君の抜け殻
五割ぐらいのフィクション
段々熱を失う君の手を握りしめる。
ボクの熱が君に移ればいいのに。いっそ、ボクの熱の全てが君に奪われても構わない。それで君が温まるのならそれでいい。
だけど、それが無理だって事もわかっている(ボクの手は冷たい)。
それでもどうか、ここに、ボクの傍に君がいてくれと願う。君がいてくれた日々の全てがボクを支えてくれている。
骨と皮ばかりになった君の体は、先が長くない事は知っているけれど。
君は苦しんでいるのだろうか。生かそうというのはボクのエゴにすぎないのだろうか。本当は死を望んでいるのではないだろうか。
疑心暗鬼は尽きないが、それでもボクは君に生きてほしい。生きて、また君と穏やかな時を過ごせるようになりたい。
君は苦しみをボクに訴えてくれないから、ボクにはわからない。けれど、苦しんでいないわけではないだろう。
君の体はもうあちこちが悪くなってしまっているのだと医者も言っていた。その小さな体には、もう大分ガタがきているのだ。
君との別れの時はもうすぐそばに迫ってきているのだろう。
か細い君の息は、それでも生への執着を示すかのように必死なものだ。虚空を見つめ、僅かに眇められた目にボクは映っているだろうか。
君の手をボクの手で包み込む。せめて、ここに、君の傍にボクがいるという事を、君にわかっていてほしい。さいごまで、君が寂しくないように。
段々体から力が抜けていく。
君が、その骨と皮ばかりになった体からいなくなろうとしているのだ。
いかないでと君の名を呼んだって君は答えてはくれないのだ。
君の手から伝わっていた鼓動が薄くなり、ついには動きを止める。
どんなに呼びかけて体を揺すぶっても、君は答えない。君はもう、ここにはいないのだ。
君のいない体はただの物体に成り下がっていた。
抱き上げて、その軽さに変な笑いがこみあげてくる。
ああ、君はこのなくなった重さの分だけ苦しんでいたのだろう。
涙が視界に滲むが、溢れ出ては来ない。君を失った空虚を埋める為に涙があるのなら、これっぽっちで足りるわけはないのに。
これまで一緒にいてくれてありがとう。
よく頑張ったね。
今まで本当にありがとう。
大好きだよ。
言葉は上滑りするばかりで空虚だ。
それでも、君にこの心が届くのなら、ボクは言葉を紡ぐ。
無理をさせてごめんね。
これまでありがとう。
ボクは本当に君が大好きだったんだ。
君がいなくなるのは寂しい。
でも、もう君は傍にいてくれないんだね。
お別れだ。
君の体だったものは数日中に焔で燃やされるだろう。
その煙とボクの涙が君を天へ導くしるべになればいい。
君は天の国で静かに暮らせばいい。
ボクもいつか、そこへ行くから、その時にはまた、一緒に穏やかな時間を過ごせたらいいな。
ああでも、寂しいよ。
寂しくなる。
ずっと一緒にいた君が傍にいないのは、寂しい。
もう君に会えないのは寂しい。
君と触れ合えないのは、君の声が聞こえないのは、君の姿が見られないのは、君の匂いがしないのは、寂しい。
寂しい。
寂しくて、涙が溢れるよ。