死体に覆い被さる形で転んだ。
「は、早く・・・!」
急いで死体から弾頭を引き抜こうとするが、何処かに引っ掛かって抜けない。
無理矢理にでも抜こうと力を込めて引き抜こうとするも、中々抜けない様子だ。
「何してる!? 早く持ってこい!!」
ヨンからの叫びが来て、正芳を焦らせる。
更に彼を焦らせる事態が発生した。それはコンクリートの地面から突き出る鉄筋だ。これに刺されてしまっては、シュタイナーのように身動きが取れなくなる。
早く抜かなくては・・・!
そう焦る正芳は、ナイフでショルダーストラップを切る事だ。焦って脳の回転がしていないのが、ある意味正しい選択といえる。抜けないのであれば、そのまま持って行けば良いのだから。
ストラップを切った正芳は、弾頭が入った背嚢ともヨンの元へ持って行き、それを彼に渡した。
「やっとか!」
そう言ってヨンは、素人の正芳とは違う手慣れた手付きで弾頭を引き抜き、弾頭を本体にセットした。
慌てていなければ、正芳でもすんなり抜けた物だが、特殊部隊員の彼は、常に冷静な判断を行わせるために訓練されているため、ヨンは常に冷静でいられるのだ。
ピンを外してコンクリートの巨人に構えれば、照準器を合わせ、直ぐに引き金を引いた。
弾頭は頭部に命中し、コンクリートの巨人を見事撃ち倒した。頭部を失った巨人は崩れ去り、周囲に破片をばらまかせる。それに伴い煙が発生した。
「やった・・・!」
「まだだ・・・!」
倒したので正芳は喜ぶが、AK74突撃銃を構えるヨンが黙らせる。
煙が晴れれば、巨人の残骸の真ん中に、若い女性が横たわっていた。
ウォーハンマーで残りを全て始末した貞雄が近付き、AK74の銃口を突き付ける。
数回ほど突き付けても反応がなかったため、脈を調べてみれば、全く動いていないことに気付いた。
「死んでる・・・やっぱ怨念関連か・・・」
「ふぅ・・・」
敵が全滅したことを貞雄が言えば、一同は警戒を解いて、先程真が調べていたドアの前に集合した。
開くかどうかを確かめるべく、ドアノブを掴んでみれば、すんなりと開いて中に入れるようになっていた。
「おっ、開いた」
「やっぱりこのパターンか」
貞雄が開けたのを、真は納得しつつ、一行は中へと入った。
お次は水死体回かな?




